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原付ライダー青春グラフィティ (15)

15.2スト車は速い・軽い・機構がシンプル

 最初に、自分は小排気量でかつ2スト(2サイクルエンジン)が好きだ…と書いた。小排気量エンジンが好きな理由は先に書いた通りだ。では、なぜ2ストが好きかと言えば、要するに軽くてパワー(トルク)があって構造がシンプルだからだ。これまでに見てきたように、原付一種・二種など1970年代~80年代にかけての小排気量車の名車、高性能車はすべて2スト車だと言っても過言ではない。

 2ストロークエンジン車は、その特性上、最大馬力(トルク)が高い、部品点数が少なく車体が軽いなどのメリットがある。ごく当たり前の話だが、バイクはパワーとトルクがあって軽量な方が速いし乗って楽しいに決まっている。そしてエンジンの構造がシンプルならば、整備もチューンも簡単だ。そして部品点数が少ないから製造コストが低い、つまりバイクが安価になるということだ。そして全く個人的な話だが、僕は2ストエンジンの「音(主に排気音)」が好きだ。特に回転を上げた時の音が大好きだ。加えてエンジンオイルが燃える排気の匂いが好きだ。植物性オイルだったカストロールR30の甘い香りはたまらない…。

 エンジンの構造のシンプルさは、整備性の良さと同義だ。2ストエンジンは素人でも簡単に分解して整備ができる。4個のナットを取り外せばシリンダーヘッドが外れ、さらにシリンダーを抜き取ればピストンが現れる。2ストエンジンは4ストエンジンとは違って、すぐにピストンにアクセスできるのだ。特に空冷2ストエンジンは分解が簡単だ。一方4ストのエンジン、ましてやツインカム(DOHC)エンジンなんて、素人が分解するのは絶対に無理とまでは言わないが、分解・組立・調整は非常に難しい。

 2021年現在、国内で販売されている日本メーカー製バイクで2スト車はない。いや正確に言えば、海外生産された海外市場向けバイクで数機種購入可能なものがある他、トライアル車など海外メーカーの現行2スト車を輸入することは可能だ。しかし、一般的な意味では、国内メーカーは2ストバイクの生産をやめている。非常に悲しい

 ここであらためて2スト、すなわち2ストロークエンジンの構造、4ストロークエンジンとの違いを説明するまでもないだろうが、蛇足を承知で少し詳しく書けば、次のようになる。

 ガソリン内燃機関の原理は単純で、気化したガソリンと空気と混ぜた混合気をシリンダーに送り込み、ピストンで圧縮する。そこに火をつけて混合気を燃焼・爆発させてその力でピストンを押し下げる。そのピストンの直線運動を回転運動に変える…というものだ。

 4ストロークエンジンが「吸気」「圧縮」「燃焼」「排気」の4つの行程をエンジン2回転(ピストン2往復)で行うのに対し、2ストロークエンジンは「吸気/圧縮」と「燃焼/排気/掃気」の2行程にまとめて、エンジン1回転(ピストン1往復)で行う。この行程の違いによって2ストロークエンジンは、4ストロークエンジンと比較して次のような特徴が生まれる。

・4ストロークエンジンは2回転に1回、2ストロークエンジンは1回転に1回燃焼によるトルクが発生するので、理論上は4ストロークの2倍のトルクが得られる。
・吸排気弁が必要なくなる。ピストンの上下運動によってシリンダーの壁面に設けた各ポートを開閉して、混合気の吸入や燃焼ガスの排出を行う。
・4ストロークエンジンには無い、圧力の高い吸気で燃焼ガスを押し出しながら同時に新しい混合気を吸入する「掃気行程」が存在する。
・タイミングよく弁を動かすための複雑な機構を持たないので、構造がシンプルで部品点数が少ない。結果としてエンジンを軽量・コンパクトにできる。

 何度も繰り返すが、2ストロークエンジンは、部品点数が少なシンプルで、軽量・コンパクト。結果的に製造コストが安価でバイク全体の重量軽減も可能。それでいて、同じ排気量なら理論上は4ストロークエンジンの2倍のトルク(回転力)を得られる…となると、いいことずくめである。そして、実際に過去に製品化されたバイクを見ても、同じ排気量なら2スト車は4スト車よりも馬力・トルクともに高く、軽量だ。特に中・大排気量の2スト車は、高馬力で速いだけでなく、中・低速トルクがあって乗りやすいバイクが多かった。これだけを聞けば、なぜ2ストロークエンジンが衰退したのか誰もわからないだろう。

 2ストロークエンジンには、大きな欠陥・デメリットがある(…ということにされている)。掃気行程で混合気と燃焼ガスが混じり合うため燃焼が不安定になりやすい。また混合気が排気ポートから吹き抜けてしまうので、燃費が悪くなり、また排気ガス特性(不純物の混入度合い)が4ストロークより劣る。

 また、掃気を利用した混合気と燃焼ガスのガス交換の効率は、運転条件によって大きく変動するため制御しにくい。ある意味で2ストロークエンジンの燃焼は「成り行き任せ」であり、厳しい排ガス規制への対応や優れた燃費性能は実現できない。…というのが2ストロークエンジンが衰退した理由だ。

 しかし、2ストロークエンジンは、けっして「消えた」わけではない。現在でも2ストのバイク用エンジンは作り続けられている。技術の進歩によって燃焼のコントロールを高度化して、ユーロ5の排ガス規制をクリアしたエンジンも開発されている。2ストロークエンジンの将来がどうなるかは、まだわかっていない。

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