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原付ライダー青春グラフィティ (12)

12.Dash(ダッシュ)125RSの話

 これは70年代ではなく最近の話だが、125ccクラスの2スト車で、どうしても忘れられない車種がある。それはタイホンダが発売していた「Dash(ダッシュ)125RS」というバイクだ。後述するように、僕はもうここ6~7年間まともにバイクに乗っていない。その僕が最後に乗り回したバイクの1つが、ホンダ「Dash(ダッシュ)125RS」だ。しかも、日本国内ではなく現地タイで乗り回した。

 国内市場が大きく縮小した日本のバイクメーカーにとって、アジア全体、特にインドと東南アジアは大きなマーケットとなっている。タイやカンボジア、ベトナムなどではスクーターがあまり売れず、小排気量分野では独特のスタイルを持つアンダーボーン車が多い。ホイール径が大きいアンダーボーン型のバイクが売れるのには、理由がある。これらの国では地方を中心に未舗装道路が多く、小径ホイールのスクーターでは走破性と乗り心地に問題が出てくるからだ。タイの首都バンコクでも、ちょっと郊外に出れば未舗装路は多い。雨が多いので、未舗装道路はすぐにぬかるみだらけになる。同じアジアでも、道路の舗装が進んでいる台湾ではスクーター文化が発達しているのとは対照的だ。

 タイでは日系メーカー、ヤマハ、ホンダ、カワサキが日本国内にはないコンセプトの多種のバイクを展開しているが、中心となるのは100cc~200ccのアンダーボーン(メインフレームが足元近くまで下げられた骨格)の車だ。

 タイのアンダーボーン型バイクの話を書くのであれば、「アジアロードレース選手権」についても触れておこう。アジアロードレース選手権は、現在ASB1000クラスを頂点にSS600、AP250、そしてUB150の各クラスで開催されている。このUB150(Underbone150cc)は、その名の通り150ccのアンダーボーン型バイクで行われるレースで、このクラスがタイでは非常な盛り上がりを見せているのだ。2012~2016年まではUB130クラスだったのだが、2017年からUB150へと変更された。UB150クラスは8周という短い周回数で争われるレースだが、多くの10代の若いライダーたちが参戦している。タイではUB150クラスの勝者は英雄だ。またホンダ、ヤマハなどの日本メーカーもUB150クラスのバイク開発には非常に力を入れている。

 このアジアロードレース選手権の盛り上がりもあって、昨今のタイ、特に首都圏のバンコクでは、スポーツバイクのブームが起きていて、日系メーカーもここ数年は150~200ccのスポーツバイクを積極的にラインアップするようになっている。ともかくタイではバイク好きが多く、スピード狂も多い。バイク雑誌もたくさん刊行されている。

 現在、タイの各所で様々な規格のローカルレースが行われている他、バンコク郊外などでは15年ぐらい前から草レースのような素人バイクレースも盛んに行われており、アンダーボーンフレームのバイクをチューンして参加しているライダーがたくさんいる。チューンアップショップもあちこちにある。

 2013~14年頃だったか、バンコクから少し南へ下ったところにあるシーラチャという町で仕事があり、週末に時間が空いたので、現地の友人と一緒にレンタルバイクを借りてパタヤへ行こうという話になった。レンタルバイク屋に行って見つけたのが、ホンダDash125RSである。なんと2スト車だ。試乗してみるととにかくパワーがある。聞くと水冷2stで22馬力、そして6速ミッションだ。日本の2スト車全盛時代でも125ccで22馬力なんてバイクはまずなかった。派手な色はともかく、アンダーボーンの地味なデザインと見た目とは大違いで、かっ飛ばすために作られたようなバイクである。結局これを2台借りて、パタヤへと向かった。シーラチャからパタヤまでは7~80kmしかない。道がすいていたので年甲斐もなく飛ばしたら、1時間ちょっとで着いてしまった。当然、パタヤでも散々乗り回した。酒を飲むよりDash125RSで走る方が面白くて、ほとんどバーやクラブへも寄らず、妙に健全なパタヤ旅行になったのがお笑いだ、

 走れば走るほど、このDash125RSは面白い。アンダーボーンでタンクが無いからニーグリップは出来ない。フロントは一応ディスクブレーキでけっこうよく利くが、荒れた路面が多くてフルブレーキングは怖い。タイヤはかなり細いのでグリップには不安がある。なのに、エンジン性能が異様に高くバカみたいにスピードが出る。見かけによらず「怖いほど速い」バイクなのだ。スピードメーターの目盛りは200km/hまで刻んであるが、タコメーターはない。

 後でバンコクに戻ってから知人とホンダの販売店を訪れていろいろ聞いたのだが、Dash125RSは最高速が130~140kmは出るらしい。現地のスピード狂には非常に人気があって、アフターパーツも多く、各地で行われる草レースの常勝マシンだとのことで本気で欲しくなった。

 タイのバイクは日本でも多くの輸入代理店が扱っており、数年前まではこのDash125RSも簡単に購入できた。現在ではタイホンダは2スト車を生産・販売しておらず、当然ながら2ストのDash125RSも4~5年前にカタログから消えた。惜しい話である。むろん、アジアロードレース選手権のUB150クラスも、2スト車は走れず4スト車のみだ。

 タイヤマハやタイカワサキもつい最近まで2スト車を生産・販売していた。前にちょっと書いたが、タイカワサキで2スト・ロータリーディスクバルブのKH125を2010年頃まで新車で販売してたのだから、つい最近のことである。70年代後半の日本国内仕様車そのままの姿で、後部にデカいキャリアが付いていた。4~5年前に仕事で訪れたバンコクで、よく手入れされた新車同様のKH125を街で見かけた時には、懐かしくて涙が出そうになったものである。

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