【書評】齋藤孝のざっくり!日本史/齋藤孝

……00.概要

この本では、日本で起こった歴史的な革命・出来事から、それらがどのように日本人の意識に変革を起こし、現代に繋がっているのかを筆者の目線から書かれています。

具体的な出来事として8つの切り口から、日本を紐解いていきます。

……01.「廃藩置県」と明治維新

明治時代に廃藩置県を成功させた日本という国が、異例な国だということを知らないだろう。

例えば、フランス革命では市民が支配階級のトップである王を処刑することによって立場が逆転した。

しかし、廃藩置県は各藩の支配階級である武士が、自ら作ってきた制度をあっさりと変えて、藩を廃止し、江戸から送られてくる人に席を空けてしまったのだ。普通であれば「いやだ、退きたくない!」となるところである。

これには理由があり、当時世界のイギリス、フランス、アメリカが桁違いに強いことが薩摩、長州と諸外国の戦いによって明らかになったのだ。藩のリーダーたちは自身の力のなさを受け入れて、尊王攘夷の考えは捨て、諸外国に学ぶ姿勢へと切り替えたのでした。

ただ、当時の武士は藩を守ることを生業としていましたから、いきなり信頼していた藩主がいなくなるのは驚くばかり。ですが、これが日本人!お殿様(藩主)が自ら痛みを味わって国を良くしようとしているのだから、我々も職を失ったとしても国が変わるために従うのだ、という気持ちになったのでしょう。

……02.「万葉仮名」と日本語

文字というのは、文明を発展させるために最も大切なツール。文字が知識を堆積させ、後世に残していく役割を担うのだ。

では、日本ではいつ頃文字が確立されたのだろうか。

日本で最初に使われていたとされる「やまとことば」は文字を持たない言語だった。日本の文字は中国から漢字を輸入したところから始まる。しかし、面白いのは漢字という文字だけいただいて、中国語の構造は取り入れていないことだ。輸入の文字を変形させて意味だけ残し、自国の言語にあてがって、適用できるかたちに作り変えてしまった。このように、漢字をやまとことばに当てはめたものを万葉仮名と言います。他人が作ったものの一部だけをいただくこの抜け目なさが、まさに日本的でもある。

日本人の独特なセンスが現れているのは、万葉仮名・平仮名・カタカナを使い分けたところであろう。意味を含む漢字、柔らかさのある平仮名、硬くて外来的なイメージのカタカナ。日本人の繊細な感性が文字によって表現できるようになったのです。

また、明治時代の翻訳語の発明は、日本の近代化をいち早く推し進める基礎を築いたのでした。当時の人々が漢字の素養があり自在に使いこなしていたため、翻訳語の感覚をどんどん自分のものとし、ありえないスピードで社会に浸透させたのでした。ex)基準・宗教・社会・権利・芸術・基準etc.

これが、明治維新の西洋化をものすごいスピード感で進めた要因の一つなのである。柔軟に西洋化に頭を切り替えられる日本人だからなし得たのだろう

……03.「大化の改新」と藤原氏

良く考えると、日本はなぜ「政府」と「天皇」が別なのだろうか。それは、大化の改新に遡る。

中大兄皇子と中臣(藤原)鎌足が、当時権力を握っていた蘇我入鹿を暗殺し、その後、天皇を名目上のトップとしつつ藤原氏が実権を握っていくのが大化の改新だ。これで何が起こったかというと、天皇は神の子という地位を利用して、あたかも天皇が決めたかのように、No,2の藤原氏が実質政治を動かしていくことになったのだ。藤原氏の巧妙な政権は、摂関政治としてその後も続き、長期間に渡り藤原氏の繁栄を維持し続けたのだ。

※ちなみに、天皇は神の直系子孫であるというのは、藤原氏が作り上げたもの

こうして、日本の政治の特徴は権威としてのトップと実質的なトップが併存し、実質的なトップは常に社会的にNo,2の地位おり、天皇は今に至るまで存在しているのだ。

……04.「仏教伝来」と日本人の精神

仏教はもともとインドで発祥し、中国、挑戦と渡ってくる間に様々な解釈が加わって日本に伝来する。その本質的な教えはあらゆるものを捨てて、その先にある諦めに似た平安の境地こそ、仏教の目指す姿であるということだ。例えば、キリスト教は経典にしたがってプラスポイントを得ていこうとする宗教に対して、仏教は悪いものを減らして、「無」に行き着く宗教なのだ。

ですが、日本では解釈を変えてしまって、鎮護国家(国を守る)としての役割を仏様がになったのでした。奈良の大仏さまの様が大きいのは、守りべきものが国という大きなものだったからですね。本来の仏教とはかなりずれているが、日本国家は勝手に巨大な像を作り、国を守ってください!と図々しくもお願いしてしまった。

また、もともと神道が普及していた日本に仏教が浸透したのは、八百万の神がいるという神道に、あと一人お釈迦さまが加わっただけであったからだ。そう、これもまた、日本人のゆるさが共存を許したのだ。神社は神道で、お寺は仏教。その2つの宗教が共に存在している。

この様に仏教が定着している国は稀で、仏教が浸透している国は穏やかなイメージがある。例えば、切れているお釈迦さまは想像できないが、アッラーやエホバは激しいイメージがある。神は人の冷静さを失わせて、高揚させ、無茶をさせる。それが戦争を招くのである。

仏教で大切なのが「禅」の思想。自分自身と向き合い、無を受け入れること。自然と一体化し、宇宙と一体化し、あらゆる欲を削ぎ落としていく。そうすると、たとえ近所の家で火事があり、自分の家も燃えてしまっても、それを受け入れ前向きに生きていく。かつてこうした、マインドコントロール能力に長けていたのだ。これは日本人の素晴らしい精神性だと思う。

現代においても、除夜の鐘をきく、書道の隅を黙々とすること、そんなのは禅の思想なのである。

……05.「三世一身の法」とバブル崩壊

三世一身の法とは開墾者から3代までの墾田私有を認めた法律。それまでは、土地は全て天皇のもの(公地公民)。この法律によって、それまで潜在的に眠っていた自分の土地をもつという欲望を目覚めさせてしまった。

この、目覚めさせてしまった感情が、のちのバブル崩壊に繋がっていく。

この時から土地の所有に関しては様々な政策が行われる。

三世一身の法により、土地は与えられたが、せっかく耕した土地も3世代後は没収されてしまう。しかも、一人一人に同じ面積の土地が与えられても、良い土地と悪い土地があり、貧富の差が生まれていく。そのため人々は土地を手放し始めた。

次に荒廃した土地を再生させるべく、墾田永年私財法が発行される。今度は機嫌がない。しかし今度は、大土地地主と労働者を産んだ。豪族や、寺院はどんどん開拓し、労働者を雇い力をつけた。これがやがて荘園制度となり、力のある荘園領主は政治とコネクションし出した。

そこで今度は、豊臣秀吉により太閤検地を行う。これは、各土地に価値をつけて、同価の土地を一人一人に与え直したのです。ここで荘園制度で作り上げた土地の複雑な権利関係をチャラにしたのです。ですがこれは、私有地から公有地となり、豊臣秀吉の土地を貸し出すといったイメージです。

これが江戸時代も続き、本当に土地を持てる様になったのは、明治の地租改正です。注目すべきは納税対象は、耕作者ではなく地検の発行された土地の所有者です。 私は、この時の土地と使用者が分離されている現代の不動産事業が生まれたのだと感じた。

最後に土地の仕組みを解体したのはGHQによって行われた農地改革。大地主から小作地を安く買い上げ、小作人に売り渡す。土地というのは放っておくと権力者に集中してしまう。集中して不平等が生じると、大きな力がチャラにして、これの繰り返し。

現代も集中が加速しているが、そう簡単に変革は起きないだろう。変え流には、支配層の転換もしくは外力が加わらなくては不可能。ただ、歴史的にはなんども土地の価値や所有物を取り上げられてきたのだというのも事実。

そして、作り上げた土地の価値が一気に転換したのがバブル崩壊。土地を所有する欲望に目覚めた人間たちは、土地幻想、土地神話を信じ、崩壊していった。

……06.「鎖国」とクールジャパン

鎖国をしていた220年間、平和な日本で文化が成熟し、アイデンティティが生まれた。この頃、人々のエネルギーは内へ内へと細かなところに向かった。それが、浮世絵、ゲームや漫画という文化、さらにはウォシュレットの様な繊細なものを生み出す国民性となった。

何か一つの事件が起こるとワーワーと一気に騒ぎ、すぐに鎮火する。低俗だけどある種パワーがある。たとえばオタク文化や妙にコアなところをいくアダルトビデオなど、日本にしかない独特な文化だ。

この様に、うちで煮込まれた思考は、外部と接触した時に爆発的存在感を発揮する。

たとえば、若いうちに何か自分独自のものを出したいと思った起き、一人鎖国してはどうか。世の中の情報全て遮断し、取り組んでいるテーマに没頭薄る。自国内だけで通用する様な、しかもピンポイントで突き詰めて行ける様なものが、やがて弾けた時にすごい市場価値を持つだろう。

……07.「殖産興業」と日本的資本主義

殖産興業とは、産業を育てていくことです。明治維新における日本の近代化、とりわけ資本主義の導入はものすごいスピード感で発展した。

その理由は西洋からモノを輸入してきたのではなく、システム丸ごと輸入し、日本版にアレンジしたのだ。具体的には、銀行の仕組みを輸入し、一度ある程度資本を集中させ、将来のある企業や工場に融資していく。こうして企業を育てていく仕組みを取り入れた。また、様々な企業を創設し国力を高めていったのだ。

ものと一緒に、システムを導入できなかったアジア諸国は、今でも自国で栽培した食物を自国で消費できずに海外に吸い取られるのだ。

今、日本は植民地化の危機にあるのはご存知か。外貨ファンドが流入し、金融市場のグローバル化が進んでいる。その最大の要因は銀行が機能していないこと。バブル期の放漫経営のあげく、大量の不良債権を抱えて、公的資金投入を下にも関わらず、最終的には破綻。総額七兆九千億円もの公的資金を国民に押し付けたにも関わらず、最終的に10億円で、アメリカの企業に売却してしまった。

日本の資本主義は、グローバル化に流されることなく、システムを日本版にアレンジしていく必要がある。

……08.「占領」と戦後の日本

太平洋戦争敗戦後、アメリカはものすごいスピードで日本を占領した。アメリカの文化人類学者が書いた「菊と刀」は、日本文化について述べられた論文で、戦時中に書かれた。すでに日本人をどの様に占領下に置くべきか準備されていたのだ。

敗戦を認めてからGHQは5つの改革を行う。

1,憲法の自由主義化と婦人参政権の付与

2,労働組合の結成奨励

3,教育制度の改革

4,秘密警察などの廃止

5,経済の民主化

これらの目的は日本を再び強力な国にしない様にするための政策。

まずは、軍隊の組織を改革し、次に思想教育で軍国主義はいかんという教育をした。また、経済の国際競争力を落とすために、低賃金でせっせと働き生産する人々を減らすために、土地を与え、賃金をあげた。(農地改革)

もう一つは、財閥解体。当時の4大財閥はものすごい力を持っており、決定権は全て一族にあった。財閥と政治は密接な関係にあったため、簡単にお金を集められない様にした。

また、天皇の神性を裏付けていた建国神話も削除した。

ただ、予想外だったのが、GHQの思惑とは裏腹に、日本人の経済的モチベーションをあげたのも事実で、女性には参政権、子供達には自由と民主主義を教え、小作人は土地を得て、労働組合で主張できる様になった。それが結果的に、戦後高度経済成長をもたらしたのだった。日本人の前向きな性格が現れている。


以上、8項目から考える日本の歴史と現在でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?