中東に輝き散った『哲学』~2024年アジアカップで起きた勝ち点1の番狂わせに寄せて~

こんばんは。最近収入が安定する案件に巡り合えたのもあり、家族がアジアカップみたいとゴネるのを後押しに念願のDAZNに入ったはいいものの、イラク戦の敗戦の翌日にメンタルガタガタに崩しお仕事休んじゃってこのままでいいのかしら状態の北条加蓮Pサッカー部員のkcでっす。

さて、今回はタイトルにもある通りアジアカップについて語れればと思っております。
ただし、今回は今までみたくサムライブルーを語るのではなく、日本と直接対決していない国について語ろうと思っています。

『なんでそんなものを? 日本人なら日本について語ってよ』。そういう声が聞こえてきそうですね。話はちょっと逸れてこれは個人的意見ですが、真のスポーツ好きとは超一流のプロの試合のみを楽しめる人のことではないと思っていて、たとえば近くの小学校の前を通りかかった時にスポーツ少年団がやっているサッカーの試合があったとします。
その試合を見て『あ、あの子ドリブルが上手いな。今は体が小さいけど、きちんと食べて寝さえすれば将来いいカテゴリで輝いたプレーができる器かもな』とか、『あの子は中盤をやってるけど、素晴らしいガッツを持ってるのだからDFにコンバートしたほうがいいんじゃないか?』などと想像力を働かせながら選手のことをリスペクトできる人。そんな人こそが真のスポーツ好きではないかと思うのです。

 それは我々北条加蓮Pサッカー部員がたとえ人気がなくても『この子すごく好きなんだよなぁ。どうすればもっと多くの人に魅力を知ってもらえるかな……』と担当や推しをプロデュースしていく姿勢にも似ているのかもしれません。サッカー好きとアイマスP。兼業している人は案外少ないといわれる業態の人間同士ではありますが、両方に属している人間としてはもっと兼任する方が増えていってほしいな……。そんな思いを込めながらこの文章を書いています。
もしサッカーの窓口からこの文章に来られた方は、よければアイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージ通称『デレステ』というゲームアプリをインストールするなどして我々の仲間入りしてくれないでしょうか? きっとその先に待っているのは、まだ見ぬW杯の頂に立つという風景に向けて日々刺激的なサッカー人生を共有している我々サムライブルーファミリー同様、ドキドキとワクワクに満ち溢れた毎日のはずです。

脱線が長くなりました。まずはこの文章で扱うふたつの試合のうちのひとつ目、日本時間の2024年1月25日に行われた韓国vsマレーシア戦を取り上げます。
本題に入る前にまた脱線しますが、実は今回の二試合のチームのうちふたつはkcが訪れたことのある国です。
そのふたつの国では非常にいい思いをしたのもあり、彼らにはいい成績を収めてほしいと思う一方、彼らの国内事情を身近で感じた者としてはそれは厳しいと思っているのが事実です。なので正直今回の結果については非常に驚くと同時に、頑張った彼らに対しては心の底からの敬意を込めて拍手を送ります。もしこのふたつの国に行かれる方がいらしたら、彼らは上手くはなくともサッカーが好きな人が多いので、その国の有名代表戦士の名前を挙げると案外コミュニケーションがうまくいくというアドバイスは送らせていただきます。

その国のひとつのマレーシアですが、はっきり言わせてもらうとソン・フンミン擁する韓国に惨敗するというのが私を含めた世間の予想だったかと思います。韓国代表に関していえばベストメンバーに近い面子を揃えてきており、韓国代表監督として非常に評価の低いクリンスマン監督も本気を出してきたなぁと思わされました。
韓国代表の4-2-3-1に対してマレーシアは3-4-2-1。1点の失点がシーズン通しての命取りになることが珍しくない、世界一か国と呼ばれるJ2リーグで安定した戦いをするために多くのチームが取る布陣をマレーシアは取ってきており、圧倒的攻撃力で押し切る韓国に対してマレーシアは引いてからのカウンターでワンチャンスに賭けるという構図がここからも見てとれます。

韓国代表について語らせてもらえば、アジアのサッカー界をリードし続け永遠のライバル同士と呼ばれる日本と韓国ではどちらのほうが上なのか? という議論がおこなわれることがあります。
私は日本が好きなので日本! と言ってしまうのですが、ここは評論の場ですので公平に語るとなると『総合力の日本と一点突破の韓国』という評価をするのが妥当ではないかというのが私の結論です。
イラクに負けはしましたが今の日本は史上最強なのは疑いの余地はなく、もし日韓戦があれば日本が勝つ可能性は非常に高いです。ただ、そんな我らが日本も各ポジションの選手の世界的評価で韓国をぶっちぎっているかといえば、決してそんなことは言えないというのはサッカーをよく知る方ならお分かりのことと存じます。

たとえばFWに関していえば、現役アジア人サッカー選手どころか歴代アジア人の中でも最高の選手との評価を受けるソン・フンミン。MFには日本が誇る日本歴代最高の天才・久保建英と比較されることが多く、現在の所属クラブで地位を測るなら久保より上と認めざるを得ないパリ・サンジェルマン所属のイ・ガンインがいます。DFを見ればドイツ最強の名をほしいままにしているバイエルン・ミュンヘン所属のCB、キム・ミンジェがおり、個人的には悔しいですが彼らのポジションで彼らを上回る評価を得ている日本人選手は現状いないというのが公平な立場から見た結論でしょう。マレーシアという悪く言えば所詮は東南アジアの虎でしかないチームを率いるアジアの虎の国の血を引く指揮官、キム・パンゴンはそこに目を付けたのです。

この試合の前半は1-0。マレーシアにしては頑張ったほうでしょう。多くのサッカーファンはマレーシアが疲れた後半にソン・フンミンらが大量得点を取ってジ・エンドと思っていたはずです。
均衡は比較的早く崩れました。身体能力で圧倒的に劣るマレーシアは球離れを早くすればいいものの、なかなかせずにどう見ても結果が出ないのが予想できるような状態で前線にパスを渡しました。
最終的にパスを収めた7番を背負った選手は、まるで体が未発達なクリスティアーノ・ロナウドのように優れたテクニックでボールを保持し続けます。そして世界を代表する同番号の選手みたいに両足を機用に使うと右足を振り抜きました。韓国のCBふたりは釣られて動いており、彼らがマイナスのクロスを想定して動いていたのとは逆にボールは僅かな隙間を縫って韓国の自ゴールのほうへと吸い込まれていきました。まさかの同点です。

我が家も湧きましたが現地はもっと湧きました。それだけではありません。直後にVARでPKが認められると誰もが予想しなかった1-2のスコアが全世界に向けて提示されました。まさかまさかのマレーシア逆転です。
ありえないことが起きました。マレーシアの熱心なサポーターで金髪モヒカンの若者が画面に映されましたが、本田圭佑さんがカタールW杯の日本サポーターに向かって『泣くな!』と言ったように、私もそのマレーシアサポーターに向かって言いました。追い詰められた韓国代表もギアが上がり、ただの消化試合だと思われていた試合は今大会最大の番狂わせが起きうる決闘場へと姿を変えました。

結果論で言えばマレーシアの天下は三日以下でした。韓国の至宝、イ・ガンインの芸術的なフリーキックがゴール右上隅に決まると、後半アディショナルタイムにソン・フンミンが流石のPKを決め3-2。サッカーの神様は奇跡を与えてくれてもまぐれはプレゼントしてくれないのだと世界中が思いました。
それでもマレーシアは諦めませんでした。なんでそんなにも球離れが遅いのかと思わされるほどに遅いパスを繋ぐと、途中投入の選手が期待に応える値千金、いや何兆リンギットを与えても足りないほどのゴールを決めると間もなく試合は終了。勝ちはしなかったものの勝ちに等しい勝ち点『1』をマレーシアは獲得して大会から姿を消したのです。

試合後、私は気づきました。マレーシアの勝因。それは一転突破の韓国に勝つための『哲学』だと。
それはひとことで言えば韓国の一点突破選手であるキム・ミンジェを釣り出し、手薄になった韓国守備陣からゴールを狙うというものです。マレーシアはこの試合、それを終始徹底して歴史に残る勝ち点1を手に入れました。
次それをやったからといって、マレーシアは韓国から同じく勝ち点を取れる保証は無いに等しいでしょう。球離れが悪いということはそこで奪われて少ないチャンスを失うことに繋がりかねないのです。はっきり言って博打に等しい行為をマレーシアは成し遂げました。マレーの虎という子ども同然の小さな虎は、世界を代表する虎である巨大なそれに大きなトラウマを負わせる結果を収めました。

長くなりましたが次の試合です。二試合目は虎同士の熱戦の終幕から2時間も経たない、日本時間2024年1月26日0時ちょうどから行われましたサウジアラビアvsタイ戦についてです。
先ほどのマレーシアのように私が訪れ親しみのある国。それは察しが付くかもしれませんがタイのことです。ただ、ここで主に扱うのはその微笑みの国ではなく、世界でも有数の厳格なイスラム法に基づいた政治を行う中東の雄・サウジアラビアについてになります。
サウジアラビアは皆さんご存じの通り非常に潤沢な金銭力を有する国です。それはサッカーにおいても当てはまり、かつてマンチェスター・シティという世界有数のビッグクラブを率いたことのあるイタリアを代表する大スター、ロベルト・マンチーニを監督に招聘し大会優勝を目指しています。
それに対しタイは鹿島アントラーズや大宮アルディージャを率いた経験はあるものの、世界的に言えば決して知名度があるとは言えない我らが日本人の石井正忠を指揮官にしています。ここでも前評判はサウジの圧勝というのが相場でしょう。
タイが4-2-3-1なのに対しサウジアラビアは一見守備的に見える5-2-3。私がこの試合を見た理由は韓国vsマレーシアの興奮があったというのもありますが、サウジアラビアがどうやったらこの守備的な布陣で圧倒するのだろうという疑問もあったというのはあります。世界的評価のあるマンチーニは開始早々からベールを脱いでいきました。

サウジアラビアのフォーメーションは5-2-3。何度も言いますがこれは普通、非常に守備的な布陣です。ところがサウジは『5』のサイドバックが無条件で上がりまくり、攻撃時には3CFと両WGで相手を押さえつける3-2-5という非常に攻撃的な布陣を敷きました。
これのメリットは5トップという攻撃好きなら理想に掲げるような布陣を無理なく完成したこと以外にもあります。その砂嵐のような攻撃をくぐり抜け、パスを前線に繋いだ先には攻撃時の着火役のダブルボランチと3CBが待ち受けているのです。つまりサウジのSBは基本WGで緊急時にはSBを務めるものの、普通なら彼らがありえないほどの運動量を求められて終盤のサイドが不利になるところを、最初からその問題をクリアした状態で攻守を圧倒しているのです。これを最初に見た時私は「個人的に好きになれない監督だけどさすがは世界的な名将だ」と思いました。お互いにゴールがオフサイド認定されてスコアが動かない中、サンドバックにされ続けたタイの崩壊は時間の問題だと全世界に見せつけていたのです。

それに対し石井監督は何をやっていたか。日本がアジアの格下にやられて手を焼くことですが、守備時にSHがSBの隣に吸収され急造の5バックを敷く形で耐え凌ぐ決断をしたのです。
おいおい、それじゃ勝機を見出すどころか勝ち点1すら厳しいじゃないか。日本もそういう国には最終的に1点はもぎ取って勝ってるんだぞ。石井監督の耳にはそう囁く日本人の声が聞こえていたかもしれません。でも彼はそれを終始変えようとはしませんでした。それは現地時間でみれば同じ日に、歴史的な景色がアジアのサッカーシーンに刻まれる前兆でした。

サッカーがマンネリしている終盤、マンチーニは実質WGのSBを下げてFWを投入します。彼はアジア基準でみれば背の高いマンチーニよりもさらに大きな黒人で、私と隣でそれを見ていた父は「あっ、パワープレーだ」と漏らしました。サウジは力技で寄り切る決断をしたのです。
と同時に私は思いました。あれ、これはタイに流れが傾くな、と。残りは少ないですが解説していきます。

サウジが5トップで相手のDFを脅かしていたのは事実です。ただ、タイも枚数では同等の5枚を揃えており、かつサイドは選手が追い越す動きが皆無なのでタイのDFは相手に惑わされる機会は今年の元旦の日本戦よりは圧倒的に少なかったのがこの試合でした。
サウジも前のW杯アジア予選で日本を苦しめたテクニシャンな10番が動き出しを細かくすることで引き出しを増やし相手を揺さぶろうとしますが、結果的に言えばそれは三枚目の動きには繋がらないので、世界中から愛された故プミポン国王が亡くなった直後の悲痛な思いが溢れるスタジアムで行われた国際試合で、オーストラリア代表から勝ち点1を奪うほどのガッツを持ったタイにはそのような小手先のまやかしは通用しませんでした。
それに加えタイのGKが日本代表でもやれるのではないか? と思わせるほどにゴールセービングに長けていたのもサウジにとっては不幸、タイにとっては幸運でした。この試合二度目の長い笛が吹かれた瞬間のスタッツは圧倒的にサウジのもの。ただしスコアはまさかのスコアレスドロー。自分たちの『哲学』を悪い意味で最後まで曲げられなかったサウジと、そのサウジに順応し自分たちを最後まで信じ抜いたタイ。最後にどちらが笑っていたかは周知のとおりです。それは同時に大会前は予想されなかった東南アジアの国が二か国決勝トーナメントに出るという形で2024年のアジアカップグループ予選が幕を閉じた瞬間でした。

この文章では対照的な結果に終わったふたつの『哲学』を見てきました。どちらのチームも自分たちの栄光を夢見てがむしゃらに頑張ってきた者同士であることは疑いの余地がありません。私はいちサッカー人として両者に敬意を示します。

……それでも大きな拍手を送りたいと思わされたのはどちらのほうだったでしょうか。すべてのものに平等に流れている唯一のものは時間です。ならばその時間に報いるような活動をしたいというのが人間の思う常だと思います。遠いカタールの地で体を張って戦った戦士たちとは月とすっぽんほどの差はあるとはいえ、我々も自分らしさのある哲学で結果を出しスポットライトを浴びられるよう、今日もサッカーや推したちから力をもらって自分の役割を果たしていきたいと思わされたこの日も仕事を休んでしまったkcなのだった……未完!!! (最後のこの言葉についてはデレステを遊んでいればいつか意味がわかるかもしれないと言っておきます笑。おあとがよろしいようで)

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