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G-1.0

 ゴジラマイナスワンは、今の時代マジで琴線に触れる作品でした。神木隆之介の神の演技と浜辺美波の寄る辺ない役柄もさることながら、敗戦とは何か、生き残るとは何か、何かを守るということは何か、そして国家の不甲斐なさ無責任さと民草の強さを対称的に突き付ける作品でもありました。

 最早なすところなく無機的に発出される特別攻撃という必死命令をはるかに超える力で海軍大戸島守備隊を瞬時に全滅させるゴジラの無慈悲さ、特攻命令に反して生き残ったところで待ち構える特攻崩れへの冷たい視線と見渡す限りの焦土の地獄、その地獄の中からいつの間にか寄り添い構築される血縁もない家庭とも言えないつながり、その偽りのつながりを互いに身を張って守ろうとする終戦直後の混乱がまざまざと見せつけられた後、地獄からほんの少しだけ落ち着きを取り戻そうとした銀座に突如襲いかかる青白き業火とヒロシマ・ナガサキを想起させる絶望のきのこ雲と黒い雨。せっかく戦争を振り切って新しい生活に一歩を踏み出そうとした瞬間にそのつながりは消し去られました。

 ゴジラを目前にして共産主義と対峙する自由主義陣営の最前線として連合軍総司令部は兵力を対ゴジラ作戦に投入できません。まさにロシアの核兵器や人民解放軍を考慮したくらいで自由な作戦行動を取れないNATO諸国軍のようです。かといって当時の東久邇宮内閣では武装解除後に軍事力は有しません。ゴジラが銀座を襲う前にそれを太平洋上で防ぐため、復員業務に従事していたところを差し向けられた軍艦高雄の主砲斉射は映画館の空気を勇壮に震わせますが…。

 人ひとりの命など塵芥であるかのように銀座を焦土と化してゴジラは海に消えましたが、再びの襲来が予想されます。しかし、駐留米英軍も日本占領政府もともに頼りにならない中で、立ち上がった民間の巨大生物對策。せっかく生き残ったのに今さら命を捨てたくないと踵を返す呼び出された旧軍人がいれば、民間人を危険にさらすわけにはと言われ「私も戦争帰りです」と自主的に危険業務従事を申し出る東洋バルーン株式会社社員。

 そして、特攻から逃げ回ってきたためにあらゆるものを失ったことから対ゴジラの切り札として用意するよう求めた戦闘機というところで、直感がピン!と立ちました。この時期に廃倉庫に残っていてゴジラの熱線を交わしながら戦える飛行機といえばあれしかないではありませんか。

 震電!

 特徴的な前翼後プロペラの姿を見たときに、本当に震えました。ここで震電が登場するとは!自分で予想しておきながら、実際に震電の飛行する姿を見て感動していました。

 また、震電を再び飛ばせるために必要とされる整備員を探すため訪れた第二復員局は海軍関係の復員業務を担っていました。昭和22年当時は陸軍関係の復員事務を司っていた第一復員省と海軍関係の第二復員省が統合して復員庁になっており、第二復員省業務は復員庁第二復員局の所管となっていました。

 そして、駆逐艦雪風!僚艦に指定された響とともに海神作戦に従事しますが、当時はこれらも特別輸送艦として復員業務を担っていました。カラーで雪風の作戦行動をこれだけ見られるとは、まさに眼福の映画でした。それらが対峙するのは圧倒的などという生易しい表現では表しきれない絶望的な戦力差の超自然現象であり、悪神の申し子ゴジラです。

 冷厳な国際情勢に振り回され、無作な政府を仰ぎながら、自分たち同胞が死なずに生きるためにはどう考えなければならないのか。国家の根幹が崩れると心配する向きは、自らがこの作戦の先頭に立てるのかをまず自問しなければならないでしょう。

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