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ハンサムが届くまで

2022年の年末、同人誌即売会を控えて失望していた。
サークル参加を申し込んだものの、当日サークルで展示したかったものが届かないのは目に見えていたからだ。
仕方ないので、Amazonで家庭用のアイロンプリントシートを買い、展示したかったものをプリントした。それがこちら。

ハンサムアイロンプリント

そう、ネオン看板だ。正確にはLEDチューブライトを使ったネオン管風看板である。これは中国のタオバオというショッピングモールに出品している看板製造業者に発注したのだが、この時点で私が所有しているものといえばこの完成写真しか無かったので、イベント当日はこれを貼り付けたパーカーを着て、色んな方に話を聞いてもらった。その節は誠にお世話になりました……。

以下、ことの起こりから届くまでを綴る。ほぼタオバオでの長くて面倒くさい買い物の記録なので、時間のある方のみどうぞ。

そもそもネオン看板を作りたかったわけじゃない

GS4のホタルの光の輪が常々、光る腕輪に似ていると思っていた。ホタル会話に対してさほど思い入れは無いが、光る腕輪が浮いているような絵面は面白いと思う。ホタルは全部で4色。全て実際に売られている腕輪のバリエーションにある色だ。

ちょうどその頃、12月に発売の小学生向け雑誌の付録が厚紙で作るカプセルトイマシンというのを知った。ホタル会話はランダムだ。ガチャポン、ガチャガチャ等と呼ばれるカプセルトイのマシーンに紺野先輩のホタル会話を何パターンか作り、それと一緒に対応する色の光る腕輪を詰めたら、疑似体験になるのでは?
想像するだけでいかにもチープでしょうもない代物だ。その愉快なやつ、メッッッッチャクチャ作りたい。しょぼくてしょうもないものは、どれだけ頑張っても達成感を得られないのが爽快でいい。成果主義の邪念から逃れて楽しめる。懸命になっている自分の愚かさを笑えるし、飽きたら惜しみなく捨てられる。
そうだ、光る腕輪にゆるいイラストの紺野先輩のチャームにカニカンをつけ、光る腕輪に通したらぎりぎりアクセサリーと言い張れるものになるのでは。腕輪が光らなくなったらチャームとして使えるし。この構想に、熱に浮かされたかのように夢中になった。明らかに当時締切が近づいていた玉緒考察本からの現実逃避である。私はすぐに本屋に赴き、小学生向け雑誌を2冊予約した。

そう、別にネオン看板が作りたかったわけじゃない。本当にやりたかったのはホタル会話ガチャであり、アクリルチャームを作りたかった。ただ、絵が描けないので作れないし描いてくれる人もいなかったのだが。
けれどもし描いてくれる人がいたとして、私が正気に返ったら申し訳無さで割腹していたかもしれないから、やはり手を貸してくれる方がいなくて良かったと思う。

さて、チャームはどうあがいても無理だ。光る腕輪と小説ですらなくホタル会話のみだと、物としての魅力が無さ過ぎるのはわかっていた。けれど、あまりに長いこと思い入れていたせいで何もせずにはいられなくなった。せめてホタル会話を作ろう。そう思い、GS4のキャラクターの会話を参照していくつか作ったりもした。

余談だが、その過程で氷室一紀のセリフ構成が紺野玉緒とかなり似通っているのを発見した。この二人は語気や語調は真逆に近いが、高学力男子らしい説明や素朴で飾らない言葉で自分の感情の実況に始まり、意外とあからさまに自分の感情の高ぶりを伝えて終わるか、主人公に問いかける/どうしてくれるの?的に責を追わせるのをオチとするパターンが多い。高学力男子というのに加え、彼らが先輩だけど弟、後輩だけど兄という主人公との年齢差があることから、感情や思考回路のパターンが似てくるのかもしれない。

話を戻す。こんな調子で、私は日々ホタル会話ガチャのことで頭がいっぱいだった。本当に申し訳ないことに、延々フォロワーにホタル会話ガチャの話をしていた。
雑誌発売の数週間前の11月20日のことだった。ふと本屋で見かけた発売中の雑誌にカプセルトイマシーンのレトロバージョンの付録がついていた。よく見てみると予約している雑誌と同系列の出版社の異なる年齢向けの雑誌だった。見た目のデザインが違うだけでカプセルトイマシーンの設計は一緒だろうと検討をつけ、すでに2冊予約していたというのにその雑誌を買って帰り、組み立ててみた。組み立ては簡単ではなかった上、厚紙の強度が想像を遥か下回った。

11月20日 組み立てた様子
ぐんにゃりしている

これは、何回もできるものではなさそうだ。器用ではない自分が作るならなおさらだ。完成させた時点でぐんにゃりとやる気のない中学生みたいな立ち方をするカプセルトイマシーンを見て、さすがに断念した。本屋に予約済の2冊はキャンセルしてもらい、それから数日間は落ち込んだ。思い入れがあまりに強すぎた。

ネオンの誘惑

気持ちが燻り続ける中、ふと香港の夜を彩るネオン看板が思い浮かんだ。ここ数年ずっと国潮デザイン(中国伝統のデザインと現代のトレンドを融合させたもの)が気になっていたこともあり、タオバオという中国の楽天のようなショッピングモールでネオン看板を延々検索し続けた。

都内のガチ中華料理店のネオン
同じ店にて。こういうのを国潮と呼びます。
雰囲気ありますね

以前から遊ばせてもらっているシルエットを四字熟語と集中線のようなネオンで囲んだら面白そうだなと思いついてしまった。失望の深さの分だけ、欲望は弾みをつけて加速していった。画面越しにこちらを誘惑してくるネオンの明かりは誘蛾灯のようだった。

失敗を克服する方法は人それぞれだと思う。紺野玉緒に出会ってからは、失敗したら再挑戦すればいい。それも叶わないなら最初目指した以上の成果を出すか、歩みを止めずに別の形でゴールを目指すのを行動指針にするようになった。これは紺野玉緒のスーパーチャージャー招致イベントから得た人生の教訓だ。そんなわけで、さほどためらいもせず動くことにした。

シルエットの元の絵を描いたフォロワーにシルエットを使わせてもらえるか聞いたところ快諾してもらい(本当にありがとうございます)、11月24日の夜、業者に問い合わせた。

画像はやり取りを大まかに抜き出した部分。実際はこの3倍くらいやり取りしている。

投げた要望をまとめるとこんな感じ
・シルエットの輪郭をなぞってほしい
・テーマカラーは緑色
・Handsome is here.
・できるだけ小さくしてほしい
・眼鏡をかけているので再現してほしい
・予算は800元(日本円で15,500円ほど。更に送料等加味して最終的に計2万円代前半くらいいくかな?とふんわりした予想)

漢字は最小でも10cm以上の大きさになるとのことから、四字熟語は断念した。ちなみにこの数日後、お祭りさんから紺野玉緒を言い表す四字熟語は何ですか?と質問があり、すぐに返答することが出来た。お陰で最高学習漫画を拝む事が出来、人生、何事も無駄が無いんだな…と巡り合わせに感謝した。

お祭りさんによる最高学習漫画
(こちらの本に収録)

そしてデザインが上がってきたのがこちら。

深夜にも程がある

シルエットの再現度には感動したものの、色数も何もかも少ない。その後しばらくやり取りしても消極的だったので、自分で考えることにした。

そして二週間後に投げたのがこちら。

人物のシルエットは緑よりも水色の方が好みだったので、それはそのままに。
正方形にあれこれ詰め込み、出来るだけ小さくなるよう心がけた。

業者がこちらのデザインを整えて返してきたのがこちら。

フォントを線になるよう整えただけだ

GOサインを出し、正式オーダーとなった。
オーダー内容の詳細はこんな感じだ。

クレカ明細を見ると14,251円だった。
そのうち、タオバオの手数料で2000円近く取られていると思う。

オーダーから3日程して完成写真が送られてきた。

ブチ上がるネオンの煌めき

流浪のネオン看板

そして、ここからがとんでもなく長かった。
タオバオの国際配送は集運倉と呼ばれる国際物流倉庫に一度集約され、まとめて日本へ出荷される。
入庫の際、本来ならお金を徴収されないはずが、何故か運送業者が日本円で1700円程度の特別料金を払わなければ納品出来ないと言い始め、看板業者が難色を示した。タオバオに問い合わせても、弊社倉庫は入庫に料金をとることはない、業者が勝手に徴収しているだけだと言う。そこで看板業者が追加料金を請求してこない他の運送業者に替えようとした矢先、中国政府のコロナ政策に対する抗議が相次ぎ、白紙革命勃発。運送のみならず、都市部は混乱に陥った。更に中国国内でコロナ感染が爆発し、上海の倉庫がある地区は配送してくれる運送業者が見つからず一旦様子見することとなった。

頭をよぎったのは、2022年春、実に二ヶ月に及んだ上海のロックダウンだった。ましてや季節は冬だ。コロナ流行の影響がどこまで広がるか。それに中国国内でどの程度白紙革命の影響が広がっているかもわからない。この時点で、さすがにイベントには間に合わないだろうという確信だけはあった。

イベントには考察本のペーパーを出すことだけは決まっていた。でも、せっかくのイベントにそれだけでは寂しい。ぎりぎりまで着手に迷っていたが、ホタル会話ガチャの失敗に引き続き、ネオン看板が届くかもわからない不安が私を衝き動かしてしまった。これ以上推しにまつわる活動で失望を重ねたくなかった。
夏のイベント時に出した突貫本の続きならすぐ書けるだろうと思い、着手した。が、二日で終わらせるつもりが結局三日かかってしまった。
また購買の話で恐縮だが、11月の皆既月食の夜、新宿のデパートで購入したイメージお香があまりに良く、それを配りたいという欲が沸々と湧いていたこともあり、お香とホタルは絶対出すぞという本となった。呆れていたでしょうに見守って下さったフォロワー達、本当にありがとうございました……。
そして本を手にとって下さった方々、本当にありがとうございます。毎度本を出す動機がしょうもなくてすみません。

ネオン看板に話を戻す。幸い、一週間ほどで運送業者は営業を再開し始めた。今度こそ、という機運が高まる。が、今度は送り先が倉庫が紛失が多いと悪名高い倉庫だそうだ。他の倉庫が開くのを待つか、どうするかの選択を迫られた。しかしコロナと白紙革命が、いつどこでどう爆ぜるかわからない。当時はまだ収束の気配も無かった。覚悟を決め、その悪名高い倉庫に送ってもらうことにした。
看板業者は、品物が倉庫に届いて入庫されたらすぐに出荷の問い合わせをしろ、うちの品物が一度そこで紛失されていると言ってきた。だから商品の配送を一日に何度も確かめた。ネオン看板が倉庫に到着して二日ほどし、入庫処理が完了したかと思いきや、ステータスが受け入れ拒否……?
タオバオに問い合わせてみると、倉庫で受け入れられる大きさを超えているため、看板業者のもとへ返送となるとのことだった。この知らせがイベントの真っ最中に届いた。

タオバオからの発送だと運賃は激安なのだが、こうなると業者と直接実費でやり取りするしかない。空輸だと間違いなく万は軽く超えるだろう。船便はもっと安いが1ヶ月はかかる。どうせイベントには間に合わなかったのだから、いつ届いても大差ないので船便にすることにした。

さて、もうちょっと業者を選んで/考えて注文しろよ、とお思いのあなた。それは本当におっしゃる通りなのだが、弁明させてほしい。業者は国際配送可と明記していて、海外への発送も実際に何回もやっていたようで、そんな彼らにも読めない事態だったのだ。
私自身、数年前だがタオバオを使った時、結構な大きさの荷物を受け取ったこともあり、受け入れ拒否されるとは思わなかったのだ。
転送・代行サービスもたくさんあるが、最初からそれらを使う気は無かった。やり取り自体は拙いとは言え何とかこなせること、品物がそれなりに大きいので、転送サービスを使ったらかなり料金がかかると思われるためだ。

そんなこんなで、ネオン看板は旧正月休みに入っていた業者の元へ里帰りすることとなった。ここで約5日ほど経過。業者のもとに着くも、正月の混乱しているかもしれない物流に委ねるのはちょっと抵抗もあり、一月中の発送は諦めた。
ちなみに業者が返品されてきた看板をチェックしたけど問題無かったよ、と送ってくれた画像がこちら。

看板新規スチル
恐らく工場の床に置いているのだと思うが、めちゃくちゃでこぼこしていて怖い

旧正月休み明け、いよいよ出荷するから運賃の450元を送金してほしいと言われた。領収書は?と問うと、無いと言う。料金自体はさほど高さを感じないが、領収書を見せてくれないのは内心ちょっとモヤモヤする。
業者は業者で、タオバオの倉庫までの運賃はうち負担で出したんだし信用してくれという。入庫までの運賃はそもそも業者負担なのだが(というか商品代に含まれているのでは)という言葉を飲み込み、ボラれているにしても1000円くらいだろうと素直に払うことにした。が、アリペイもwechatpayもうまくいかない。以前どっかでクレカでいけると記事を読んだ気がしたけど、やはり中国での銀行口座とビザが無いと無理なんだろう。
そこで看板業者にタオバオでその分の料金を払わせてくれないかと問うと、タオバオは手数料が引かれるのとすぐに入金されないらしく、難色を示された。多分こちらが何回か頼めば折れてくれそうだったが、ここまででお互いにずいぶん疲弊しているのと、万万が一業者がキレて取引をキャンセルしたら何も手に入らないと思うと、強く出れない。元々気が弱いこともあり(本当に)、諦めて○十年ぶりくらいに中国人の知人を頼った。知人は代理送金を快諾してくれ、2月5日の夜、無事に送金完了。2月8日にようやく出荷された。ここからはトントン拍子に進むだろうと思っていたが、2月11日に青島に到着したのを最後に永遠に更新されないEMSの画面。約1ヶ月で着くと言われていた。3月に入り、もうそろそろ看板業者に問い合わせてみるべきだろうか。そう思っていた矢先、何の前触れもなくネオン看板は届いた。3月2日の事だった。

届いたけど……

ザファ本と比較するとデカさがよくわかる

開封してみると電源と乾電池の両刀仕様のはずが、電源のみで電池ケースがない。電池で光らせてみようと思っていたため、変圧器の用意が無かった。しかしここに来てまた何日も待つのはつらすぎた。それに、業者がもう面倒はごめんだと知らんぷりして電池を送ってくれない可能性もある。
結局、業者に問い合わせる前に最も安い変圧器を買って試してみることにした。

待つこと一日、ヨ…エクストリーム便で届いた変圧器を勢いよく開け、ようやく光らせてみたのがこちら。

Handsome is here.

思った以上の光の強さに笑っていたところ、十分ほどでブツンと切れた。
え、もう壊れた……?と焦ったが、変圧器にはサーマルプロテクター(過熱保護装置)がつけられており、高温になると遮断する仕様だとわかり安心した。
変圧器が冷えるとまた通電するらしいので待ってみたが、結構時間がかかった。ここに来て安物買いの銭失いをやってしまった感がある。

全てが揃うまで

さて、ネオン看板自体は無事に届いたのを確認し、だいぶ気持ちが穏やかになったところで看板業者に電池ケースが同梱されてない旨を連絡すると、あっさり空輸で送ってくれることになった。この業者、デザインの時はかなり対応が塩だったけど事務的な対応はかなり親切だ。あと、最初の船便で多少運賃ぼってたとしても、この空輸でマイナスになっているだろう。

そんなこんなで、電池ケースが3月18日に届いた。空輸なのに2週間かかっている。開けてみると気前良く3つの電池ケースが入っていた。

乾電池8個使用する電池ケース×3と剥き出しの銅線がついてるスイッチ

しかし、どうやって看板に繋ぐんだろう。画像ではわかりにくいが、電池ケースとスイッチは分かれており、電池ケースから出ている電源ケーブルがスイッチと接続出来る。そして透明のスイッチらしきものから裸の銅線が出ている。

ネオン看板の電源

改めてネオン看板本体をよく見ると、同じような銅線がネジで電源ケーブルに留められている。まさかこのネジを外して銅線を剥き出しにし、これまたスイッチから剥き出しで出ている銅線をねじって繋ぐんじゃ……。ぜ、絶縁は?セルフってこと……?
業者に問い合わせると、まさにその通りで、プラスとマイナスに気をつけてとのこと。おまけに、電池ケースはすぐ壊れるから多めに入れておいたと率直かつ親切なアドバイスももらった。なかなか覚悟して事に臨まないといけない。しかも残機は3だ。
電池ケースはおまけだから文句は言えないが、オイ!というオチがつくのも中国ならでは。

実際にかかった金額

ネオン看板:14,251円
送料:8,615円
変圧器:3,170円
合計:26,036円

円安なのもあるけど、やや予算オーバー。ただ、ここまで読んでくれた方ならわかると思いますが、もう受け取れた事がありがたいの域に達しており、実質無料・pricelessと言わせて欲しい。
日本で受注して中国へオーダー出してるらしき業者を見かけたが、2〜3倍は高かった。ただ、電圧等のこと考慮したりアフターケア体制もあると思うので、一概に高いとは言えないと思う。
ちなみにLEDチューブライトはAmazon等で安く売っているし、自作できれいにネオン看板作っている方もいるようだ。わざわざオーダーするメリットは1cm厚のアクリルで好きな土台を作ってもらえることかも。

そんなわけで、無事届いたという報告と実録でした。大分だらだらしていますが、これでもやり取りの70%は端折っています。
電池ケースに替えて屋外で撮った写真を載せたいなーと思ってたのですが、下手すると3回こっきりの命かもしれないので、携行フォルムにフォルムチェンジするのは、時を待つことにします。

シルエットの使用許可をもらい、延々話を聞いてもらい、送金まで人頼みという人様に頼りっぱなしの買い物でしたが、無事届いたのでめでたし、めでたしとさせて下さい……。というわけで、12月10日に発注し、3月18日にようやく全てが揃ったという計4ヶ月の買い物ログでした。めでたし、めでたし。

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