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【ゲームクリエイターの視点】葬送のフリーレン第36話【ネタバレ】

ゲームクリエイターの蛭田健司です。【ゲームクリエイターの視点】では、セガ、コーエーテクモなどでいくつものヒット作に関わってきたクリエイターが日々何を考え、感じているのかお伝えしていきます。

※マンガ「葬送のフリーレン」は週刊少年サンデーで連載中です。サンデーうぇぶりでも読めます。https://www.sunday-webry.com/

※引用は著作権法第32条の範囲で行います。

シュタルクの優しさ

今回のシュタルクは、体調を崩したフェルンのために薬の材料を集めるところが印象に残るかもしれません。それももちろんシュタルクの優しさなのですが。

特筆すべきは、実は冒頭にあります。早起きしたシュタルクが珍しく眠ったままのフェルンをみて、疲れているのかも、とひとりで朝食の支度をします。

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おさかなもちゃんと3匹用意されていますね。

しかもなかなかの手際の良さ。そして、朝食の準備ができたところでフェルンを起こそうとします。

これなんですよね。これが大切。

病気の人の看病をするのは、ほとんどの人ができるんです。でも、そんな大ごとの時じゃなくても、普段から自然に助け合える関係性が伺えて、とても良い描写です。まして、パートナーが病気で寝込んでる時に「俺のメシは?」とか言っちゃうダメ人間がいまだに世の中に生息していることを考えると、その差は歴然。こういう自然な描写で、あるべき姿を伝えていくのがクリエイターとして大切なことだと思います。

フリーレンの戸惑い

冒頭の寝相からして、らしさ全開のフリーレン。2コマで180度回転したかと思えば、さらに次のコマでは真横に。どれだけ寝相が悪いのか^^; そして起こされたら「…あと半日…」って、あと5分みたいに言ってもダメだから! 半日って長いから!

それにしても、前話から、顔をさわってひんやり、ってのは続いているんですね。

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この表情、なんとも言えません。

フェルンの体調を診るときはシャキッとするフリーレンですが、荷物から角がでてきたり、聖典を鍋敷きにしたりするのはやっぱり通常運転。

そして、フェルンの手を握って安心させようとするのも、このところの「大人」なフリーレンで、人としての成長が感じられる場面なのですが、今回はちょっと勝手が違います。フェルンは甘やかされるのを恥ずかしがってしまいます。

フリーレンは、フェルンが大人になることへの戸惑いを自嘲気味に語ります。自分はまだ人のことがわかっていない、と感じているかのようです。そんなフリーレンを、複雑な心境で見つめるシュタルク。ハイターなら、フリーレンの頭をなでたでしょうか。ザインだったら? いろいろな想いが交錯する場面です。

そうして薬の材料を集め終わるとき、シュタルクはフリーレンに問いかけます。きっと、材料を集めている間、フリーレンはちょっと元気がなかったんでしょうね。気遣うシュタルクの優しさが、ここでも感じられます。

フリーレンは、自分の知っている方法でフェルンの苦痛をやわらげようとしただけで、他意はなかったと答えます。思いやりの気持ちが裏目に出たわけですが、フリーレンは気を悪くすることもなく、そしてシュタルクに問いかけるでもなく、独白のように言葉を口にします。

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人を知ろうとする旅路で。子供のころから知っているフェルンの、知らない面を目にして。フリーレンの心は、さざ波立ってはいなかったのでしょうか。表情からうかがい知ることはできません。

でも、シュタルクの言葉でヒンメルに看病してもらったことを思い出したフリーレンの表情からは、内面が感じ取れます。涼しげな表情をしていたフリーレンも、やっぱり気にしていたんですね。

「心の支えが必要なのは子供だけじゃない。」 回想でのヒンメルの台詞は、大人も褒められるべきといったこの作品のテーマのひとつに通じるところがあります。

そしてシュタルクに遠回しに慰められますが、「大人」に戻ったフリーレンは、シュタルクのことも甘やかそうとして嫌がられます。わからなくても、やりたいようにやってみる。大事なことですね。

小ネタ~エンディング

薬の材料を探すフリーレンは、茂みに頭からつっこんだいつものポーズ。また、前にも出てきた陸ガメが登場していますね。震えながら火に当たって暖を取るふたりはかわいいですが、結構長い時間かけて探しているんだな、と感じられるコマでもあります。

看病されるフリーレンの、「…なんのつもり?」「黙ってて…」は、いつもの浮世離れした性格ではなくて。好悪の情やツッコミっぽさが出ていて、こういう普通な感覚もあるのだな、と思い出させてくれます。

しかし、「魔女みたい!!」は、まぁ魔女ですよねw 魔法使いですからね、1000年も生きた。

そして、フリーレンの「知っているよ。」 子供じゃないことをちゃんとわかっていて、それでも手を握る。大人でも心の支えが必要だから。そんなフリーレンの気持ちを察したフェルンの、安らかな微笑みが美しい。

そんな気持ちの盛り上がる流れなのに、エンディングはいつも通り、サラッとさりげなく。いや、もう、良い!! 全知的生命体におススメです。

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