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論理的に日本を破ったカタール~AFCアジアカップ決勝 日本代表vsカタール代表~

 どうも、こんにちは。ヒグチです。note企画第三弾です。

 今回はアジアカップの決勝、日本代表とカタール代表のゲームを取り上げます。

 このレビューでは日本代表ではなく、あえてカタール代表に軸足を置いて見ていきたいと思います。

 その理由は大きく分けて2点です。

 1つは、カタール代表のサッカーが非常に現代的で、かつ論理的なサッカーを展開していたこと。

 2つ目に、カタール代表のサッカーの世界線に、ベガルタ仙台が目指しているサッカーがあるということ。

 どちらかというと2つ目の理由が大きいです。このカタール代表から学ぶことはとても多かったです。

 ということで、早速行ってみましょう!

 今大会はグループステージから苦しい試合を制してきた日本。それでも準決勝では優勝候補のイランを3‐0で下し、決勝のステージまで登りつめた。イラン戦では今大会一番の内容で勝利し、勢いを持って決勝を挑むことができた。

 しかし、遠藤航がイラン戦で負傷離脱。その代わりに決勝では塩谷が柴崎とダブルボランチを組む。それ以外は変更なし。

 一方のカタールはここまで全勝で勝ち上がってきた。加えて特筆するのは無失点でのここまで勝ち上がってきていることだ。システムは3-1-4-2。注目選手はここまで8得点挙げているエースのアルモエズ・アリである。


前半

(1)明暗を分けたボール非保持の設計図

 結果はご存知の通り、1-3でカタールが勝利する。

 カタールは、前半で2点のリードを得ることに成功したことが勝利へ、そして初めてのアジアカップ制覇へと近づけた最大の理由であることに異論はないだろう。

 そして2点を先行できた前半、日本との勝負を分けたポイントは、ボール非保持、いわゆる守備における設計図があるかないかだったと思う。

 ということでカタールのボール非保持と日本のボール非保持を見ていくことにしたい。

 まずはカタールから。

 カタールの日本に対するボール非保持のテーマは「サイドへ誘導する」、「中央を封鎖する」だった。日本の得意な中央密集からのコンビネーションをさせないこと、防ぐことが、カタールのボール非保持のテーマだということになる。

 試合開始からのカタールのボール非保持は、5-3-1-1という形。2トップのアリとアフィフが縦関係(アリが前で、アフィフが後ろ)になることが1つの特徴だ。

 アリの役割は、パスコースを切りながら日本のセンターバックへとプレスを掛ける役だ。ボールを奪い行くというより逆サイドに展開させないためにセンターバックの間に立って、片方のサイドに誘導することが目的。

 アフィフの役割は、ボランチの監視。アリが日本のビルドアップをサイドへ誘導するので、誘導したサイドのボランチを監視し、こちらもアリ同様に大きな展開を許さない、加えて縦パスを通させない位置取りで、パスコースを限定させていた。

 その後ろの3センターはスライドしながら、日本のサイドバックへとプレスを掛ける。このときも中へのパスコースをしっかり切ることがポイントだった。

 そしてサイドへ誘導し、日本のサイドハーフのところでウイングバックがボールを刈り取ることを理想としていた。

 また、ここでポイントなのがボールサイドのウイングバックがボールホルダーへとプレスを掛けるときに、しっかり5バックがスライドしていることである。

 ウイングバックだけが単独で出ていくのではなく、チャンレジ&カバーの役割ができるような距離感を維持していた。ここは仙台も真似たいところだ。

 またリードを奪ったカタールは、時間の経過とともに前線からコースを限定させるのではなく、ミドルサードを基準に5-3-2のブロックを形成するようになっていく。おそらく中2日というコンディション面もあったのだろうし、リードを奪えたということも、このような変化を行った理由なのかもしれない。

 それでもカタールはしっかり中央を封鎖し、中央にボールが入ったものなら、しっかり迎撃守備で対応していく。そしてアフィフやアリにボールを繋いでまた自分たちのターンへとしていった。

 守備のやり方を変化させても、しっかりテーマを忘れないカタールの守備は見事だった。


 では、日本はどうだっただろうか。

 カタールのボール保持時のシステムは3-1-4-2がベースだった。それに対して日本は4-4-2で構える。

 日本はカタールのビルドアップ隊(3バック+アンカー)に対し、まず3バックへ2トップが前からプレスを掛けに行く。加えて原口が右バックのアルラウィへとプレスを掛ける姿が散見される。

 しかし、前方は前からプレスに行く日本だが、肝心の後方がそれに連動していない。よってカタールに縦パスを通されまくる展開となる。前と後ろが連動していないので当然といえば当然。

 カタールのようにボールをどこに誘導して、どこでボールを奪うかという共通理解がないので、みんながなんとなくで守備をプレーしている。それでもなんとなくボールが奪えたり、相手のミスに助けられたりするので、「これでとりあえずいいや」みたいになっていったのが前半の日本のボール非保持だった気がする。

 どこまで設計していたのか、そもそも設計していたのかみたいな議論の答えは、森保監督にしか分からないので、誰かに聞いてきてほしいなとは思う。

 しっかり設計図があったカタールとなかった日本。この差がスコアの差を分けた部分かなと感じる。


(2)出し入れを繰り返すことでボールを前進させるカタール

 続いてカタールのボール保持を見ていきたい。

 カタールのボール保持時の役割をざっくり表すとこんな感じ。ポイントをいくつか見ていく。

 まず、ビルドアップ隊は3バックとアンカー。状況によってはキーパーも参加する。

 左右バック(サルマンとアルラウィ)はハーフスペースの入口に立つことを意識して、中に寄りすぎず外へ張りすぎずのポジションを確保する。

 アンカーのマディボは2トップの間からパスを受ける役割が主だった。2点目のスタートはサイドからアンカーへとボールを循環させて、日本の前プレを剥がしたところからだった。

 ウイングバックは横幅隊。プレスの逃げ場になったり、前プレを回避するためにキーパーからロングボールを受ける基点となっていた。特に左ウイングバックのハサン。

 インサイドハーフと2トップの一角アフィフはセット。アフィフはフリーマンでどこでもボールを受けに行く。ビルドアップ隊からボールを引き出したり、サイドでボールを受けてウイングバックの前進を促したりと色々なところへ顔を出していた。守備の設計図がない日本としてはアフィフをどう抑えるかは非常に苦労した所だった。

 そしてインサイドハーフの2人は、降りてくるアフィフとは反対に裏へのランニングを繰り返す。このことでセンターバックやボランチを引っ張り、中央へスペースを作り出す。裏へランニングをすることを厭わず行えるプレーヤーは貴重だ。アフィフを活かすため、そして自身がゴールを奪うために愚直にランニングを行っていた。

 そしてアリは中央でボールを待ちながら、時にはポストプレーを行ったりする。

 これがカタールのボール保持時の各役割。カタールはボールを奪うと、まずは3バックへボールを預けて後方からのビルドアップからスタートさせる。

 日本が勝手に前プレを掛けてくるので、それをトリガーに一つずつ剥がしてボールを前進させていく。その時にインサイドハーフとアフィフの関係のように選手間の出し入れを行うことで、日本の守備にギャップを作りだし、そこへ縦パスを通すことで、中央からのチャンスを作り出してった。

 2点目は象徴的で、1分間以上のボール保持から得点が生まれている。間違いなくカタールが理想としている形だ。その形を決勝という舞台で披露できるのだから素晴らしい。

 ということで、カタールが2点リードで折り返す。


後半

(1)5-4-1に変化したカタール

 後半のスタート時からカタールは3-1-4-2から5-4-1へとシステムを変更している。

 おそらく中2日のコンディションで体力が持たないことや、リードを2点奪っていること。また前半の終盤から日本がセンターバックを経由してサイドチェンジを行うことでスライドが多くなったこと。この理由から後ろ重心でブロックを組むことにカタールは変更したと考えられる。

 しかしこの策はカタールにとって悪手となってしまう。5-4-1で一見ブロックが厚くなったように感じるが、中盤の4枚の間にパスコースが生まれてしまう結果となる。

 このことで日本はサイドバックなどから中央へのくさびのパスや、ウイングバックの裏へのボールが増え、日本が押し込む展開へとなっていく。

 これに加えて、左のサイドハーフに入ったアリが守備の立ち位置を分かっておらず、一人だけ中途半端なポジションを取ってしまい、左サイドからの攻撃を許してしまう展開となっていった。

 ということで5-4-1はものの10分で諦めることとなる。それ以降は5-3-2で守備ブロックを形成していった。


(2)武藤の投入意図と1点差に詰め寄る日本

 日本は62分に原口に代えて武藤を投入する。これで南野が左サイドハーフとなり、武藤がトップ下に配置する。

 疲労が見えるカタールは、5-3-2のブロックを形成するが、ここまで攻守において効果的に走っていた3センターの足が止まり始めたことでスライドが機能しなくなっていく。

 よって日本は、くさびのパスを中央に通し、カタールのペナルティエリアまで侵入する回数を増やしていった。

 武藤を投入したのは、それに加えてディフェンスラインの裏へランニングすることで、相手の懐に入ること。この動きによって大迫や堂安、南野が前を向いてプレーする機会を増やすことにあった。

 疲労が見えているカタールにはこの武藤の動きは効果的で、日本の攻撃をさらに加速させることとなった。

 そして70分に南野が1点奪い返すが、もとを辿ると武藤が裏でボールを受けて、相手ディフェンスラインを下げたことから始まっている。日本としては狙い通りの得点を奪うことができたといえるだろう。


(3)粘り強く守るカタール。そしてご褒美。

 1点差に詰め寄った日本は、ガードの下がったカタールへラッシュを掛け始める。

 しかしカタールもペナルティエリア中央では絶対にやらせない。最悪コーナーキックに逃げる対応を見せた。このときのカタールは中を破られないように意識し、外はある程度捨てていたことが良かった点だ。最終的に中央を無理やりにでも突破しようとする日本相手には、非常に効果的だったといえるだろう。


 そして我慢に我慢を重ねたカタールにはご褒美が待っていた。アフィフからのカウンターで、コーナーキックまで持ち込むと、そのコーナーキックが吉田の手に当たり、VAR。そしてペナルティキックを獲得。

 アフィフが嫌というほど冷静に決めて、日本を突き放す決定的な追加点を決めた。この追加点で日本はメンタル的にガクッときてしまったのが、よく分かった。

 残り時間も丁寧にクローズしたカタール。アジアの頂点に初めて登りつめた。


最後に・・・

 個のクオリティを最大限に生かす日本に対して、論理的にゲームを進めたことで勝利を収めたカタールという内容だった。

 日本の得意なプレーエリアに蓋をすることで、日本の攻撃を半減させたところなどは、しっかり対策を練って試合に挑んだんだなという印象を受けたし、それをピッチ上の選手がしっかり遂行できたことが勝因の1つだった。


 そして冒頭にも書いたように、このカタールから仙台が学ぶことがとても多いと感じた。

 ボール非保持のときに5バックがしっかりスライドを行い、しっかり距離を保っていたこと(=チェーンが切れない守備)。

 ビルドアップ時は、ビルドアップ隊がハーフスペースの入口を意識し、そこからボールを前進させていたこと。

 選手がポジションを変えながら前進し、最後は相手のペナルティエリア内に侵入し、仕掛けていたところ。

 仙台が採用しているシステムや目指すものが類似しており、カタールはいい教科書だと思った。加えて仙台が課題としていることをカタールはしっかり行えており、その面で学ぶべきところは多いと感じた。

 まずは、このカタールくらいのレベルに上がって欲しいし、このレベルならば達成することは決して難しいことではないと思う。

 このオフはヨーロッパのサッカーを多く見て勉強しているが、カタールもとても勉強になるチームだった。


 ということでnote企画第三弾はおしまいです。読んでいただきありがとうございました。またお会いしましょう。

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