スカーレット・ウィッチがやってくる

※このnoteは「ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス」、「ワンダヴィジョン」、およびいくつかのマーベル作品のネタバレを多分に含みます
 
 
 









広大なマルチバースのどこかで、ワンダの幸せが続いていることを願って。
 
 
ワンダ・マキシモフは自己犠牲の果てに自己犠牲に殺された。誰の助けも得られないまま、誰の助けも必要とせずに、自分自身の力だけですべてを終わらせた。
 
傲慢で利己的で、マルチバース最大の脅威と見做されているドクター・ストレンジにすら仲間と愛する人がいるのに、ワンダには誰も手を差し伸べなかったのはなぜなのか。元は敵対組織にいて、アベンジャーズに新顔で入ってきて、仲良くなる間もなく戦いが終わったからか。そこで「はい、解散」でよかったのか。アスガルドの神様がピザ食って引きこもって小太りになるほどの無力感と喪失感を、ただの人間ひとりが背負えると思ったのか。せめて、そのことを考える余裕が周囲になかったのだと思いたい。
 
そして実際に苦しみを背負いきれずに問題を起こしたとき、かつて仲間だの家族だの言っていたヒーローたちは誰一人として来なかった。契約と製作費の都合で誰もブッキングできませんでしたじゃないんだよ、ホーク・アイ撮ってる暇があったらジェレミーをワンダヴィジョンに出せば良かったんじゃないかな。
更にそのうえ、すべてが終わったあとに突然やってきて、「やあ久しぶり、元気?実はこの子が殺されそうでさ、え?君が殺そうとしてるの?それはやめてくれないかな」じゃないんだよ、そうなってしまったまでの間にてめーはどこにいて何をやってたんだよ起きた問題の原因の中に自分もいることを自覚しろよ悔いろよせめてどうしてこうなってしまったのかについて良く考えてくれ頭ごなしに否定する前にね。
 
比喩ではなく"夢にまで見た"普通の幸せを、土足で踏みにじる権利が誰にあるというのか。それを誰も肯定しないのはなぜなのか。ダークホールドにそう書かれてあるから?違うね。「彼女は強いから、彼女の問題は彼女しか解決できないの」?違うね。あなたがたが無力だから彼女を救うことが出来ないんだよ。耳ざわりの良いことを言ってる暇があったら自分の無力さを嘆いてくれ。
不幸な生と幸せな死であれば僅かに後者が勝るので、ワンダとヴィジョンであればどちらかというとヴィジョンが幸せであっただろう。全知全能のスーパーマンなのであれば、自爆機能くらいついてたら良かったのにね。自己犠牲に他人を巻き込んではいかんよ。
 
ドクター・ストレンジの銅像を建てるくらいなら、ワンダ・マキシモフの銅像を建てたらいいんじゃないかな。土台には「我々の生活は彼女の慈悲と涙によって続いている」とか刻むことだね。そして子ども達に、「悪いことをするとスカーレット・ウィッチがやってきて、お前のことを別の宇宙へ連れ去ってしまうぞ」とか言ったらいい。冗談でしょ、って笑いあって、お家に帰って美味しいご飯を食べて、温かいベッドで眠る我が子のかわいい寝顔を見て、幸せだなって思って自分も寝て、そんな毎日を繰り返して天寿を全うして死ね。何の痛みも苦しみも知らないまま。
 
 
これは僕がかけられるささやかな呪い。
彼女のことを忘れるのなら、せめて彼女の影に怯え続けるがいい。無知で無力な人間ども。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?