バーニングマン2023振り返りDay9-マンバーン

2回目の月曜日

BRCラジオが タイトルや歌詞に「stay」を含む曲をひたすら流し続け「ゲートは開いていないのでその場に留まるよう」と警告を発し続けるも虚しく、プラヤからの脱出を試みる人たちは日に日に増えていった。

ゲートを突破しようとする車は、公式にエクゾダス(BRCからデフォルトワールドへの帰還)が開始された際に列の一番後ろに回される、と盛んに喧伝されているのが心配ではあったが、J&Mも、Eも、とにかくゲートまで行ってみる、と月曜の朝までにはキャンプを後にしていった。こうやって、僕らの周りからも少しずつ人影が消えていった。

残った僕たちは、ぬかるみにタイヤを取られた車がエンジンを空ぶかし、タイヤを軋ませフラフラになりながら通りを駆け抜けていくのを目掛けて、「裏切りもの!」「ゲートはまだ開いてないぞ!」なんてヤジを飛ばすのをゲームのようにして楽しんだりもしたけど、おそらく皆なんとなく既にゲートが開いているのを察知していた。あれだけの車が通り抜けていくのに、ゲートまで30分もかからないJストリートが渋滞になってもいなければ、諦めて引き返してくる車もいないからだ。

実際、その後たまたま通りかかったレンジャーに単刀直入に尋ねてみれば「公式にはゲートはオープンしていないが、そこまで来ることができた車はあえて止めずに通している」とのことだった。なるほど、最初から人々が言うことを聞くはずがないという前提で、嘘とも言い切れない程度の誤情報を流しているのだろう。

この公式アナウンスと実際の現場運用における本音と建前の使い分けには少し感心した。ひょっとしたらグタグタ運営の末のヤケクソ施策がたまたま上手くいっただけかも知れないが、このような事態に向けて準備してきたという彼らのノウハウにはそれなりのものがあるように感じられた。BRCにおいても(BRCだからなおさらなのか)、メディアの流す公式情報をそのまま鵜呑みにしてはならない。大勢に同時発信される情報には必ず意図があるからだ。個人個人が受け取る事実そのものの正当性より、群れとしての人間の行動をコントロールすることに重きがおかれるのだから、当たり前と言えば当たり前だ。特にこのような災害時は、そう言った傾向が顕著に現れるのだろう。僕は311のパニックや、コロナ禍での政治やメディアのデタラメっぷりを思い出していた。与えられたままの形でそのまま信頼できる情報など、最初から何一つ存在しないのだ。

とは言え、この夜ついにマンが燃やされるという発表は、BRCに残った僕たちを大きく沸き立たせた。しばらくの間、人づてに聞くのは雨の予報や外の世界で報じられるBRCの惨状ばかりだったので、これは久々の良い知らせだった。その事実にどのような意味を与えて、どのように実践するかは人それぞれであるものの、バーニングマンの流儀はいつもと変わることがない。

“No spectators” 見物客お断り。10の原則には入っていないが、よく知られたバーニングマンの標語は言う。元は、かつて入場券に書いてあった「Participant only. No spectator = 参加者のみ入場可、見物客お断り」と言う但し書きから来ている。泥だらけのプラヤからの脱出劇も、突然延長された世界の果てでのバカンスも、喜びも、悲しみも、そこで味わったどんな感情も、そこに参加した全てのバーナーも、何かの間違いでこんなところまでやってきてしまった観光客達も、どれもがバーニングマンの一部にして全部なのだ。そして今夜、この街で一緒に過ごした仲間たちそれぞれの思い出と共に、それら全ては炎に焼かれる。それがいつまでもダラダラと続き、果てには退屈な日常になってしまう前に。全部、初めからなかったみたいに全て消し去って、クソったれなデフォルトワールドの、いつ終わるとも知れない茶番に帰還するのだ。ここでの10日間の経験を手掛かりに、残りの355日間、せめて少しでもマシな生き方を選ぶために。

本当はここでバーニングマンの最大のイベントであるマン・バーンについてうまい描写が出来ればいいのだが、轍と足跡、雨と太陽で苦瓜の表面のようにボコボコになった道に行手を阻まれ、僕とDは時間までにメイン会場に着くことができなかった。

これ以上先に進むのを諦めたダグを置いて、1人マンの元に自転車を飛ばしたのだが、僕が自転車をとめたころにはパーティのピークはとっくに過ぎていて、なんだかちょっとその場の高揚感に馴染めなかった。でも、それもどうでもいい。どうせ、こうやって全てが燃え尽き、デフォルトワールドに戻った後は、こことのあまりの格差に、一体自分が感じたリアルとは何だったか、分からなくなっているのだから。

僕は、別に巨大な木の人形が燃えるのを見て騒ぎに来た訳ではない。僕はそれが象徴する全てを経験して、またデフォルトワールドの1年弱を生き延びるためのエネルギーを、確かに受け取ったのだと思う。後は、全て燃え滓のようなものだ。

今なら、受け付けブースのお姉さんに、自分の望みは何だと答えただろう。いや、普通に、「入場券1枚と駐車券1枚」でいいんだろうけど。

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