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<note抄読会>義歯使用と心代謝疾患のリスク:観察的解析とメンデルランダム化解析

 私は普段は大学病院で主に補綴(ほてつ)領域を担当する歯科医師をしています。補綴とは、見た目やかみ合わせをクラウンや入れ歯(義歯)など人工の歯で補う治療法のことです(日本補綴歯科学会ウェブサイトhttps://hotetsu.com/p2.htmlより一部改変して引用)。
 今回、義歯の使用と全身疾患に関する最新研究論文を読みましたので、簡単ではありますが、<note抄読会>と題してnoteの最初の記事として紹介致します。この論文は9月くらいに医局の抄読会用に読もうとしたら、所属からはダウンロードできず大学図書館に複写依頼しました。依頼後に入手して読み始めたら、Supplemental Informations(Tablesだけで11個)まで目を通さないと他人にうまく説明できないことに気が付き、追加で複写依頼。論文入手後も色々あって放置を経て、11月に入りようやく読み始めて斜め読みでも目を通すことが出来ました。

以降は論文内容の要約的な意訳です。

 歯周病や歯の喪失などの口腔疾患や症状が心血管疾患(CVD)や糖尿病のリスク増加と関連していることが報告されている。口腔の健康状態とCVDとの関連を媒介すると考えられる肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖、慢性炎症などの心代謝疾患(CMD)のリスク因子に対する口腔の健康症状または疾患に対する治療の効果が報告されている。しかし殆どの研究はサンプル数が少なく、期間が短く、特定のアウトカムに限定されており、口腔の健康とCMDとの因果関係は解明されていない。本研究ではメンデルランダム化(MR)分析にて義歯使用とCMDの関連を調べ、義歯使用とCMD及び関連する臨床リスク因子間の潜在的な因果関係を示した。

 本研究では、50万人以上が参加したUK Biobankデータ@uk_biobankより46万人が参加者に該当した。曝露としての義歯使用の有無は複数選択肢を使用した自己報告で判定した。アウトカムは、冠動脈疾患(CAD)、心筋梗塞(MI)、心不全(HF)、脳卒中(AS)、虚血性脳卒中(IS)、出血性脳卒中(HS)、2型糖尿病(T2D)の発症とした。

 ベースラインの観察的解析では義歯使用者は非使用者より様々な全身疾患や測定項目で悪化傾向を示した。中でもBMI、トリグリセリド、CRPが高く、降圧薬やコレステロール低下薬使用の割合も高かった。

 既存研究にて義歯使用の遺伝的要素となっているSNPs(一遺伝子多型)はDMFTとの関連が強いため、以後は両者合わせて義歯使用/DMFSで解析した。ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、義歯使用/DMFSの遺伝的要素であるSNPsはCMDとその間関連因子と遺伝的相関関係を認めた。

 さらに、GSMR(Generalized Summary-data-based Mendelian Randomization)法にて義歯使用/DMFSとCMDとの相関を解析した。この方法は観察研究でありながら因果関係も考察できるのが特徴らしい。その中で義歯使用/DMFTの遺伝的要素となるSNPsで有意に因果関係を認めたのは心筋梗塞と2型糖尿病であった。CMDの遺伝的要因となりうるSNPsを用いて逆方向に解析したところ、義歯使用/DMFSとの因果関係は認められなかった。同じくGSMR法で義歯使用/DMFSとCMDリスクとなりうる調査項目について調べたところ、殆どの項目で有意に相関を認め、特にWaist/Hip比、HDL、トリグリセリドでは観察的研究と同様に強い相関関係を認めた。

 本研究ではGWASによる義歯使用の遺伝的傾向とCMDとの遺伝的相関関係だけでなく、メンデルランダム化分析を用いて義歯使用の遺伝的傾向と心筋梗塞、2型糖尿病等CMDのリスクとの間に潜在的な因果関連も示唆している。これは、観察研究に基づく従来の知見を補完するものであり、義歯使用がこれらの疾患のリスク因子である可能性をさらに強調している​​。

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 感想としては、観察研究なのに因果関係まで考察できてしまうMR法ってスゴイ(語彙力)、この手法自体は20年以上も前から日本でも行われていたらしいのですが知らなった自分メッチャ恥ずかしいわ、でした。また、義歯使用/DMFS⇔CMD双方向で因果関係も考察できることが興味深いです。CMD→義歯使用/DMFS方向の因果関係が認められないのは、単に義歯使用/DMFSよりもCMDの方が関与するSNPsが多いからかもしれませんけども、。今既にいろんな締切前で切羽詰まっていることもあり深く読みこんでないのですが、これから時間があれば(あるのか?)もう少し読み込みたいなぁと欲張ってしまいます。しかしどうしても、義歯に関する質問が使用の有無だけだったのが、義歯を専門の一つとしている私としては少ないと感じてしまいます。可撤性か固定性かすら聞いていなくて、使用時の不都合の有無や出来れば咬合力等とかも、、とか色々欲張って色々考えてしまいますが、大規模研究に置いてはこれ以上は難しいところなのでしょう。


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