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In my life - 私にしか出来ないこと

お父様の余命宣告
大人な彼女に隠された想いと
自分にできることの模索

ずっと夢だったウエディングプランナーになって4ヵ月ほど。私が担当した3組目のおふたりは、寡黙な印象の新郎とお話好きだけどどこか落ち着いていてクールな新婦。そんなおふたりとの初回打ち合わせは本当に楽しい時間を過ごさせていただきました。

2度目のお打ち合わせ、おふたりに会えるのが楽しみでワクワクしながらお出迎えをした私でしたが、少し彼女に違和感を覚えました。

明らかに彼女の元気が無いのです。

不安に思いながらも経験の浅い私には、無神経なことを聞いているかもしれない不安から質問する勇気がありませんでした。
その日の打ち合わせを進める中、挙式のエスコートは〜という話になったとき。
実は…と彼女らしい落ち着いたトーンで話してくれました。

お父様の余命宣告。
結婚式を3ヵ月後に控えながら、お父様はあと1ヵ月生きれるか分からない状況だということ。

こんな状況でありながらも決して顔には出さない。強がりな訳ではなくて割り切れてしまう彼女で、その考えに寄り添えてしまう彼だからこそ、なにか自分に出来ることは無いかと悔しい気持ちでいっぱいでした。

ふたりの想いを受け止め
お父様へ向けた特別な時間のお手伝い

お父様はきっと彼女のドレス姿を楽しみにしている。きっと挙式入場のエスコートは自分がしたいだろう。病室で寝たきりのお父様は歩くことも難しいとのこと。なんとかドレス姿を見てもらいたい一心で上司に相談をしました。

前撮りでお父様の病室まで会いに行くのはどうだろう?

初めは前撮りに来てもらってのミニセレモニーを考えていましたが、ご体調を考え病室まで会いに行くという話になりました。

1番私が悩んだことは、おふたりへどんな言葉で提案を持ちかけるかということ。既に割り切ってしまっているふたりに対してこの提案を伝えてどんな反応が返ってくるのか。それが1番不安でした。でも、ここでもし脅えて提案できなかった時のことを考えると 伝える一択しかありませんでした。

そして、ふたりから返ってきた言葉は「 少し考えてもいいですか 」というもの。あぁ、やってしまった。返って彼女の傷を掘り返してしまったかもしれない。

即答できない気持ちも痛いくらい伝わってきたからこそ、おふたりの想いが聞ける時をただ待つことにしたある日、おふたりから電話がかかってきてこう言われました。「 やっぱりお願いしたいです。きっと後悔する気がする。 」嬉しくて嬉しくて受話器を握る手が震えていたのを覚えています。

そして迎えた前撮り当日は晴れ。彼女のお母様も嬉しそうに付き添ってくださいました。前撮りも順調に結び、いざお父様の病院へ。コロナの関係で病室までは同行出来なかったけど、面会を終えた彼女の表情は決して忘れられない私の宝物です。
そしてお父様は前撮りから2日後、息を引き取りました。彼女のお母様からご丁寧にご連絡をいただき、「 きっと安心したんだと思います。本当にありがとうございました。」その一言で私がしたことは間違いでは無かったんだと強く思うことができました。

ご家族だけの愛に溢れた1日
すべてのゲストの心の中には必ずお父様がいて
ふたりの門出を祝福しているようだった

ご結婚式前日に彼女から、やっぱり手紙読んでもいいですか?と言われました。打ち合わせの中では頑なに読まないと言っていた彼女は今どんな気持ちなんだろう?
震えた声でも堂々としていて。
「 いつだってかっこよくて、
私の自慢のお父さんとお母さんです 」

こんなにキラキラした彼女を見たのは初めてで、つい見とれてしまっていました。

ご家族テーブルの真ん中にはそっと微笑むお父様のお写真。
彼女の懐かしい姿がたくさんの生い立ち映像が流れるとお母様は写真を膝にのせてご夫婦一緒にご覧になっていました。

熱燗を注ぎ写真に手向けるお父様の弟さん。
ふと流れてきたビートルズを口ずさみながら。

Some are dead and some are living
In my life I’ve loved them all

亡くなった人もいれば生きている人もいる
僕が生きている間 彼らを皆愛してきた
たまに彼らを思い出したりするだろうけど
この人生でなにより君を愛してる

すべてのゲストの心の中には必ずお父様がいて
まるでふたりの門出を祝福しているようでした。


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