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地獄でなぜ悪い


ヤクザの組長・武藤(國村隼)は獄中にいる妻・しずえ(友近)の夢を叶えるために、本業そっちのけで娘・ミツコ(二階堂ふみ)を主演にした映画の製作を画策している。面会の度にしずえに対して、撮影は順調に進んでいると場を取り繕う武藤。しかし、肝心のミツコは男と逃亡中、そして、しずえの出所まではあと9日しかない。金に糸目をつけず、片っ端から撮影機材のレンタルをしながら、なんとか娘の身柄を確保した武藤は、ミツコから(実はすべて嘘なのだが)映画監督と紹介された駆け落ち男・公次(星野源)を監督に抜擢し、本格的に撮影準備を始める。映画監督として騙しながら映画を撮影しないと殺される公次は、右も左もわからぬまま、オールヤクザのスタッフの質問攻めに対応していくが、限界に達しその場を逃げ出してしまう。簡単に追っ手の組員に捕まってしまう公次であったが、そこに奇跡のような助っ人が現れる。それは「いつか一世一代の映画を撮りたい」と、少年期から映画監督を夢見る平田(長谷川博己)であった。映画の神様は自分を見捨てていなかったと、満を持して撮影内容の段取りを始める平田は、武藤と敵対するヤクザ組織の組長であり、過去の衝撃的な出会いからミツコに異様な愛情を抱く池上(堤真一)に協力を要請する。かくして、ホンモノのヤクザ抗争を舞台にした、スタッフ・キャストすべて命懸けの映画が、電光石火のごとくクランクインしようとしていた・・・。

〈以降、ネタバレしかございません〉

珠玉のエンターテインメント映画である。園子温監督最新作、『地獄でなぜ悪い』。

一見ばらばらの人生を歩んでいるかに見えたヤクザの組長、4人の敵ヤクザを1人で撃退するその妻、子役をやっていたその娘、その娘にあこがれていた一般男性、その娘にあこがれた敵のヤクザの組長、映画監督を夢見る男とその撮影クルーたちが、幾重もの偶然によって結びつき、ありえない展開へと発展していく。
そのありえなさが現実的かどうかなんて全く気にならない圧倒的な世界観。観客を引き込んで離さない映像美。
作品には全編を通して過激な暴力が描かれているが、それを全くと言っていいほど残酷に感じさせない演出。あくまでも暴力は味付けのひとつであることを、観る者すべてに一瞬で理解させる作品の強度。男が頭を日本刀でかち割られるシーンも、そこだけを切り取れば残酷でしかないシーンでありながら、映画自体の世界観によって館内は爆笑に包まれた。「全てのシークエンスがコメディの要素だと理解した」としてこの映画をR15+指定ではなくPG12指定とした映倫の判断は、英断ではあると思うが、必然だとも思う。

また、出演者それぞれのキャラクターもすばらしかった。
ヤクザの組長を演じる國村隼の抜群の安定感、長谷川博己の狂気じみた情熱、二階堂ふみのたくましさと色気、星野源の普通さとそこから絞り出した強さ、友近のリアルさ、堤真一のコミカルさ。
脇を固める石丸謙二郎やでんでん、神楽坂恵、渡辺哲の存在感も凄かった。

この映画で印象に残るシーンは、やはり笑えるシーンになると思う。
池上がミツコへの想いを燃やすシーンはどれも笑えるし、公次や平田が感情を爆発させるシーンも声を上げて笑ってしまう。
首が飛んだり、頭に日本刀が刺さったりといったシーンで爆笑が起こることってあるんだなと驚きだった。

それでも、ただただ笑える作品だというわけでもないのがこの映画の凄さ。
やはり平田が血まみれになりながらフィルムを持って全力で走るラストシーンが一番印象深い。周囲の人々が次々と死んでいき、自身も深手を負ったにもかかわらず、長年の夢であった「永遠に刻まれる一本」をとることができた喜びに喝采を上げながらひた走る。『地獄でなぜ悪い』というタイトルにピッタリとはまるシーンである。
また、そんな素晴らしいシーンをただでは終わらせず、カット後の風景を撮り続けることで、役を解かれた長谷川博己や、撮影スタッフすら映り込んだ映像をラストシーンとすることで、あえてほころびを作ったことに味を感じた。

「作品の強度」という日本語をカッコイイと思う。本当にこんな言葉遣いが正しいかどうかはわからないけれど。
そして、この強度が今最も高い監督の1人に、間違いなく園子温は挙げられると思う。

映画館で観られて良かったと思うし、ぜひ映画館で観るべき映画だと思う。
エンドロールが終わった後、観客から拍手が起こるのを、この映画で初めて体験した。
笑えてスカッとして感動して元気をもらえる。計り知れないパワーを持った映画だと感じた。

最後に。

二階堂ふみめっちゃ可愛かった!!!

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