フェリーでライブから帰ってきたとき

ライブ帰りに新幹線でも飛行機でもバスでもなく、フェリーに乗ってみた。
区間は東京港~徳島港、航行時間は19:00~翌13:20の約18時間である。

平塚で友人と別れた後、東京方面へ戻る列車に乗り込んだ。常に誰かと一緒にいる旅であったので、ひとりぼっちがひどく身に染みた。

列車は途中で2回乗り換え、最後はりんかい線の国際展示場駅に降り立った。フェリーに乗るには、ここからさらに30分歩かねばならない。

丸の内の絢爛を背に、独り黙々と工業地帯を歩いた。高層ビルは次第に工場へと姿を変え、東京とは思えない静寂が辺りを包み始めた。歩けば歩くほどライブの思い出が脳内を駆け巡り、寂しさが募っていく。
ところがその寂しさは妙に心地が良かった。今だけはなんら騒音のないこの空間で、最高の思い出に浸っていてもいいのだ。

人生には立ち止まって走馬灯を眺めるだけの時間が欲しい。たった30分間の出来事だが、大事にしたいと思える価値観にも繋がる濃密な時間であった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?