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住環境を整えて健康に

家にいる時間が長くなった人々が増える中で、住環境の質について気にする人も増えてきました。住居内の空気汚染が原因となり、1990年代後半以降、「シックハウス症候群」と呼ばれる健康上の問題が注目されました。近年でも、この症候群に苦しむ人々が存在し、生活スタイルや化学物質の影響といった要素についての研究が進められています。シックハウス症候群は過去の問題と捉えることはできず、現在でも重要な課題の一つであり続けています。

【シックハウス症候群】

シックハウス症候群とは、住宅や建物に関連したさまざまな健康問題の総称です。この症候群の主な原因は、住居の壁、床、天井、家具、家電製品、おもちゃなどから発生する化学物質、タバコの煙、暖房器具から出る一酸化炭素、ダニ、カビ、細菌などが挙げられます。住宅の気密性や断熱性が高くなり、室内の空気が汚染されやすくなること、そしてライフスタイルの変化が背景として考えられています。

この症候群の症状は、目がチカチカする、鼻がムズムズする、鼻水、喉の乾燥や痛み、頭痛、湿疹、吐き気、めまいなど様々です。症状の程度も個人差が大きく、何の問題もなく生活できる人もいますが、症状が非常に重くて室内にいられない人もいます。特にシックハウス症候群の特徴として挙げられるのは、屋外の新鮮な空気に触れると症状が軽減または消失するという点です。

シックハウス症候群は、日本では1990年代後半から社会問題となっています。この症候群は、建材などに含まれる化学物質が原因とされており、その症状は頻繁に起こります。この問題を受けて、2003年に建築基準法が改正され、建築物における一部の化学物質の使用が制限され、全ての建築物には24時間換気システムなどの機械換気設備が設置されるよう義務付けられました。

しかし、今でもシックハウス症候群に悩む人々が存在しています。これは、まだ規制の対象外である化学物質が原因である可能性があるためです。具体的にどの化学物質が症状を引き起こすのか、またどの程度の濃度が問題となるのかは個人によって異なります。

そのため、将来的にはまだ規制されていない代替品なども含めた化学物質に対応する必要があります。この対策として、総揮発性有機化合物(TVOC)の総量に基づいた規制が現実的な解決策と考えられています。TVOCは、一度に放出される有機化合物の総量を示す指標です。この規制により、シックハウス症状を抑えることが期待されます。

シックハウス症候群になりやすい人
以下のような人は、シックハウス症候群を経験する可能性が高いことが示唆されました。

  • 女性は、男性の1.2倍

  • 若い人(20代)は、60代の2.42倍

  • 喘息の既往歴がある人は、ない人の1.41倍

  • 神経質な人は、そうでない人の1.56倍

  • 喫煙歴がある人は、ない人の1.24倍

  • 室内で喫煙する人がおり、受動喫煙している人は、そうでない人の1.25倍

  • 床にカーペットを敷いている人は、敷いていない人の1.48倍

  • 室内でホコリをよく目にする人は、目にしない人の1.56倍

【滞在型の被験者実験】

実験では、見た目や外観はほぼ同じであるが、化学物質の濃度が異なる2つの実験用住宅(一般的な新築住宅と、極めて低い化学物質濃度を実現した住宅)を使用しました。この実験はおおよそ4年間にわたり行われ、延べ300人以上の参加者(その一部を解析に使用)が含まれました。被験者にはどちらの住宅にいるかを知らせずに、約90分間滞在してもらい、脳波を測定するなどのアンケート調査を行いました。その結果、化学物質濃度が高い空間に入ると、シックハウス症状が約6.89倍も経験される可能性が示されました。

さらに、化学物質濃度を極めて低く抑えた住宅では、新築住宅(化学物質濃度が通常範囲の想定)と比較して、リラックス状態を表すα/β波が約1.6倍も多く観測されました。アンケート調査でも、「リラックスできて快適だ」と評価された人の割合は、化学物質濃度が低い住宅の方が新築住宅よりも約1.2倍も多かったです。結果として、化学物質濃度を低く抑えることは、シックハウス症候群対策だけでなく、休息時のリラックス効果を高める可能性があることが示されました。

【健康に暮らせる住環境づくり】

シックハウス症候群のリスクを少なくするための方法のひとつは、家に含まれる化学物質や潜在的な原因物質を少なくすることです。先述の研究結果からも分かるように、化学物質の少ない環境はリラックス効果もあることがわかっています。化学物質を完全に排除することは不可能ですが、もし家を建てる機会がある場合は、化学物質を少なくする方法について建築会社などに相談してみることもおすすめです。ただし、天然素材の家が必ずしもシックハウス症候群のリスクをなくすものではないことに注意が必要です。例えば、木材の香りにも化学物質が含まれており、それに反応する人もいます。

シックハウス症候群の原因は、建物から発生する化学物質だけではありません。そのため、家を建て替えたり引っ越したりするだけでなく、以下のような日常生活の中でできる対策も重要です。特に子どもがいる家庭では注意が必要です。なぜなら、子どもは大人よりも体重1キログラム当たりの呼吸量が多いため、空気中に含まれる化学物質の影響を受けやすいと考えられています。

【日常の中で行えるシックハウス症候群対策】

換気をする:
換気を行う際には、窓を開けて定期的に換気することが重要です。特に、2003年以降に建てられた家では、24時間換気設備が必須となっています。寒さを理由に換気を行わないように、気をつけましょう。また、換気口や空気の通り道に大型の家具などを置いてしまうと、十分な換気ができなくなる恐れがあるため、物の配置にも注意が必要です。

こまめに掃除をする:
掃除をこまめに行うことも重要です。ホコリが溜まらないよう、定期的な掃除を心掛けましょう。カーペットを敷く場合には、ホコリが溜まりやすくなる可能性があるので、注意が必要です。丁寧に掃除を行うことで、ホコリやダニなどを最小限に抑えることが大切です。

においのする家具などはできるだけ避ける:
においのする家具やおもちゃなどは、可能な限り避けるべきです。これらから発散される化学物質も、シックハウス症候群の原因となり得ます。購入時ににおいがあるものは、避けるか、可能ならば一定期間、屋外に置いて揮発させると良いでしょう。

湿気に注意する:
こまめに室内の湿度を確認し、適切なレベルに保つことが大切です。湿気が高くなると、カビが繁殖しやすくなるため、注意が必要です。湿度が高くなりすぎないように、加湿器や除湿機を使用するなどの対策を取りましょう。また、室内の適切な温度と湿度を保つことは、さまざまな疾患の予防にも役立ちます。

タバコを吸わない:
タバコを吸わないことも重要です。ただし、室内での喫煙はもちろん、ベランダでの喫煙でも室内に煙が入り込むことがあります。そのため、禁煙することが最も望ましいです。禁煙することで、自分自身だけでなく、一緒に暮らす家族のシックハウス症候群や他のさまざまな疾患のリスクを低減することができます。同様に、電子タバコも室内で使用しないようにしましょう。

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