関学文芸部

関西学院大学文化総部文芸部です!部内誌に投稿された作品の中から、一部を載せていきたいと…

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関西学院大学文化総部文芸部です!部内誌に投稿された作品の中から、一部を載せていきたいと思っています。ぜひ読んでみてください。よろしくお願いします!

最近の記事

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新月祭 詩歌の会

    • 空木卯月『夏の少女』ポスター

      • 空木卯月『夏の少女』

        人生はまだこれから(上)   卯月こと 一緒に死のう、と夏実が自転車の鍵を差し込みつつ、唐突に言った。  ずいぶん先の約束だと思いながら、いいよ、と穂乃夏は答える。 「今すぐ」 「今すぐ?」  午前に終業式を済ませて、駐輪場は既に部活を引退した三年生ばかりで溢れている。大学受験に向けて勉強に本腰を入れるタイミングだが、それでもみんなが浮足立っていた。  夏休みが始まる。  二人の自転車は隣同士にとめていたから、ざわめきに声がかき消されることはない。穂乃夏が夏実の言葉を聞き間

        • 『グミ』町井シュウト

          あーイライラする、イライラする。グミ食べようグミ食べよう。目の前にグミの入った大きな袋がある。カラフルな配色に真ん中にでかでかと大きく、「スーパー果汁グミ」と書かれてある。端っこには仰々しい宣伝文字、何よりこの転載感満載の果物の写真! 悔しいけど食欲そそるんだよ! 悔しいけどよ、よ、よだれが……。  あーわかった、食べるからちょっと待っとけ。 ううん、あれ? おかしいな。袋ってこんなに硬かったけ? 袋を必死に引き裂こうとするも、うんともすんともしない。俺はグミを食べたいと思っ

        新月祭 詩歌の会

        +26

          『color boy/僕のこと』伊藤仁織

          「color boy」 僕のいないとこで幸福(しあわせ)にならないで ビー玉越しの泡はカラフル 想い出はモノクロームで 心臓のメトロノームはアイスクリーム 透明をたくさん重ねて青にする ぬるま湯みたいな僕の青春 絶対に言ってやらないけど 君のスマホカバーの色が好きだよ 夢見がち白紙に戻そう遣唐使 わたあめの中で朝まで昼寝 「僕のこと」 透き通る覚悟のネイルは四時半に 寝惚けた猫の背中を撫でる 新曲は機械が歌ってくれるから も少し眠っていても良いかな ラジオから

          『color boy/僕のこと』伊藤仁織

          『途中』七麩花麟

          理不尽ばかりと思う世の中でも  見逃していた教室の隅で 誰かが 美しい連鎖を静かに続けていることがある 私は彼らと同じようにしゃがむ 同じように見つめる 彼の見つめている地面の先を 彼は何を見つめているのか 彼は単に砂弄りをしているのではない 静かに水車をまわしていたのだ 水車をまわして、田畑に水を加え、 夏の虫たちを救っていたのだ こんなふうに、見捨てていた世の中に 美しい解と数式が歩みを続けていたりする 私たちは呆然と彼らの前に佇む そして彼らの仲間に入りたくなる

          『途中』七麩花麟

          『爪』七麩花麟

          うっかり 娘の爪を切り忘れていた 柔い幼女の爪は 秋の気配を感じ取り 端から切れ目を作っていた 最後まで千切れずに真ん中で爪の役目にしがみついてゐた わたしは 端から やわらかな爪のきれはしをとってしまった たった四か月前に生まれた人間の鈍器は ちいさくて ちいさくて ちいさくてもなお 産まれてきた朝の匂いの一部だった

          『爪』七麩花麟

          『花の舞』登坂ニワト

           見晴らしの良い草原に、ぽっかりと浮き出た丘があった。  そこには一本の大樹がいた。  天に向けて聳え立つその威容は見事の一言に尽きる。たくましく太い幹にたくさんの枝を生やしており、遠くからでも見えるほどに大きい。幹のごつりとした感触は長い年月を生きてきた風格を漂わせていた。  しかし、見渡す限り草原のこの丘には、そのたくましさを見せる相手も話し相手もおらず、大樹は日々果てなく続く緑を飽き飽きしながら眺めていた。  やがて、そんな日々にちょっとした転機が訪れた。  それは殴り

          『花の舞』登坂ニワト

          『風鈴』藤島時雨

           涼しげな音が耳に入る。今時ではどうやらこの音さえも騒音と呼ばれてしまうらしい。私がそう言うと、息の詰まりそうな世の中だな、なんて父がぼやく。  フローリングの床に寝そべって、ひんやりとした感触をTシャツ越しの背中で感じる。畳だったころの床にはない感覚だ。テレビは相変わらず高校球児たちの姿を映し出している。父は毎年欠かさず見ては自分の高校時代の武勇伝とやらを語る。あの名門校で六番サードだったのだ、と。私は野球の経験がないので凄いのか何なのかもよく分からないまま、このセリフを二

          『風鈴』藤島時雨

          『エデンの研究』(後編) 白河夜船

          「ケルビムさん、あなたは不自然に感じなかったようだ」 「ああ、話が理解できないなら智慧の実を食べに行けばいいんだ。道がわからないなら教えてやれる」 冗談がブラックすぎやしないか? いらぬわ。 「食わないことは分かっていた。そんな目で見ないでおくれ」       *  俺が智慧の実を食べたのはいつ頃だと思う? アダムイヴ世代から数世代前からだ。じつはアダムイヴ以前から人間のつがいってのは何度も作られていた。もちろん、みな体のつくりは同じだ。姿かたちは主様と似せて作られていて

          『エデンの研究』(後編) 白河夜船

          『エデンの研究』(前編) 白河夜船

           主なる神は、エデンの地にアダムとイヴという人間を作った。エデンには智慧の樹と生命の樹とがあり、神はアダムに『智慧の実は食べてはならない』とおっしゃった。しかし、とある蛇がイヴを唆し、彼女はアダムと共に智慧の実を食べてしまう。  神は二人をエデンから追放、再び彼らが永遠の命を得ることがないよう、生命の樹へ至る道にケルビムと炎の剣を配置した。  なお、蛇は罰として地を這うものとなった。                『創世記』より要約  私の名はケルビム。智天使ともいう。 

          『エデンの研究』(前編) 白河夜船

          『皮を剥いだとて』 鳥神青路

          ある日を境に人類が化け物へと変わっていった 羽がはえ うろこがあらわれ 融けて固まり  あったはずのものが消え ないはずのものが生えた 一人一人違う形になった 身体も大きくなったり 小さくなったり 上は象くらい 下は猫くらいまで  異形になっていくことに絶望して自殺する人が何人もいた 私は死ぬ勇気も起こらずおびえながら無様に生きて化け物になった 五日過ぎた頃には人類が一人残らず化け物になった 窓から外を見るとぶよぶよした真っ白の肉達磨がたぷたぷと腹を揺らしながら三本足で歩

          『皮を剥いだとて』 鳥神青路