日本沈没2020

Netflixで公開された「日本沈没2020」が奇跡の怪作だったので居ても立っても居られない。微妙にネタバレします。

---

原作は有名な「日本沈没」で、CMでは天災を通して家族愛を描く、とうたっているが、それは全て建前である。言うなれば、本当は音色や音響をメインに聴かせたいんだけど、それだとマニアック過ぎるからメロディやリズムもちゃんとした上で戦うエクスペリメンタル音楽やノイズミュージックみたいなもんで、映画のプロットはあるのだが、それらは全てエクスキューズ、裏にもっとエグい構造やサンプリングの実験がある。

---

これは単に制作進行的に仕方なかっただけかもしれないけど、

舞台設定が、無事にオリンピックが終わった後の東京2020!ヤバい!今見る他ない!

---

この作品を一言で表すのは難しい。思いつくキーワードを上げれば、天災、地震、家族愛、ジュブナイル、君の名は、サバイバル、千と千尋の神隠し、Youtuber、中年のドロドロした恋愛、ホークアイ、ゾンビ物、ミスト、大麻、薬物依存、新興宗教、超能力、フリースタイルバトル、DJ、天気の子、インサイドヘッドの本編上映前にドリカムをバックに知らない人の写真を見せられるアレ、マイナンバーカードは重要!等だ。意味不明に見えるが、見た人にはわかると思う。この作品にはこれらが全てある。

---

湯浅監督がやりたかったのはサンプリングだと思う。前作の「DEVILMAN crybaby」では、全編に渡ってラップで狂言回しをするという離れ業をやってのけている。

そもそも何故デビルマンをヒップホップにしたか、という発端については、あらゆる過去のデビルマン作品を組み込んで昇華させるため、邦画史上歴代ぶっちぎり1位の完璧に奇跡的な駄作、「実写版デビルマン」を救うため説があり、K-DUB-SHINEのラップをバックにデブが押し寄せてくる、というシーンを抽象化して発展させた、と言われてたりする(これはどこかの考察サイトの受け売り)

過去のデビルマン作品の要素を全て繋ぐ=サンプリングで成立させていたのが「DEVILMAN crybaby」だとして、「日本沈没2020」ではその手腕に磨きがかかっている。

つまり、上記にあげたサンプリング要素が、ヒップホップも介さず全て同居している。そんなんで成立するのか?と思ったあなたは正しい。成立はしていない。しかし同居はする。そして何故か飽きずに観られる。ここが凄い。そこにテクニックがある。

---

サンプリングをして作品を成立させ、しかも大ヒットした作品に、「君の名は」がある。

あの作品は不思議なことに、賛美も批判も1点に集まる、

全てがやり過ぎなくらいベタ(だから気持ち良い/だから良くない)。

それを受けた上で、あそこまでベタで組んで成立させてヒットさせるの、めちゃめちゃ難しいに決まってるだろ!という反論もある。それは確かに、というかめちゃくちゃ凄い。

本論に戻ろう。「日本沈没2020」が凄いのは、「君の名は」で行われていた全てが気持ち良いベタ、それを超絶技巧で繋げる、という手法をズラしているところだ。

要約すると、ベタの引用の寄せ集め/繋がらないから破綻する/だけど最後まで観れてしまう。

「君の名は」と照らし合わせた時、まるでヒーローとヒールの鏡合わせの関係のように、構造は同じなのに向いている方角が違うように感じる。

---

音楽関係者が、あまり本編の内容には触れず、牛尾さんの劇伴が良かった!と呟くのをいくつか見た。いやもうマジで、この劇伴は素晴らしい以外無い。

普通はこういう家族愛を全面に出した作品の場合、はい!誰か死にました!壮大なストリングスどうぞ~、となるのが邦画の定番かつ病巣なのだけど、そんなことは一切やらない。むしろ、第一話で日本がぶっ壊れていく中、淡々と優しい音楽が流れ続けるシーンは、世界の終わりの美しさをこれでもかと表現していて素朴に震える。

こうした音楽の良さ、バラバラの要素を同居させてしまう監督の手腕でこの作品は存在している。

---

テクニカルなうまさの例としてネタバレする。最終話で崩壊前の日本を振り返るシーンがある。その中で唐突に、駅の改札口で何かイヤらしい感じでキスをする数組のカップルが映し出される。ここのプロットは前後の流れ的には、さあ泣いてください!みたいな感じなのに、いきなりこれが出てくる。違和感を覚える。

ギョッとして突っ込もうとすると、次の瞬間に3歳くらいの子供にキスをする母親の絵が出てくる。「あ、さっきカップルのシーン出てきたけど、ちょっと見せ方失敗でしたかね?まあ、ここはほら、愛を描いたシーケンスなんで」と言われているような気がする。

そうなると、うん、まあそういうこともあるよね、とグッと違和感を飲み込むしかないんだけど、しかし、これを意図的にやっているように感じた。

変な物を、巧い技でコーティングして、観客にグィッと飲み込ませる。

こうしたことが全編でとにかくにひたすら超人的に展開され、家族愛と大麻と宗教とフリースタイルバトルが何故か繋がってしまう。

---

サメも出るよ!

---

監督のインタビューを読むと、物凄く真面目にこの作品について語っているし、プロモーションやSNSを通じたキャンペーンも泣かせ系なので、上記は全て僕の邪推かもしれない。しかし、そうであるからこそ「笑ってはいけないアニメドラマ」に見えた。

---

久々にゲラゲラ笑った。最高以外無いです。おススメです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?