上海の魚料理

昔から良く聴いていた音楽には、それを聴いた瞬間に当時の記憶を強制的に思い出させる力がある、という話をしたことがある。

面白いことにその記憶には、視覚や嗅覚、その当時考えていたことなど、様々な情報が含まれている。当時にタイムスリップするような感覚。

人間の脳みそは面白くて、例えば高校の時の○○な状況を思い出そう!と決めても、そんな詳細には思い出せない。検索ワードがわからずにググろうとする行為に似ていて、○○が何なのかをまず思いつかない。懐かしい音楽には、ググり方も忘れた思い出にクリック無しで辿り着くような不思議な力がある。

こういうの、実は音楽だけではなく、映画やら小説やら、懐かしいと感じるもの全般にあるようだ。ケーブルテレビやNetflixで古い映画を見つけると、何となく古い記憶が蘇ってくる。ということが増えた。まあ、つまりはおっさんになった。

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昔、大阪梅田の阪急百貨店の上階にちょっと良い中華料理の店があった。海鮮系のアッサリしたメニューが中心で、小学校6年生あたりから家族と一緒にそこに行く。

僕は昔、かなり食わず嫌いがあった。例えば魚は白身しか食べられない。刺身は鯛で、焼き魚は太刀魚とか。ぶり大根とかの煮魚は食べない。飯好きの父は、いつだって自分が行きたい店を探しており、鯛の中華風サラダを出すその店を発見して記念日などに家族を連れて行く。

鯛のサラダや蟹のスープや汁そばとかを食べる。中華風の白身魚の煮付けも食べる。コース料理で拒否するのもなあ、と小学生なりに気を使って初めて見るものを食べる。食べてみたら凄くおいしい。時には親戚も一緒に行く。そこにはもちろん亡くなった母や祖母もまだいる。僕は子供なので、永遠にそういうのが続くと思っている。大学入学くらいまでは毎年行くが、やがて僕が忙しくなる。店は潰れて無くなる。

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先日、上海のライブにオファーして頂いた。空き時間に飯好きの友達が調べてくれて、良い店に行く。ミシュランに載っている店だ。

名物の魚料理を頼む。白身魚に生姜が効いた煮付けだ。これはめちゃくちゃにうまいなあ、と思いながら、僕の脳みそは阪急百貨店の上階へ勝手に飛んでいる。生きた車海老を紹興酒で酔っぱらわせて食べる料理にドン引いている自分を、家族が見て笑っている。ちゃんとしたジャスミンティーがうまい、とか色々と感動している。あの時、初めて食べた白身魚の中華風の煮付けも、生姜が良く効いていたのだ。

同時に、こうやって上海にライブで招待されて、友達と飯食ってる現在も中々良いことであるなあ、と思う。最初に頼んだはずの青菜炒めが結局出てこなかったっすね~と友達と笑う。





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