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「本業」に癒される。

昨日数年ぶりに抜歯した。

しばらく怒涛の日々だったせいか、急に歯痛に襲われ起きたら顔が腫れてた。じゃあ仕方ねえってんで歯医者に行くとすでに治療終わったはずのところが終わってないと。なんだかんだやりとりの後、即抜歯。即決即断の歯医者ゆえに治療後はバタンキュー。そんな日々が続いてたので本屋にもレコ屋にも行けてない。エヴァンゲリオンも観に行けてない。好きなマンガも買えてない。ディスクユニオンの店頭取り置きレコも放置しっぱなし。そういえばマイフェイバリットの「スキップとローファ」5巻(高松美咲著)も買ってない。「望郷太郎」4巻(山田芳裕著)もだ、って一昨日ここまで書いてて、本日ようやっとGET(WILD &TOUGH)。ついでに歯医者行ったらいきなり抜歯。いきなり、で思い出すのはUP-BEAT。デビューシングルが「Kiss・・・いきなり天国」。なんてキャッチーなタイトルなんだろう。

マンガ買いの話に戻ります。自分の体内スケジュールに毎月23日頃がモーニング、アフタヌーン系新刊詣で、月末がビッグコミック系と刷り込まれている。だけどこの1〜2年で爆買いマンガ祭りもだいぶ減ってしまった。発行点数も減ってる気がするし、電子で買うことも増えたし。
自分の購入ピークって2000年代末期、つまりmixi全盛期が一番買ってた時期なんじゃないだろうか。mixiとか1日何回更新してたんだか。。って時代だった。エネルギーが余っていたのか、承認欲求が今よりハードだったのか、まったく覚えてない。だってmixiの他にもブログ更新して発注きた原稿書き飛ばし、渋谷、下北、新宿のライブハウスをめぐる日々。高円寺在住の頃は駅前の大将で焼き鳥と酎ハイ、抱瓶でソーキそばな日常。のち久我山に引っ越してからは吉祥寺がここに徘徊エリアとして加わってくる。真夜中わざわざ井の頭公園を通過してほろ酔い気分で帰れる距離。あれがよかった。

とにかくボクは本屋が好きだし、まともな本屋がない街には住みたくない(本音)。吉祥寺のブックスルーエが大好きだし、初めて行ったブックオフは荻窪店。西荻の古本屋でちばあきおの「プレイボール」全巻セットを大人買いしたこともあるし、南阿佐ヶ谷の今はなき駅直結のあの本屋にどれだけお世話になったことか。狭い店内にキャパオーバー気味に押し込まれた大量の本と紙の匂い。そんな環境には何時間でもいれるし、まだ整理整頓中のボクの書庫的六畳間はやっぱり古本屋の匂いがする。いいんだよな、これでと思いここ一ヶ月ほど整理作業をサボるオレ。いつになったらカオス状態から抜け出せるんでしょうかね。棚から溢れた膨大な本の山。自慢の柳沢きみおコレクションなどなど・・現段階ではとてもじゃないけど人様の目に晒すことなんかできないよ(ここは楠瀬誠志郎の「ほっとけないよ」的なニュアンスで)。

さて、昨夜、ボクは抜歯後のどんよりした気分を払拭すべく「本業」(水道橋博士著)を本棚から引っ張り出した。小林信彦の「笑学百科」にも通じるライトエッセイとも受け取れるノリがいいんです。さらりと読めるし、なによりも諸星和巳の自伝「くそ長いプロフィール」をここまで明確にレビューしたテキストをボクは知らない。「お笑い男の星座」や「藝人春秋」シリーズのようなルポ文学とはひと味違う、だけどやっぱり読み出したら止まらない魔性の文章は健在、つい加賀まりこの「とんがって本気」や荻野目慶子の「女優の夜」再読してみようかなって思ってしまうほど。そう、ボクも2000年代前半まではタレント本コレクターだったのだ。上には上がいると思ってやめたけども。「日本の喜劇人」とか横山やすし、渥美清のあの評伝シリーズだとなかなか気軽に読めないけど、なんか読みたい時ってあるじゃないですか。とはいえボクは自己啓発本とか苦手だし、苦手な分野の本なんてわざわざ読みたくないじゃないですか。でもニーズがあるんでしょうね。コンビニサプリ、もしくは睡眠不足の朝、出勤前のユンケル一気呑みにも通じる応急処置。

気分が盛り上がらない、ザ・グッバイ時代の野村義男が書き下ろした「気分モヤモヤサラサラチクチク」な冴えないテンションのときほど、ボクは自分の好きな文章に身を深く沈める。リズム、語感、行間の心地よさに癒されたくなる。小林信彦なら「時代観察者の冒険」、前述の「笑学百科」、「悪魔の下回り」だし大槻ケンヂなら「のほほん雑記帳」、松本隆の「微熱少年」、そして浅草キッド・水道橋博士名義で出版されたこの「本業」がそれにあたる。

文章に触れるって、単に文脈を紐解いたり物語を追ったりすることだけじゃない。書き手の肌感はむしろその文体や行間、言葉のひとつひとつに宿ってる。書いてることそのものにも(読み手との)相性はもちろんあると思うけど、アリかナシかの判断って無意識のうちに書き手の質感を通じて結論下しちゃってると思うんですよ。やっぱりどんなに売れてて話題の作家でもページをめくるのがつらい作家って何人かいますし。これはもはや相性の問題でしかない。

そんなわけで「藝人春秋」シリーズほどの濃密さはないけれど、ボクはこの軽みがたまらなく愛おしいと思ってる「本業」もあえてリコメンドしておきたい。もともと2005年に単行本が出て文庫版が2008年発行なのでネタは古いと思われるかもしれませんが、鋭い着眼点は最高。ちなみに1番好きなネタ(書評)は長嶋一茂の「三流」。一茂が満塁ホームラン打って、、(ネタバレなので詳細割愛)のくだりを冷静に分析するとこはさすが。「三流」はボクも読んでましたがすっかりウェットな感情に流されるところでした。あぶない、あぶない。あやうく和製フィールド・オブ・ドリームスな世界にうやむやにされるところだった。

ニヤっとさせられるちょうどいい具合。「藝人春秋」シリーズや「お笑い男の星座」シリーズほどの濃密さはないけれど、いうなれば天下一品におけるたまにオーダーするとやけに旨い「あっさり」ラーメン的テイスティ。醤油ベースのさらりと豚骨風味を醸し出すあの感じ。つまり「くせ」になる旨さってやつだ。
なのでボクはこの「本業」、たまーにムショーに読みたくなる。文庫化された「藝人春秋」シリーズを読み切って、まだまだ足りないと思ってる方はぜひ手にとってほしい。いい味、でてますよ。

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