マスパーティは数楽の宝庫

「数学」

 その単語を聞くと,どことなく気分の悪くなる人がおられるかもしれません.意味も分からず覚えさせられた公式,テストの点を取るためだけの計算,自分だけ置いてけぼりにされた気がした授業….人々が数学を嫌いになる理由は枚挙に暇がありません.

 「数学好き」という人たちがいます.数学の公式・論理・定理…それらを愛してやまない人たちです.そんな人たちを見た人はこう思うかもしれません.「数学の何がそんなに面白いのだろう?」.

 たしかに言葉では説明しにくいところです.しかし,その答えの一つは「マスパーティ」にあったのでしょう.

1.マスパーティとは

 マスパーティとは,数学研究生,本物の数学者,数学好きな人,数学はよくわからないけど興味がある人…などが集まって,数学のことを見たり聞いたり話したり,ときには遊んだりするイベントです.

 2019年10月19日と20日の2日間わたり,株式会社すうがくぶんか様と和から株式会社様のスポンサー協力のもと,横浜で開催されました.

 マスパーティの様子はyoutubeでも配信されております.

数学の楽しみ方の見本市「マスパーティ」Part1
数学の楽しみ方の見本市「マスパーティ」Part2
数学の楽しみ方の見本市「マスパーティ」Part3

 私は「数学デー」というものに何度か参加させていただいたことはありましたが,このように2晩続く大きなイベントに参加したのは初めてでした.

 マスパーティやこれに準ずるイベントに共通する理念があります.それは「理解しなくてもOK」ということです.マスパーティで語られる内容には,ときおり高度なものが登場します.しかし登壇者の皆様は,理解してもらえずともニュアンスを感じ取ってもらえれば有難いという姿勢を持っておりました(もちろん発表の視聴は強制ではありません).そのため,大変リラックスして参加することができます.

 理解を強いる学校の数学とは根本的に違うわけです.数学に堅苦しいイメージを持っていらっしゃる人も多いかと思いますが,この点は安心して頂けるところだと思いました.

 マスパーティでは,それぞれ特色の違う催しが行われていました.

【数学カフェ】【日曜数学会】【数学デー】【数学ゲーム大会】【ロマンティック数学ナイトゼータプライム】

 すべてに関して感想を書いているとすごい分量になりそうなので,日曜数学会・ゼータについて,かいつまんでみます.

2.日曜数学会

 日曜数学会は,数学好きな人からそうでない人まで,ありとあらゆる人たちが5分間だけ自分の"数学"について語る会です.

 趣味で数学をする人たちのことを「日曜数学者」と呼んでいるようです.これは tsujimotter さんがそう名乗ったことに由来するらしいです.

 数学について存分に語ってみたいと思う人たちはたくさんいると思います.日曜数学会はそんな人たちにピッタリの場だと感じました.

 そこではガチな数学やゆるい数学…あるいは数学に限らない話まで聞くことができます.思いもしないところで数学のあんなことやこんなことが役に立っていたり,独特な考え方を持つ人がいたり…ハッとさせられる話も多々ありました.

 日曜数学会は,地方でも開催されることがあるということで,チャンスがあれば私も登壇者として発表し,皆さんと語り合いたいですね.

3.ゼータ

 数学の中でひときわ輝いているものがあります.「ゼータ」.その魅力にとりつかれた人たちは数多いようです.

 ゼータとは,ある性質を持った関数たちの総称です.数学界最大の未解決問題「リーマン予想」とも関係が深いものです.

 「でも,こんな難しいものに興味を持つのは数学者とか,めちゃくちゃ数学ができる人ぐらいのもんでしょ?」

 そんなことはありません.今回のロマンティック数学ナイトプライムゼータでは,一般の人たちに向けたゼータ話の時間も用意されていました.そこで一般の方にも分かりやすくそして魅力たっぷりにゼータが語られていました.

 「でも一般向けの話だから,内容は薄っぺらになってるんでしょ?」

 そんなことはありません.私は数学科でゼータ関数にも何度か触れていますが,それでも皆さんの話には惹き込まれます.「ゼータのこんな魅せ方があったのか…」とか「こんな理論があったのか…」など….

 ゼータ関数の魅力の一つは何と言っても,素数との関係でしょう.素数は決して割り切ることのできない整数です.

 素数はいつ出現するのか.それはまるで,神がサイコロを振って決めたかのように気まぐれで予測できないものです.素数はつかみどころのない存在なのです.

 対してゼータ関数は非常にわかりやすい形をしています.

 ゼータ関数は「有理型関数」と呼ばれるもので,それに関する理論は充実しています.つまりゼータ関数には様々な「つかみどころ」が存在しており,研究しやすい対象なのです.

 今回のロマ数ゼータでは,このゼータ関数をいろいろな観点から可視化されておりました. tsujimotter さんに至ってはゼータ関数のケーキまで作っておられたようです.また Vtuberの叶 数理さんがゼータ関数をチェーンソーで悠々と切断したり,指示棒にしていたのが印象的でしたね(バーチャルの話であり,リアルでチェーンソーをぶっ放したわけではありませんので).

 さて,ゼータ関数が素数と密接に関係しているということは,つまりゼータを解析すれば素数の情報を得ることができるということです.ゼータは,雲のような存在だった素数を捕まえるための糸口になっているのです.

 しかし素数はただでは正体を現してはくれません.解析しやすいはずのゼータ関数には,一部分だけ解析が難しく謎に包まれている部分があります.それが「クリティカル・ライン」と呼ばれる場所です.ゼータ関数の「零点」と呼ばれる重要なものが生息している…と考えられている場所です.

 このクリティカル・ラインにこそ,素数の情報が集約されています.この部分の解析の難しさは,素数の解析の難しさが形を変えて現れたものと考えられます.

 でも,ゼータ関数が素数攻略の糸口になっていることには違いありません.クリティカル・ライン周辺を解析することによって,素数に関するいくつかの問題は解決していきました.

 人間はそんなゼータに希望を見出し,それが魅力となって私たちに伝わっているのでしょう.

 この素数との関係は,理論的な部分は難しいものですが,ロマ数ゼータでは素数階段などを使って見事に可視化して下さっており,感動を覚えました.ゼータのクリティカルラインの情報を使って素数階段が出来上がっていく様は,深淵の美しさというものを感じますね.

 ロマ数では一般向けのお話の後,より高度なゼータ関数の話にも触れることができました.こういう話をたくさん聞いた後は,数学をやりたくて仕方なくなってしまいます.

 またゼータプライムの最後には,かのタカタ先生により,おそらく人類史上初となる「お笑いゼータ」が開帳されました.将来は数学お笑いショーみたいなものが大きなイベントとして開催されることでしょう.代数幾何漫才とかコント「幾何学的トポロジー」とか….

 4.得たもの

 私が今回マスパーティで得たものを細かく挙げていくと長くなってしまうでしょう.一言で表せば,

「数学の力」

です.これは単に,数学の知識や計算力を得たということではありません.もちろん知識もそれなりに増えましたが,何より【数学を続けていこうとする気持ち】【自分も数学で何かしたい気持ち】が膨れ上がったのです.

 すでに同人誌などで数学の活動はしていましたが,そのモチベーションも二重指数関数的に増大していきました.

 ここに書いた以外にも,さまざまな人たちとふれあう時間が多々ありました.その度に,こういうイベントが広がっていくべきだなと感じるようになりました.

 今後の数学デー・マスパーティ・日曜数学会・ロマンティック数学ナイトなどのイベントは広がっていくでしょうし,そう願っています.そして私もそんなイベントに登壇したり,主催したりしてみたいという気持ちが芽生えています.

 私は同人誌を書く人です.やおら,数学の同人誌即売会のようなものを夢想しながら,今日も数や空間,そして誰かの数学ストーリーに思いを馳せています.








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