キャラメル

通勤途中、バスのロータリーで前を行く若い男性が物を落とした。正確に言うと落としたような気がした。自分とほぼ同時に小学生くらいの男の子も気付いたようだ。男の子の目の前の地面には落ちたまま動かない、キャラメルの黄色い四角い箱。

男の子と目が合った。不安が見て取れる。「これどうしたらいい?」と問いかけて来るようだ。それに応えて声を掛ける。

「どうしたの?」
「あの人が落として…」

「渡しに行こう。」と言って足早に若者に向かおうとした時、男の子が手に持ったキャラメルの箱を落としてしまった。タイルの上に散らばるキャラメル。内心「ああ…」と思いつつ、取り敢えず男性に声を掛けるために駅の方へ向かう。既に男性は階段を昇り始めていた。

「すみません、あの…」音楽を聴いていて気付かれないので腕にタッチをして声を掛けた。「あの子がキャラメル拾ってくれたみたいですよ。」

振り向くと男の子は既に全てのキャラメルを元の箱に入れて駆け寄っている。男性はお礼を言いつつ、受け取ったキャラメルの箱から一つを取り出し男の子にあげていた。僕の方にも向き直ったので笑顔で頷きあう。

階段を先に昇りつつ、これから先の世界も捨てたもんじゃないと思えて少し涙が出そうだった。

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