見出し画像

リーダー修行記③(トライアルに出てみることにした…ら私が天才になった件について)

 観戦予定でチケットを取っていた競技会の後にトライアルがあることを知ったのは、当日まで2週間を切ったある日のことでした。
(別に私の情報収集力のせいではない。むしろ情報をキャッチしたのは早い方だったのではあるまいか)

 私はトライアルが苦手なので普段なら出ないのですが、この話を聞いた瞬間、2ヶ月前から本格的にレッスンしているリーダーを試すチャンスかもな、という考えが頭をよぎりました。どベーシックで1周踊るのが精いっぱいな上に、教室でしか踊ったことがないのに、何故そんな無謀なことを思いついたのか、今でも不思議です。(なんか仕事で嫌なことでもあったんじゃないかな。)

 なにしろ、スタンダードリーダーには、ルーティンを完璧に覚えても、リードをしっかり学んでもなお立ちはだかる巨大な壁があるのです。

 それは。

 フ、フロ……フロア、クラ、フト……。

 リーダー個人レッスン歴2ヶ月。回転量も方向もよくわかってないし、人を避けられない(避けなきゃいけない状況で踊ったことがない)。いつもと違う場所で踊るというだけでLODを見失う自信がある。さすがに無理言っちゃいけませんよ、と、私も一度は冷静になりました。なにしろこれは、リーダーがルーティンを忘れたら即終了、という恐ろしいダンスなのです。

 いや……?

 ちょっと待て。

 あれ……?

 自分がリーダー側もパートナー側も習ってる先生(男性)とだったら、「どうにもこうにもならなくなったらその場でリーパー逆転する」という奥の手が…ある…んじゃない?
 我ながら、あまりにも姑息な禁断の果実という気はするけども。
 少なくとも、フロアのど真ん中で立ち往生する心配はなくない?

 あ、これいいかも。

 という極めて短絡的な発想で、「私が『無理!』と叫んだら逆転してください」というひどい条件を付けて男女逆転トライアルをやることにしました!
 10日前に。
(仕事で相当嫌なことでもあったんじゃないかな。)

 まあ、動機や経緯が唐突で意味不明なのはともかく、出るからには、できるだけ「奥の手」は使いたくない。技術も経験もない上に時間もないけど、できるだけの努力はしておこう。と思ってレッスンに行きました。

 先生「とりあえず、今やってるルーティンでやりましょうか」
 私「ですね」(それしかできない。できるわけがない。むしろそれすら不安)
 先生「じゃあ一回最初から踊ってみましょう」
 私「あ、はい」

 人前で踊るときの組み方はな、パートナー側で散々やってるし、女性の先生にも習ったことあるしな、だいたいできる…んだけ…ど……え???

 なんだろう。この、組んだ瞬間から襲い来るものすごい違和感

 え? 何? これ何?
 なんかわからんけど今までと違う人が右斜め前にいる…気配が…(組んでいるので見えない)。

 ……ま、まあいいや。

 まずは…プレ…プレパレーション…をこのタイミングでする予定でしたか私?

 なんかいますごい角度でナチュラルターンに入りましたよ私?

 普段2回に1回は回転不足ダウングレード判定くらってるスピンターンもなんなく回れましたよ?

 常に何手も先を読み、パートナーの道しるべとなることができぬ者はリーダーを名乗るなかれ。
 と常々教えられている私ですが。

 いま、先を読む前に身体が動いてませんか。
 自然と方向を指し示していませんか。そっちに向かう想定は特にしてないんだけども。

 毎回、先生がハイド全開になるリーダーレッスン(詳細はこちらをご一読ください)では。

 なかなか最初の一歩を出てくれない。
 私のへなちょこリードの通りにしか動いてくれないのでとりあえず重い。
 ちょいちょい身体を持っていかれる。
 一瞬でもルーティン飛んだら即ゲームオーバー。
 正しくリードできないと動かん。テコでも動かん

 止まらずに一周回れたことなんかほぼない

 のに。
 今日はなんなのかしら。
 ついに私の中の眠れる才能が覚醒したのかしら。
 何も考えなくても正確にリズムをとり方向を決めルーティン通りにステップしパートナーを華麗にリードする能力が開花したのかしら。

先生「ひとつくらいピクチャー入れようか、この辺に」

 習ってないのにスローアウェイオーバースウェイできる私、天才なんじゃないしら


 ………なんというかね、ダンスって底がないんだなあと思いましたね私は。
 組んだ瞬間から感じたんですよ。感じてしまったんですよ。スーパーパートナーのすごい本気を。女性の先生たちの「逆リード」とはまたちょっと違う、プロリーダーのプライドというやつを。
 リーダーを始めて、パートナーには見えない世界が見えたと思っていたけれど、ジキルでもハイドでもない別の何かが出現する世界線もあると知りました。(そろそろ怖いよ!)
 

 もちろんその後、なんか知らんけどできてる状況が気持ち悪いんですけど!と叫んで鬼解説付きレッスンをしてもらったので、私は私なりに本気で、リーダーとしてやれるだけのことをやるつもりではいますが、本番ではまた別の生き物を右手に抱えている予感がして今夜は眠れそうにないです。生きて戻れたら、トライアルの感想を書きたいと思います。

(つづくかもしれない)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?