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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

第二章 暴虐の狂詩曲(ラプソディー)
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 ややあって地蔵が言葉を発した。

「顎先をかすりテコの原理を応用し後頭部に衝撃を与えつつ、球威の損耗を最小限に抑えて撃ち抜いたんだろう、脳を揺らす為に…… 恐るべきはその後の球の行く先だ…… 繊細で精密なコントロールに裏打ちされた寸分違わぬ投擲とうてきには、常人には及びもつかぬ程の高度な力学的な計算迄もが含まれていたのだ、一頭目の顎を掠り抜けた青柿は、微妙に角度を変えて前衛に進み出た全ての動物型悪魔の顎を打って脳を揺らした、そして最後に立ち塞がるであろう巨体の白熊に対しては、直接コメカミに激突し強い衝撃を加える事でノックダウンを齎すもたらすことに成功させているのだ! もしもこれが偶然でなく計算による必然として行われたのだとしたら、それこそ人類史、いいや悪魔史に残る一投、いやいや残さなければならない事であろう! それは、今を生きる数多の悪魔達にとって、そして今後誕生するであろう――――」

 話が長くて待ちきれなかったのであろう、後続の悪魔に向けて飛び出して行ったリエと入れ替わる様に戻って来たフンババはリョウコに向けて顎を上げて見せた。

 カサカサカサ、リョウコの手の中では柿の種の袋が見ろ見ろと言わんばかりに音を鳴らしていた。

 リョウコは慌てて賞味期限表示に目を落とした。

『右肩にハリ感、五日の休養を要求』

 リョウコは満面の笑みを向けてフンババに答えた。

「りょっ! 凄かったよぉ~、お疲れ様ぁ~! カッコいいねぇ、フンババさんてぇ~♪ ありがとぉねぇ~、んふふふぅ~」

 キラキラしたリョウコの視線を避ける様に、柿の木の梢に登っていくお猿の頬は恥ずかし気に赤らんでいた。

 そんなやり取りなど知らないままで飛び出したリエは身に着けた全身プロテクターに守られて、悪魔達を蹴り倒し続けていたのであった。

 ゴーンっ!

 ガッ!

 ゴンッゴンッゴンゥゥ!

 グバアァっ! 

 フンババが倒した悪魔達は前衛の十四体であった。

 比してリエが蹴り倒した悪魔の数は二十体、人間が為した結果としては十分、いいや十分を過ぎる戦果であったといえよう。

『拘束せよ』

 リョウコの号令に合わせてつるを伸ばし始めたくず搦めからめ獲られ、もがく事も許されずにグルグル巻きにされたオオアリクイやマレーバク、チンパンジー等を依り代にした悪魔達の数も十体近くに及び、当初捕獲不可能と思われていた空飛ぶ個体、鳥を依り代にした悪魔達も攻撃の為に地上に近付いたタイミングを見逃す事無く、伸びた蔓やカルキノスの大きなはさみによって順調に捉えられ確保されて行ったのであった。

 慎重に最後まで上空に留まって様子を窺っていたヒゲワシに向けて空中を駆け上がるリエ、よく見ると足場にしている空中にはツミコがコントロールしているラジコンやドローンの姿が見える。

 最後の一機に足を掛けたリエは一際高く跳躍して、大きなヒゲワシの首をしっかりと握り込み、落下して行った。

 体勢を崩し空中でバタバタと手足を動かしてみるも、姿勢制御を取り戻せることは無く虚しく地面へ自然加速していくのであった、頭部から。

 後僅かわずかで激突し脳漿のうしょうをご披露する事になるだろう、だれもがそう思った時、

 ボヨォ~ン!

 ピンクの球体の魔力が集まって雲の様にまとまったスカンダの『クラウド オブ 筋斗サマーソルト』がトランポリンの様に弾んで、リエの体を再び空中へと弾き返すのであった。

 その名の通りリエの体を筋斗、所謂いわゆる宙返りさせてぽよんぽよん揺れている雲の真横で、再度落下して来たリエをしっかりと抱きとめるスカンダであった。

「ありがとう、お地蔵様♪」

「なんのなんの」

 掴んだヒゲワシをリョウコの蔓でグルグルと拘束しながら笑顔を交わし合う二人。

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