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マザーグースの忘れられた謎々⑧

今回は"There was a man of double deed"と
"A man of words and not of deeds"です。

原詩A

There was a man of double deed
Sowed his garden full of seed.
When the seed began to grow,
'Twas like a garden full of snow;
When the snow began to melt,
'Twas like a ship without a belt;
When the ship began to sail,
'Twas like a bird without a tail;
When the bird began to fly,
'Twas like an eagle in the sky;
When the sky began to roar,
'Twas like a lion at the door;
When the door began to crack,
'Twas like a stick across my back;
When my back began to smart,
'Twas like a penknife in my heart;
When my heart began to bleed,
'Twas death and death and death indeed.

原詩B

A man of words and not of deeds,
Is like a garden full of weeds;
And when the weeds begin to grow,
It's like a garden full of snow;
And when the snow begins to fall,
It's like a bird upon the wall;
And when the bird away does fly,
It's like an eagle in the sky;
And when the sky begins to roar,
It's like a lion at the door;
And when the door begins to crack,
It's like a stick across your back;
And when your back begins to smart,
It's like a penknife in your heart;
And when your heart begins to bleed,
You're dead, and dead, and dead indeed.

Charles Perrault (1628-1703)
and translated by Robert Samber

概略

「尻取り唄」と紹介されることが多いライムですが、これも謎々詩と考えられます。
原詩Aは18行、原詩Bは16行ですが、粗筋はほぼ同じです。

①言動に一貫性の無い男がいた。
②庭が草でいっぱいになった。
③草が生えた庭は雪で覆われたようだった。
④雪が解けると地上の鳥のようだった。
⑤鳥が飛び立つと空飛ぶ鷲のようだった。
⑥空が(雷で)ゴロゴロ鳴ると(その音は)ライオンのドアノッカーのようだった。
⑦ドアが壊れると背中に棒を突き立てられたようだった。
⑧背中が激しく疼き始めると心臓に刺さったペンナイフのようだった。
⑨心臓から血が流れ出したら、それはまさに「死、死、死」だった。

少し補足。
①は原詩Aでは「二面性の男」、原詩Bでは「口先だけで行動が伴わない男」。
②は原詩Aでは種を蒔きますが、原詩Bでは「雑草の多い庭のような性格」。
④は原詩Aでは「装甲帯の無い船→尾の無い鳥」、原詩Bでは「壁の上に止まった鳥」。
⑦~⑨の事件の被害者は原詩Aでは「私」、原詩Bでは「あなた」。

理由

③一面の綿毛は雪のよう。
④花から離れる前の種子は飛び立つ前の鳥。
⑤種子の色は鷲の体のような色。
⑥落ちた種子が芽ぶき、広げたロゼット葉はライオンのたてがみのよう。
⑦茎が伸びて蕾を付けると「背中に棒を突き立てられた」ように。
⑧蕾が開いて咲く花は「筒状花」と呼ばれるペンナイフのような形の花(集合花)。
⑨やがて花は萎れ、いったん死んだようになって綿毛の付いた種子を作ります。

回答

私の回答はタンポポ(の生活史)です。

最終行のdead, and dead, and deadから、デッド・アンド・デッド・アンド・デッド→デダン・デダン・デダン→ダンデ・ダンデ→dande。
これと⑥のlionを合わせればdandelionに。

最初のdeedと最後のindeedが韻を踏むことで、世代を繋ぐライフサイクルまで表現しているのも素晴らしいと思います。

ところが

原詩Aにはdeedとindeedの繋がりはあるのに「dead~」によるdandelionのシャレードがありません。

原詩Bには「dead~」によるdandelionのシャレードがあるのにdeedsとindeedが韻を踏んでいません。

さらに原詩Aでは、せっかくdeedとindeedで韻を踏んでおきながら、⑨→②→③の②で「種を蒔いて」しまっているのです。
これでは⑨の「花が萎れる」と③の「綿毛が出現する」が繋がらないではありませんか。

ということは、原詩Aの作者も原詩Bの作者も、この詩が謎々詩だということを認識していなかったということになります。

この詩全体がダブルミーニングであることを考えれば、1行目はdouble deedの方が妥当のような気もしますが・・・。

果たして、失われた本来の形や如何に。

おわりに

今回で「マザーグースの忘れられた謎々」はいったん打ち止め。
アリス読解の一助のはずが、思いのほか長くなってしまいました。
新しい発見があったら、また追加しますね。

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