とにかくライブに行きたいって話
あれは中学3年の時だった。
委員会か何かで遅くなり、あまり親しくないクラスメイトと帰ることになった。
その子の話を聞いて、笑ったり相づちをうっていると突然
「ねえ、今本当に楽しい?楽しくて笑ってる?」
なんの事だかわからなかった。
楽しいから聞いてるし、笑っていた。内容は覚えてないけど普通にリアクションしていただけだったのに、だ。
それから私は感情を伝えられるように意識して生活するようになった。
社会人になり、好きなバンドのライブにはじめて行く事になった。
一人で行くのは気が引けたので、ライブハウスに行ったことがある友人も誘って一緒に行くことになった。
はじめてなので控えめに小さなライブハウスの後ろの壁近くに陣取った。前の方にはきっと何度も足を運んだであろう熱狂的なファンが陣取り、始まる前からその熱が伝わった。
楽しみで興奮する始まる前のわくわくなあの時間は今でも好きだ。
バンッとライトがつき、ステージ上にメンバーが現れる。
「ギャーーーーーッッッ!!!」
叫び出しそうになってふと気づく。
隣の友人は「スゥーーーン」としているのだ。
何それ、カッコイイ
上げかけた手を下ろし、友人に習ってスゥーーーンとしてみた。
ライブ中も小さく体を揺らしたり、少し手を叩いてみたり。
そんな感じで私の初ライブは幕を閉じた…そしてそれ以来、ライブで叫ぶことはなかった。
ライブの時だけあの中学生の自分に戻ったみたいだ。
周囲の目を気にしている。誰もわたしに注目なんてしていないし、仮に注目されたとてその場限りの事なのに。
もうそんなこと分かってるのに。
今、イベントが軒並み中止になっている。私も今年楽しみに待っていたコンサートが3つも中止や延期が決定し、その度に落胆した。
だから思う。
本当の自分はどうしたいのだろう。
スゥーーーンとしているのをかっこいいと思った。でも心のどこかでは叫びたい自分もいた。
今の私はどうするだろう。
心を開いて、何も考えずに挑もう。
ああ、その日が待ち遠しいな。
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