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夏休みの日記 4週目

7月22日(木)夏休み22日目 快晴

7:00起床。
昼夜逆転是正大成功。昨日1日を犠牲にした甲斐を見出せる。自尊心も上々。
企画のことを考えながらだらだら二度寝したら褒められる夢を見たが、内容はすべて忘れた。8時から活動開始。

・英語 9:00〜11:30, 13:00〜14:00
20日間一切手をつけなかった英語にようやく着手。
まずは試しにリーディングの問題を解いてみるも、20分で解き終えたい大問に40分かかっちゃった。文中の単語が1割くらいわからなくて、受験期に覚えた単語もいまいち思い出せないが、正答率はそんなに悪くなかった。
勉強してもいないくせに全問正解できないことを悔しがっている気性の荒さは我ながらかなりいいと思う。
意味に自信が持てなかった単語:
extent, tolerant, sturdy, kernel, fertile, enzyme, if ever, fungi/fungal, exacerbate, residue, i.e., for a time, hardy, threshold, virulent, pest, hinder, augment, emerge, manipulation, stumble/stumbling block, implement/implementation, grant, patent, inadvertently, optimal

英語を読みつつ寝具とTシャツを洗濯をして、18年間抱いて寝ているぬいぐるみもついでに洗ったんだけど、もう洗ってもあんまり綺麗にならなくなっちゃって、そりゃあ18年一緒にいるんだもんなあ、私の肌が傷だらけになってるのといっしょでおまえも煤けて当然だよね……。
この子を捨てる日が来るとはとても思えなくて、でも手放さずにこれから先を生きていける自信もない。

・英語/スペイン語/映画 14:00〜17:00
『MONOS』(2019)の日本での公開が決まって喜ばしい。

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当時映画プロデューサーをやっていた透明が、2019年の公開時に「やばい映画を観てしまった……」と大騒ぎしているのを見て「いいなーいいなーけれちゃんも観たーーーい!!!!」とこちらも負けじと大騒ぎして見せたところ、よくわからない魔法を使って私のiTunesにも映画データを取り込んでくれた。みんないろんな魔法を使えるよな。
どうせ英語字幕なんか読めないし気が散るだけだろうと思い、初見は字幕なしで流すだけ流して終えたのだが(それでもすごかった。音と映像がマジですごいので劇場で観たい)、日本語で公開される前にちゃんと自分で英語字幕に取り組んでおこうかなと思い立ち、再見。
読むスピードが字幕に追いつかないので、せりふのたびに一時停止して読む。軍事用語やスラングがちょこちょこ入るので(court-martialed 軍法会議、とか)がんばって調べながら観た。それでもストーリーがよくわからないので今度は英語のWikiとにらめっこ。2時間弱の映画だが3時間かかった。
Wikiを読んでいたらconsummate(熟達した)という形容詞が動詞として用いられていて、文脈から意味が推測できなかったため調べたところ「(性交によって)〈結婚・関係を〉完全なものにする」という意味の動詞らしい。それが一個の動詞として存在するんだ。グロすぎる。無性交のままでも完全な関係がありえる世界であってほしい。
手が暇なので高校3年生の教え子のために昔つくった単語テストを解きまくりながら観た。自分が作ったテストなのにあんまり解けなかった。語彙力落ちてる。

・酒屋 17:30〜18:30
近所に品揃えのおかしいナチュール屋があると聞きつけ、喜び勇んで出陣。
マジですごかった。もう今後ワインに困ることはない。いい土地に越して来たものだ。
今度の帰省の折に家族と流行りのナチュールを一緒に飲みたいなと思って、ルイ・ジュリアンを2本ゲット。ミーハーである。うちの家族は優しくて、いつも私の酒ミーハーに快く付き合ってくれる。ありがとう。

・自由時間 20:00〜25:00
「読書感想文」というタイトルのメールと「小さな告解」というタイトルのメールが届いていたので返信。
告解のメールを読んでいて、いつか好きな男に神父様と呼ばれたことを思い出した。同じ人間に悪魔とも呼ばれるので、一個の人間の多面性、という感じがする。
本を読もうと思って、手元に積んである人文書をいくつかめくってみるが、こういうのじゃなくて物語が読みたいの!!!と癇癪を起こし(この段階でワインが1本あいている)、本棚の前でニャーニャーわめく。ニャーとわめいても一人。宮尾登美子を取り出してちがう!と叫び、ジュンパ・ラヒリを取り出してちがう!と叫び、川上弘美を取り出してちがう!と叫び、カポーティーを取り出して……ちょっとちがう!と留保つきで叫び、村上春樹訳の短編アンソロジー『恋しくて』を取り出してこれかもしれない!!と叫んでソファに戻ったが、1ページも読まないうちに眠くなって諦めて寝た。


7月23日(金)夏休み23日目 鰻の日

スポーツの日って何だよ。しばくぞ。
10:00起床。昨晩飲み過ぎたようで、頭は目覚めても体がぐったりと動かない。

・鰻 12:00〜21:00
浅草の初小川で鰻。
「愛人のようなワンピースを着ていく」と予告されていたので私も負けじとがっつり胸元のあいた赤いミニワンピースを着ていったのだが、街を歩いて建物のガラス戸に映る自分の姿と見ると、愛人というより夏のお嬢さんという感じしかしない。愛人は脚は出さないと思う。これじゃパパ活だわ。
初小川ののれんをくぐると、下町情趣にあふれた薄暗い店内にさらりと総柄のロングワンピースを愛人がこちらを振り返って手を振った。完敗です。愛人はほっそりしたおもてをまた痩せさせていて、でも肌つやはとてもいいので心配する必要はなさそう。彼女も私を見て「顔色が良くなったね」と言ってくれた。たくさん寝てるからね。

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蒲焼と白焼きと肝串を頼んだ鰻は、鰻の記憶を塗り替えるくらい美味しくて、えっ鰻ってこんなに美味しかったっけ。なんかすんっごいびっくりした。私の知っている鰻ではない。白焼きにたっぷりのった脂がお醤油に滲んで小さな輪を描く。
美味しい美味しいと唸りながら食べ進めていたら外から轟音が聞こえて、女将も店主もお客も連れ立ってブルーインパルスを眺めに外に出た。私はこういう時、率先して見に出るくせに見えなければすぐに諦めて戻るという熱いのか冷めているのかよくわからない性格をしているのだが、行ってしまったようだと早々に店に戻って着席した私の数分後に戻ってきた女友達が「並んで飛んでたよ」と報告してくれて、それが可愛かったので満足した。
転職祝いにと女友達がご馳走してくれた。女に鰻を奢られるの、人生で二回目。女に鰻だの鮨だのフレンチだのをご馳走してもらうのって、ものすごく甘やかに感じる。なぜだろう。

クラフトビールを2本と日本酒を2本と水を2本買って、女友達の新居へ。立派なマンションのきわめて機能的な部屋。家具を白で統一していて、高い階なので陽光の入りもばっちりのその部屋で、レフ板を敷いたかのように美しく光る女友達の顔に見入ってしまう。新しい家を得て、すごくさっぱりした顔をしている。
彼女に精神の危機があったとき、「あなたも私の家族になりなよ」と誘って、私たちの関係って従姉妹くらいかな?と話し合ったのだけど、やっぱり身内というよりは「女友達」という感じがすごくする。今日は愛人だけど。
今後、外の世界で悪さをするなら彼女とだろうなと思った。身内とはやらない色っぽい徒党の組み方を彼女とはすると思う。
ずいぶん大人になってから友達になった人だけれど、過去の話などを照らし合わせるに、どうも私たちは、内側の繊細さとは対極的な外側の羽目の外し方をするところがよく似ているっぽい。
かなり派手に羽目を外すくせに、外しながら自身の純粋さが大いに傷ついているんだよね。多分だけど、愚かさが似てるよ私たち。

買った酒を飲み尽くしたところで「お腹すいた!韓国のラーメンが食べたい!」と言うので、一緒に近所のスーパーに出かけて赤いインスタントラーメンを買って帰る。私はビールももう1本。
だらりと腰掛けて飲みながら待っていたら、小鍋でがしがしとラーメンを煮て出してくれた。この人ラーメンなんか食べるんだな。炭水化物で如実に体型が変わる体質なので普段なら頑なに断るところだが、「愛人が夏の夜の〆に作ってくれるインスタントラーメン」というあまりにも蠱惑的なシチュエーションに抗えず、腹をくくって食べた。下手すると10年ぶり以上になるインスタントラーメンは美味しすぎて脳が痺れた。

処分するというマガジンラックを謎に譲り受けて、肘に掛けて電車に乗って帰った。
家に帰って鏡を見ると、すでに赤いワンピースが似合わなくなっていることに気づく。何度も着ていないが、今日を最後に売り払おう。さよならステラマッカートニー。

・家族 22:30〜24:00
妻が早くに寝てしまったのか、めずらしく家族の夫とだけチャットを交わす。
われわれは陰キャだが勇気を出してハワイに行こうか、という話になるも、「あーでも「あの人ハワイ好きらしいね」って言われる覚悟はまだないかもしれない」と言い出す夫に音がなるほど頷く私。「でも、海で泳いでみたいし、星も見てみたい……」とおずおず言うと大賛成してくれて、まあ多分そのうち家族でハワイに行くだろう。
長々メッセージを打つのが面倒になってサーキュレーターを直浴びしながら音声メッセージを吹き込んだら当然だが風の音がめちゃくちゃ入っていて、「屋外くらい風の音入ってる」と笑われたので「俺が堀越二郎だ!」と言ってごまかしたら「共感能力0太郎やん」と突っ込まれた。
でもぶっちゃけ夫と私はマジモンの共感能力0太郎だよね。共感力の申し子である妻にようやく人間にしてもらってる感じあります。


7月24日(土)夏休み24日目 天気はわからない。ずっと活字を追っていた

10:00よりは少し早く起床。
夜中には体が灼熱を帯び、冷蔵庫から出してきた冷えた炭酸水を3本、抱いたり首の下に敷いたり腿に挟んだりして、それがぬるくなったらまたいやいや起きて交換、みたいなひどい一夜を過ごす羽目になった。野営か?

20代の頃、冷房をつける代わりに、タオルを巻いた大きな保冷剤を3つベッドに持ち込んで冷をとっていたことを思い出す。首と、太腿と、お腹にあてて、太い血管をめぐる血を冷やす。あれはあれで気持ちよかった。自分の体を冷えすぎた血液がめぐる時に立つ微かな鳥肌。寒気と心地よさのちょうど中間にある快い違和感。不安定を受け入れられる若さがゆえという感じがする。
冷房なしに暮らせないことと、サステナビリティへの配慮と、どう折り合いをつければいいんだろう。

・推しの人権
自分でもなんで?って思うんだけど、一日中二次創作小説を読んで、へぇ……………なるほどね…………と微妙な感情を撫で回していた。一日中というのは誇張でなく一日中で、朝の10時から夜の25時までお昼寝の3時間を除いてずっと読んでた。改めて時間を表記するとやばいな。人生で二次創作小説というものを読んだことがなかったので(抵抗があってかなり意識的に回避して生きてきた)、読んでみて、うんまあ文章表現というのは確かにこういうことにも使えるよな、という複雑な心境。さっきから歯切れが悪くてごめんね。ちょっと傷ついちゃって……。

昨年の10月に人生で初めての推しができてもう10か月が経とうとしているのだが、推しに対して抱いている感情をまったく言語化できず、まあオタク言語の文法が身についてない(し身につける気もない)から「推す」という行為に帰属させられる語彙・表現を持っていなくて何も言えないのだろうとは思う。
でも恋とは全然違うのはわかって、推しから奪いたいものも推しに捧げたいものも一つもない、全然リアルじゃなくて非常に虚しいんだけど、でも同時代を生きているという絶妙なリアルさというか、ものすごく細い細い「リアルじゃなくなさ」という糸が私を繋ぎとめていて、でもその「推しが生きてる」って状態が負担でしんどかったりもするから恐ろしい。
推しを見かけるとそのあまりの可愛さに(うあ……好き……)という恐ろしい思考停止が発生する。恋愛対象を見るときは体の中に渦みたいなのができて、あとからそれを言葉で紐解くことが可能なんだけど、推しを見たときは無が訪れてもう何もなくなる。かなり怖い。(うあ……好き……)以外の何も出なくなる。なんでこんなことになっちゃったんだろ。多分大麻とかこんな感じだと思う。
推しに対して理解できることが何もないから語れることも何もなくて、ただ眺めることしかできない。手を加えたくないし歪めたくないし、いやもう「〜たくない」という積極的な感情すら持てないというか、えっ何これ無関心? そんな馬鹿な……。でも究極的には無関心なんだと思う。ただ推しの心身の健康と幸福を祈っている。愛は祈りじゃねーけど推しは祈りだから。

ただ、実際推しの人権のことはすごく懸念材料で、これは自分自身の倫理観の問題だから語ってもいいかなと思うんだけど、推しを眺めて(うあ……好き……)ってなったあとに我に返った時の罪悪感が凄まじい。
推しはアイドルを職業としていて、その職能を世界に発揮してわれわれはそれを受け取っているのだが、現実的にそこに直接の対価を支払えていないわけで、曲やグッズを購入して多少の金銭を事務所に支払ったところでその行為は世界の貧しい子供たちを救いましょうとPRするユニセフに募金してちょっといいことしちゃった〜って自己満足する以上のことではなくて、大好きなものにフリーライドしているこの蹂躙とか搾取とか強奪の感覚はかなりしんどい。推しの人権を侵害している状態が苦しい。どうやって折り合いをつければいいんだろう……。
私にできることは推しが自撮りを投稿したときにつく何万いいねのうちの一つのハートになることだけです。あとはもうありがとうございます念仏を唱えることしかできない。今ちょっと渡唐した最澄の気持ちわかっちゃったな。空海の気持ちはわからん。


7月25日(日)夏休み25日目 晴れていたと思う

11:00起床。
せいぜい9時くらいだと思ったので遅くてびっくりした。
昨晩3時くらいまで起きてたみたい。あんまり覚えてない。泥酔していたんだろうな。

・バトラー合評会 14:00~16:30
ジュディス・バトラーの『問題=物質となる身体── 「セックス」の言説的境界について』(佐藤嘉幸監訳、以文社、2021)のオンライン合評会を聴講。
バトラーの文脈がよくわかっていないので勉強したくて聴いた。フェミニズムをちゃんと勉強できていない後ろめたさがある。
藤高さんの現在におけるトランスジェンダーの言説と照らし合わせながらの読み解きがおもしろかった。と同時に、清水さんや千葉さんが話してくれた学説的なバトラーの位置づけをきちんと理解できていないことへの恥ずかしさを痛感する。お二人ともご自身の生における実感をふまえながらちゃんと理論として抽象化されたものを見つめていてすごいよな。
フェミニズムの最前線に対して抱く「シスヘテロであることの後ろめたさ」というのがあって、私は自分が何の困難もなく女性であることを行使していることに(=マジョリティであることに)恥ずかしさを抱かざるをえない。さらに、こう感じることが既存のジェンダー規範から疎外されている人々への強烈な侮辱となるのではないかとも思ってしまって、どうにも身動きがとれずにいる。安全圏からものを言うことの傲慢さ、下品さ、暴力性。資本主義が整えたジェンダー規範による絶大な被害を被る当事者だけがその是正を訴える資格があるのではないかと、いや本当はきっとそんなことはないのだが、そう感じてしまう弱さは、「当事者の説得性だけが言説において有効だ」という反知性を体現しているのだが、でも、事実私には「外側からの理解」しかできない。そのことがすごく苦しい。
MeTooキャンペーンにしてもそうなんだけど、私は生得的な能力と恵まれた環境と男性優位社会に迎合するための積極的努力によって資本主義とそれが育んだ家父長制のクソウェーブを乗りこなして「男性優位をものともしない女性の生」を実現できたが、そんなの私の生まれがラッキーだっただけに決まってるじゃん。そういう自分のような社会一般から自ら外れた存在が、訳知り顔でフェミニストを名乗るのは絶対違うと思っていて、なのでフェミニズムとは別のやりかたで現在の規範をぶち壊すことしかできないし、これまでそうしてきた。自分が自分であるために必死に悩んでようやくたどり着いたのが戸籍制度を逸脱した家族関係を実践することで(と、こんな風に書いてはいるが実際こういう理想的な家族を得たのは偶然の友情の恩恵によるもので、私が一から画策して成し遂げたものではない。それもまた「恵まれた環境」でしかないわけで、私は相変わらずものを語ってよい身分ではない)、この実践を継続して、広めてゆく活動を続けることしか、生きづらい型が横行している現状の社会を変えるために私ができることはない。合評会やバトラーと全然関係ない話になっちゃった。
そういうわけで、「自身がマイノリティでありながらそれを強みに変えた猛者」たちの話を聞いていて勝手に後ろめたくなってしまった。知性で困難を乗り越えた人々を目の当たりにして、かれらがそういう次元で評価されたくないのはわかってるけど、いや評価とかしないです、しないですけど、普通にかっこよかった。そういう人たちに簡単に「理解できる」とか言いたくないよ。
バトラーのことは正直全然わからなかった。読んでないから当然ですね。
「身体の輪郭と形態は、心的なものと物質的なものとのあいだの還元不可能な緊張に単に巻き込まれているのではなく、その緊張そのものなのである」だったかな、記憶が曖昧ですが、本文から引用されたそんな感じのくだりがおもしろかった。私は知能が低いので「だから何」としか思えないけど、言葉として面白いと感じる。

・お買い物 17:00~18:30
丸善に取り寄せていた書籍を3冊受け取って、うわ分厚っ、これ読まなきゃいけないのか、と肩を落とす。宿題として課された仕事の資料。
VERTEREのビールを買い足しておこうとわざわざ神田のビール屋まで足を伸ばしたが在庫がなく、ミッケラーのビールで誤魔化した。ミッケラーのビール、味がやかましいんだよな……。蔵もう少し別のところも覚えよう。

・英語 23:00~23:30
単語テストの成績が悪い。情けないな。
やけをおこしてTOEFLの過去問の長文を読み始めるも、こんな酩酊状態で(スパークリングワインが1本あいている)教材を無駄にしてはならないので中断。

外での酒の飲みたさのあまり独自のネットワークを駆使して飲酒可能レストランの情報をかき集め、飲酒への情熱で練り上げた4つのデートプランをメールで書き送ったが、メッセンジャーですれ違いで届いた「火曜日、台風らしいよ」の一言によってすべてが灰塵に帰した。「泥のように疲れたので寝ます」とのことなので、私も寝る。


7月26日(月)夏休み26日目 あまりにも鮮やかな夕焼けの印象

5:15起床。やればできる女。
烏龍茶飲んで二度寝して(やればできる女どこいった?)8:00に再び起床。

・バイト 10:30〜13:00
昨年の6月から1年弱講師のバイトをしていた塾からちょっと助けてクレマチス〜とヘルプ要請が入ったので、OK任せろとかつて可愛がっていた出来の悪い教え子に会いに行ったところ、バイトをやめた時期に教えつつあった二次方程式以降の単元の理解が崩壊していた。勘弁してくれ……。
xの値を求める意味から説明し直してなんとか90分で立て直したが、まあ確かにね、xを求める意味は子供にはわかんないよね。大学生にも多分わからん。求めたxが間違っていたらなにが悪いのかもわかんないよね。大人になったら全部わかるよ。xが間違っていたらすべてが崩壊するんだぜ。
バイトに励んでいた時代、数学を教えた少女たちが急に成績をめきめき伸ばしてくれてとてもとても嬉しかった。数学は物事の仕組みを考えるのに役立つから、賢い子だと勝手にほかの教科にも応用してくれる。あれすごかったな。国語と社会が伸びるのよ。
「数学の理解を助けてあげる」というのは私が世界に対してはたらきかけることのできる数少ない善行のうち最もよいものの一つなので、フルタイムで仕事をした後に10時まで子供たちに勉強を教えまくるというのは体力的にはかなりかなりかなりしんどかったけど、そして実際にぶっ倒れたわけだけど、心はすごく救われた。ありがとう教え子たち。
今日は久しぶりにその出来の悪い教え子の子と話せて楽しかった。この子が最初に塾に来たとき、本当に無気力な目をしていて、受け答えも曖昧で、こちらが何を言っても「あ、はい」しか言わなかったんだけど(お母様がすごく抑圧的な人で、面談のたびに「この子はやればできるはずなのにやらないから出来が悪くて、できない子で」と繰り返していた)、受け持ってから何か月もかけて優しく厳しくして可愛がって、信頼を獲得して打ち解けた。私を大好きになってくれたその子のことが可愛くて仕方なくて、私の知っていることすべてを教えてあげたかったけど、限られた時間で結ばれる教師と生徒という関係でそれは難しくて、ちょっと切ない。
信頼関係を結ぶ過程は、私のような他者との関わりに人生の重きをおいている人間にとっては本当に尊い、得難いものだったな。今までは苦手だと思って避けてきたけれど、子供全般のことがすごく好きになった。無垢で善で、すごく優しくしてあげたくなる。
子供というのは得てして、「大人に失望されたくない」というのっぴきならない純粋な動機から自覚なく悪事をはたらくものだった。何度どれだけ間違ってもあなたを愛しているから大丈夫だよ、というのを繰り返し思い知らせてやらないと素直に失敗を披露してくれない。
誰もが経験してきたことなのに大人になると忘れてしまうんだよね。子供たちと接して、いろんな大事なことを思い出させてもらえてありがたかったな。いいバイトだった。
私自身は怒っている親をうまく騙して親の怒りを鎮めるためにはっきりと自覚的にこれは嘘だと理解しつつ嘘をつきまくり、親に叱られないためなら悪事もずるもカンニングも何の呵責もなくはたらきまくるタイプの最悪な子供だったので、教え子たちが正直だったり純粋だったりすることに感動しつつも自己嫌悪を抱え続けていたが……。まあでも私自身のそういう自己嫌悪すら教え子との関係構築を通して解消したわけで、何重にも救われた。人と関わるっていうのは本当に、本質的には自己を救うことだよね。
LINEを交換した。何かあったらいつでも頼りなさい。

・お買い物 13:30〜14:30
ブロッコリーが2つで300円。マッシュルームが1かご150円。牛ランプ1枚が半額以下の300円。うれしいね。
昨日のお買い物で買いそびれた生鮮食品や衛生用品を大量に買って、手首に買い物袋が食い込む。
のくせに行きつけの酒屋で七賢の夏酒まで買ったので体重+5kgくらいを運ぶはめになった。しかし私は身体能力が高く、重い物を持ち運ぶときにどういう重心移動をすればいいか心得ているのでこの程度は無為に等しい。中学の理科で支点・重点・作用点についても習ったしね。

・暴力的性欲 16:00〜17:30
台風の前だからか妙に気が立っている。
人を傷つけたい、あるいは自分を激しく傷つけてほしいという欲動に覆われて一歩も動けなくなった。
一人がけのソファに座って、肘を太腿に突き立てて頭を抱えて、そのままの姿勢で1時間半、激しく打ち寄せる衝動と戦った。
そういう衝動を受け止めてくれるほど親しい相手がそばにいない状態でこういう精神バランスの狂いが生じる時、膝を抱えてじっと嵐が過ぎるのを待つことしかできず、その抱えた膝に情動のままに噛りついて血を流すことしかできず、本当に苦しい。
苦しいが、大切な誰かに血を流させるよりずっとましだろう。足の甲に激しく爪を立てて、皮膚をぐちゃぐちゃに掻き剥がした。
この程度の傷で収まったからよかったよ、今回は。いつかこの欲動が私を殺してくれたらロマンティックだと思う。
前にきたのは春だった。3月の終わり。次は冬の底冷えの時季だろう。

・電話 18:30〜19:00
今日はもうだめなので可愛いデザインの缶チューハイをあけつつだらだら過ごしていたら、思いがけない電話がかかってきた。
ベランダに出て、あまりにも鮮やかな夕焼けを眺めながら大事なこととそうでもないことをとりとめもなく話す。

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燃えるように青く、赤い。温度の低い炎は青い。これも理科で習った。

・電話(2) 21:00〜21:30
妻からの要請。名付け子が私と話したいと言っているらしく、離れて暮らしていても心の中にずっといさせてくれているんだなと感激しながらビデオ通話に応答。
まだ3歳の子の世界には数えるほどしか登場人物がいなくて、その限られた彼女の生の登場人物に私を入れてくれていて、たくさん思い出してくれているんだろうなと思うとうれしい。かわいい。
でも、あなたはこれから広い広い世界を知って、いつか私がそのたくさんの彩の中で霞んで小さくなってしまっても構わない。この世界は本当にいろどり豊かで、あまりにも美しく、あまりにも鮮烈です。眼差しなさい。私なんかが霞んでしまうほど、よくよく目を凝らして。


7月27日(火)夏休み27日目 台風が逸れて、ぽっかりと晴れ

6:30起床。
昨晩久しぶりに日本酒を飲んで、あまりいい酔い方をしなかった。どうも過去に耽溺してばかりでさ。
ベッドで扇情的なメールを書き綴りながら変なポーズで寝落ちしたらしく、起きたら左腕を軽く傷めていた。PCを寝床に持ち込むのマジでやめろ。
寝覚めはいい。日本酒はカロリーが摂れるからね。

・不勉強 午前
勉強しようと机に座ったが、書きかけていた日記を整えて書き増すだけで午前が終わってしまった。国語と呼んでいいだろうか。
やがて昼が近くなり、鶏肉と牛肉と竹輪を思うがままに摂取。さすがに胃が痛んだが、疲れた体が動物性たんぱく質を必要としていたらしい。痛んでも受け入れよう。

・歯科 14:00〜18:00
ひどい知覚過敏で食事がまったくままならなくなってしまったので、歯科を受診。
歯は神経の上を象牙質とエナメル質が覆っているのだが、私の口腔内ではなぜか最おもてのエナメル質が研磨されてなくなってしまっている。今日施設に配属されていた先生がたまたま長く私の歯を治療してくれていた先生で、噛み合わせ確認キットや過去のレントゲン写真と現状を比べながら、「年齢にそぐわないほど歯が擦り減っている」というのを発見してくれた。やっとかよ。この数年間、何度か知覚過敏の痛みのために受診していたのだが、ようやく医師にとりかえしがつかなくなっていることを認められたらしい。
歯が磨り減ることに関して思い当たる節はなくはないので(私は歯の食いしばりや就寝時の歯軋りがひどく、加えて酸の強い食べ物と飲み物を好んで摂取しているし、あと、精神状態に応じてすごくしょっちゅう胃液を吐く)、そういうことですか、と納得する。
脚に引き続き、歯もだめになってきているらしい。
マウスピースをこしらえて、少なくとも就寝時の歯軋りだけは緩和しつつ様子を見ようと方針が決定する。それでもだめなら銀歯を入れようねと。
歯科衛生士さんに歯石を取ってもらいつつ歯を見てもらったところ、歯肉もかなりまずいことになっているようで、糸楊枝の使用の徹底と炭酸水の禁止を命じられた。炭酸水がない日中をどう過ごせというのか。
夜な夜な飲んでいるワインが歯をここまで蝕んだのだろうが、それは言わなかった。
脚は5年と言われていたが、歯のほうは何年もつだろうか。肉体ってのは精神とくらべて本当に無理がきかない。
帰りに薬局に寄ったら閉店セールを催していて、安さのあまり美容製品を大量に買い込んでしまった。妻にプレゼントする。

・推し 21:00〜23:00
勉強しようと思って机に座ったのだが、推しの可愛さに負けた。なんなんだお前はマジで。

・現代短歌 24:00〜25:00
特集:Anthology of 60 Tanka Poets born after 1990
筆頭に私の愛する友人たちが名を連ねているので、ご活躍ねと思いつつ初めての雑誌を 購入した。
不勉強なせいで私には短歌表現はよくわからないのだが、短歌をやっている友人たちは散文表現にも長けていて(韻文も散文もやれるなんてずるいぞ)、散文で言葉を交わし合って友情を紡いできた。
親友の自選十首には私の好きな彼女の歌は入っていなくて、自分が短歌の読み方をよくわかっていないことを思い知る。
ぱらぱらと捲りつついろいろ読んでみたが、これら31文字たちを31文字を読むスピードで読んでも何も得られないことを了解しているので、大事な人が自選した短歌だけを繰り返し読めばそれでいいや。私にとっては。

・スペース 25:00〜28:00
ワインの在庫がなくなってしまって、かろうじて棚に見つけた大切なウィスキーを飲むが、それでも、眠らなければならないのに眠れない。人恋しくなってしまってスペースを開く。
最初はだらだらとル・クレジオの『地上の見知らぬ少年』を朗読していたのだが、22世紀ジェダイが来てくれて、なかよく喋っていたらディレ夫が遊びに来てくれて、ワイワイしていたらいきなり不具合で落ちて終わった。ふたりとも、ほんとごめん。付き合ってくれてありがとう。


7月28日(水)夏休み28日目 晴れ、夕方に音のない雷

9:00起床。よくやった。
余裕の起床と思いきやトラブルが続き、10時半に人が訪ねて来て、お化粧も食器洗いも全然終わっていなくてワーーーッ ウワーーーーーーーーッ
大慌てでお化粧しているあいだ、しなくていいからと止めたのに食器を洗ってくれた。大変ありがたいが、本当はあなたはそんなことをしてくれなくていいんですよ、いてくれるだけで十分ありがたいのに……。なんだか泣きたくなる。

・バー 16:40〜17:15
ともすればそのまま激しい自傷に走りそうな精神状態になる出来事が発生したので一人でいてはやばいと思い駆け込み寺へ連絡すると「定休日だけどいるから来ていいよ!」と返信がきたので大急ぎで向かう。ありがとう。
マスターは定休日だというのにキビキビ働いてて、いやめっちゃ動くじゃん。休みなよ。こっちが押しかけといてなんだけど。
帰りにゆかりんのCDを2枚持たされた。拝聴します。

・スタバでミーティング 17:30〜18:30
前職の引き継ぎミーティングあるの完全に忘れてた。スタバに駆け込みZoomに接続。
引き継ぎ先の元同僚が電車の遅延で会議に参加できず、目的(新担当の紹介)を何も果たせないままおしゃべりするだけの不毛な1時間に。
なんで休暇中の私が神楽坂にいながらカフェ出席しているのに在職のお前が途中駅で降りて適当なカフェからZoomに繋がないんだよ。「かわりにホスト頼みます」じゃねーのよ。

・神楽坂視察 18:45〜19:30
現状においてこの繁華街の各店の経営方針はどうなってるかな〜とぐるぐる知ってる店や知らない店を視察。
お酒を出しているお店はだいたい「繁華街にあって、通りがかった人がここでいいやと飲みに入る店」って感じ。常連さんに愛されていたり、人々が評判を聞きつけて予約して向かうようなタイプのお店は概ね閉まっているか種類の提供を中止していた。
最近は街に出る用事があるたびに酒類提供店の情報をキャッチするべくちょこまか徘徊する。「どこでもいいから飲みたい」わけじゃなくて、「あの店が酒類を提供しているならば喜んで参りましょうぞ」という意識で、そのあたりの情報は足で稼ぐしかないからあまりキャッチできていないのが正直なところ。

家に帰って寂しくてワインがもう1本あく。1日で通算白ワイン2本とビール1/2パイント。飲みすぎだ。寂しい。すごく寂しい。