COVID-19情報:2023.08.28

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、LANCET系列より2編、Clinical Infectious Diseases(CID)より1編、MMWRより1編です。

LANCETの1編目は、COVID-19パンデミック前およびパンデミック中の認知症患者における抗精神病薬の処方と死亡率の変動を調査するために、英国ウェールズでルーチンに収集された医療データを用いた研究です。COVID-19のパンデミックの間、英国の認知症患者における抗精神病薬の処方はわずかに増加しましたが、これがパンデミックのみに関連したとは考えにくく、この増加が2020年の死亡率の大幅な増加の主要因とは考えにくいという結果でした。
2篇目は、Lancet Microbeで掲載されたSARS-CoV-2に関するSuper spreaderの存在を立証したという論文に関して、一般化可能性に対する疑義を議論したCorrespondense論文です。

CID論文は、入院COVID-19の臨床疫学および重大な転帰の危険因子の経時的変化について検討した米国10州の研究です。複数のSARS-CoV-2亜型または亜型が優勢であった2021年6月~2023年3月を対象としています。COVID-19で入院した成人のうち、重篤な転帰を経験した者の割合は時間の経過とともに減少し、患者年齢の中央値は時間の経過とともに上昇し、多疾病は重篤な転帰と強く関連していました。

MMWR論文は、2022年1月から2023年5月にかけての全米ゲノムサーベイランスによる変異株亜種比率の米国内の傾向をまとめた報告書です。この発表は6月でしたが、上のCID論文とほぼ同時期を扱っていることから、参考までにまとめています。

報道に関しては、下水サーベイランスに関する結果の記事が読売、共同に掲載されています。科学的知見としては目新しいものではありませんが、滋賀県が下水サーベイランスの結果を公表し始めたようです。
また、日経のヒット作は、先週のコロナ補助金に対するものに続いて、「デジタル敗戦」に関する3部作です。これは必読です。

高橋謙造

1)論文関連      
LANCET
Antipsychotic drug prescribing and mortality in people with dementia before and during the COVID-19 pandemic: a retrospective cohort study in Wales, UK
https://www.thelancet.com/journals/lanhl/article/PIIS2666-7568(23)00105-8/fulltext
*COVID-19パンデミック前およびパンデミック中の認知症患者における抗精神病薬の処方と死亡率の変動を調査するために、英国ウェールズでルーチンに収集された医療データを用いた研究です。背景として、SARS-CoV-2の蔓延を抑えるために行われた社会的規制により、認知症患者の死亡率増加と関連している抗精神病薬の処方がCOVID-19パンデミック中に増加したのではないかという懸念が提起されています。
この後ろ向きコホート研究では、個人レベルの匿名化された集団規模のリンクされた健康データを用いて、英国ウェールズで認知症と診断された60歳以上の成人を同定しました。CVD-COVID-UKイニシアチブを用いて、Secure Anonymised Information Linkage(SAIL)データバンクからウェールズでルーチンに収集された電子カルテデータにアクセスしました。2016年1月1日時点で生存しており、SAILの一般診療所に登録されており、60歳以前で研究期間前または研究期間中に認知症の診断を受けた患者を対象としました。2016年1月1日から2021年8月1日までの67ヵ月間の抗精神病薬処方率の変化を、全体および年齢・認知症サブタイプ別に層別化して検討しました。時系列分析を用いて、研究期間中の全死因死亡率、心筋梗塞死亡率、脳卒中死亡率を検討し、2020年1月1日から2021年8月1日までの認知症患者の主な死因を特定しました。
2016年1月1日から2021年8月1日までのSAIL参加者3,106,690人のうち、57,396人(女性35,148人[61-2%]、男性22,248人[38-8%])が本研究の組み入れ基準を満たし、101,428人年の追跡調査に貢献しました。57,396人の認知症患者のうち、11,929人(20-8%)が追跡期間中のいずれかの時点で抗精神病薬を処方されていました。季節性を考慮すると、抗精神病薬の処方は2019年後半から2020年にかけて増加しました。しかし、処方率の絶対的な差は小さく、2019年3月の1万人月あたり1253処方から2020年9月の1万人月あたり1305処方まででした。全死因死亡率と脳卒中死亡率は2020年を通して増加しましたが、心筋梗塞死亡率は減少しました。2020年1月1日から2021年8月1日までに死亡した7508人のうち1286人(17.1%)がCOVID-19を死因としていました。
COVID-19のパンデミックの間、英国の認知症患者における抗精神病薬の処方はわずかに増加しましたが、これがパンデミックのみに関連したとは考えにくく、この増加が2020年の死亡率の大幅な増加の主要因とは考えにくいという結果でした。若年者やアルツハイマー病患者における抗精神病薬処方の長期的な増加は、より詳細な臨床データにアクセスできるリソースを用いてさらに調査する必要があります。抗精神病薬の処方は依然として認知症ケアに不可欠であるが、本研究の結果は、COVID-19の大流行による処方・処方の変更は必要ないことを示唆しているとのことです。

Is it possible to generalise superspreading individuals or events of SARS-CoV-2?
IwAR3YG6BdvVrjOPrtqnIF8mrJ2OErdPNbcRSlOsTzDJ1z61i_SeN9wcxmSB8
*Lancet Microbeで掲載されたSARS-CoV-2に関するSuper spreaderの存在を立証したという論文に関して、一般化可能性に対する疑義を議論したCorrespondense論文です。我々のチームが議論し、投稿Acceptされました。1st authorは、医学生(医学部5年生)です。
論点のみまとめます。
第一に、限界で部分的に指摘したように、サンプルサイズがわずか16名と小さく若年層男性が中心であったため、高齢者やさまざまな健康状態にある人など、さまざまなウイルス放出パターンを示す可能性のある他の層には、研究結果が直接当てはまらない可能性がある。
第二に、ウイルス排出量の正規分布が指摘されている研究であり、スーパースプレッダーの概念と一致するが、より広範な集団におけるスーパースプレッダーの存在と影響について決定的な結論を導き出すことは困難である。
第3に、この研究では症状の重症度とウイルス排出量に相関がないことから、無症候性伝播の可能性がある。
*以下に、やや長くなりますが、元論文のまとめを掲載します。
Viral emissions into the air and environment after SARS-CoV-2 human challenge: a phase 1, open label, first-in-human study
https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(23)00101-5/fulltext
*SARS-CoV-2に実験的に感染した被験者を対象に、ウイルス排出量、上気道のウイルス量、症状の縦断的な相関を明らかにすることを目的とした研究です。背景として、SARS-CoV-2の感染を抑制するための戦略を効果的に実施するためには、誰がいつ感染力を持つのかを理解する必要があります。一般に、感染性を推測するためには上気道スワブのウイルス量が用いられていますが、ウイルス排出量を測定することで、より正確に感染の可能性を示し、可能性の高い経路を特定することができる可能性があります。
英国ロンドンのロイヤル・フリー・ロンドンNHS財団トラストの検疫ユニットで行われたこの第1相オープンラベルのヒト初のSARS-CoV-2実験感染研究では、SARS-CoV-2のワクチンを受けておらず、SARS-CoV-2に感染したことがこれまでになく、スクリーニングで血清陰性の18~30歳の健康成人を募集しました。参加者は、プレアルファ野生型SARS-CoV-2(Asp614Gly)の10%組織培養感染量を鼻腔内滴下で接種し、最低14日間、個々の陰圧室に滞在しました。鼻と喉のスワブは毎日採取しました。空気(コリオリμエアサンプラーを使用し、フェイスマスクに直接注入)および周辺環境(表面および手のスワブを使用)から、毎日排出物を収集しました。すべてのサンプルは研究者が収集し、PCR、プラークアッセイ、ラテラルフロー抗原テストによって検査しました。症状スコアは、1日3回、自己報告式の症状ダイアリーを用いて収集されました。
2021年3月6日から7月8日の間に、36人の参加者(女性10人、男性26人)を募集し、34人中18人(53%)が感染し、短い潜伏期間の後に鼻と喉に高いウイルス量が長期間続き、症状は軽度から中程度でした。2名の参加者は、スクリーニングから接種までの間にセロコンバージョンを起こし、事後的に判明したため、プロトコルごとの分析から除外されました。ウイルスRNAは、16人の参加者から採取した252個のコリオリ空気サンプルのうち63個(25%)、17人の参加者から採取した252個のマスクサンプルのうち109個(43%)、16人からの252個の手指スワブのうち67個(27%)、18人からの1260個の表面スワブ中の371個(29%)から検出されました。有効なSARS-CoV-2は、16枚のマスクに取り込まれた呼気から、また、頻繁に触れる小さな表面サンプル4枚と空気中のウイルスが堆積する可能性のある大きな表面サンプル9枚を含む13枚の表面サンプルから収集されました。ウイルス排出量は、咽頭スワブよりも鼻腔スワブのウイルス量と強い相関がありました。2名が空気中ウイルスの86%を排出し、収集した空気中ウイルスの大部分は3日間に放出されました。症状スコアの合計が最も高かった人は、最も多くのウイルスを排出した人ではありませんでした。最初に報告された症状以前に放出されたものはほとんどなく(7%)、最初の側方流動抗原検査陽性以前に放出されたものはほとんどありませんでした(2%)。
コントロールされた実験的接種後、ウイルス排出のタイミング、範囲、ルートは異質でした。少数の人々が空気中のウイルスを大量に排出することが観察され、超拡散型の個人またはイベントという概念を支持しました。今回のデータは、鼻が最も重要な放出源であることを示唆していました。頻繁に自己検査を行い、最初の症状を認識したら隔離することで、後方への感染を減らすことができるとのことです。
*非常に貴重な人体実験に近い研究ですが、「超拡散型の個人またはイベントという概念を支持する」かどうかは疑問です。著者達も認めているとおり、あまりにもサンプルが少なすぎ一般化には問題があります。

Clinical Infectious Diseases(CID)
Clinical epidemiology and risk factors for critical outcomes among vaccinated and unvaccinated adults hospitalized with COVID-19—VISION Network, 10 States, June 2021–March 2023
https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciad505/7252326?searchresult=1
*入院COVID-19の臨床疫学および重大な転帰の危険因子の経時的変化について検討した米国10州の研究です。
複数のSARS-CoV-2亜型または亜型が優勢であった2021年6月~2023年3月にCOVID-19で入院した10州の18歳以上の成人を対象としました。ベースラインの人口統計学的および臨床的特徴と重大転帰(集中治療室入室および/または死亡)の変化を評価し、回帰モデルを用いてCOVID-19ワクチン接種の有無で層別化した重大転帰のリスク因子(リスク比)を評価しました。
60,488例のCOVID-19関連入院が解析対象となりました。デルタ期(2021年6月~12月)からオミクロン期(2022年9月~2023年3月)に入院した患者のうち、年齢中央値は60歳から75歳に上昇し、ワクチン接種率は18.2%から70.1%に上昇し、重篤な転帰は24.8%から19.4%に低下しました(すべてp<0.001)。全入院イベントと比較して、重篤な転帰をたどった患者は、評価した医学的状態のカテゴリーが4つ以上の割合が高かく(重篤32.8%対全入院23.0%)、重篤な転帰のリスク因子は、ワクチン未接種集団とワクチン接種集団で同様でした;4つ以上の病状分類の存在は、ワクチンの接種状況にかかわらず、重篤な転帰のリスクと最も強く関連していました(ワクチン未接種aRR 2.27[95%CI:2.14-2.41];ワクチン接種aRR 1.73[95%CI:1.56-1.92])。
COVID-19で入院した成人のうち、重篤な転帰を経験した者の割合は時間の経過とともに減少し、患者年齢の中央値は時間の経過とともに上昇し、多疾病は重篤な転帰と強く関連していました。

MMWR
Genomic Surveillance for SARS-CoV-2 Variants: Circulation of Omicron Lineages United States, January 2022-May 2023
https://www.medscape.com/viewarticle/993357
*2022年1月から2023年5月にかけての全米ゲノムサーベイランスによる変異株亜種比率の米国内の傾向をまとめた報告書です。CDCは2020年12月以来、全米ゲノムサーベイランスを用いて、オミクロン変種を含むCOVID-19パンデミックを通じて出現したSARS-CoV-2変種を監視してきました。
この監視期間中、オミクロン変異株は優勢を維持し、さまざまな子孫系統が全米で優勢(有病率50%以上)に達しました。2022年前半には、BA.1.1が2022年1月8日に終わる週までに優勢となり、続いてBA.2(3月26日)、BA.2.12.1(5月14日)、BA.5(7月2日)と続いた。2022年後半には、BA.2、BA.4、BA.5の亜型(例えば、BQ.1およびBQ.1.1)が流通し、その一部は独立して免疫回避に関連する同様のスパイクタンパク質置換を獲得しました。2023年1月末までには、XBB.1.5が優勢となりました。2023年5月13日の時点で、最も一般的に流通している系統は、XBB.1.5(61.5%)、XBB.1.9.1(10.0%)、XBB.1.16(9.4%)でした。K478R置換を含むXBB.1.16とXBB.1.16.1(2.4%)、およびP521S置換を含むXBB.2.3(3.2%)は、その時点で最も速い倍加時間を有していました。シークエンス検体の入手可能性が低下したため、バリアント比率を推定する分析法が更新されましたが、オミクロン系統の継続的な進化は、新たなバリアントを監視し、ワクチン開発や治療薬の使用の指針とするためのゲノムサーベイランスの重要性を強調しているとのことです。

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     

海外     

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

Long COVID

国内        
下水コロナウイルス濃度の変化、感染者数の増減傾向とほぼ一致 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/national/20230826-OYT1T50134/
*コロナ下水調査で新団体 流行把握へ3自治体連携
https://nordot.app/1067747078480773593
*「京都大流域圏総合環境質研究センター(大津市)などは、滋賀県内の下水に含まれる新型コロナウイルス濃度の変化が感染者数の増減の傾向とほぼ一致していたと発表した。地域の感染状況を確認する手がかりになるといい、今月から同センターホームページ(HP)でデータの公開を始めた。同センターの遠藤礼子研究員は「地域住民が周辺の感染状況を知るための重要なデータになる」としている。」

コロナ6~8波で医療逼迫、搬送までに15時間も 神戸市が検証報告
https://www.asahi.com/articles/ASR8T5V2NR8TPIHB00C.html
*「神戸市は25日、新型コロナウイルスの第6~8波対応を検証した報告書を発表した。オミクロン株の感染拡大で救急搬送が困難になる事例が5千件以上に上るなど、医療の逼迫(ひっぱく)が改めて浮き彫りとなった。
 報告書によると、第6波(昨年1~6月)では、感染力が強いオミクロン株が初めて流行。それまで市内で1日最大数百人ほどだった感染者数が最大2351人まで増えた。」

海外       
北朝鮮、3年7か月ぶり国境開放…新型コロナの状況改善で海外住民の帰国承認 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/world/20230828-OYT1T50026/
*北朝鮮、住民の帰国認める コロナ規制、1週間隔離
https://nordot.app/1068298929531323290

4)対策関連
国内      
感染症司令塔に5億2千万円 24年度要求、統括庁新設
https://rd.kyodo-d.info/np/2023082301001550

海外       

5)社会・経済関連     
マイナ問題は「政争の具」 総点検、早さ・正確性の両立探る:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA146EG0U3A810C2000000/
*「「デジタル敗戦を二度と繰り返してはならない」。岸田文雄首相は4日、マイナンバー問題を説明する記者会見で、新型コロナ禍に触れながらこう訴えた。
首相官邸には「敗戦」という言葉を使うべきでないとの意見があった。それを押し切ったのは、ここでマイナンバーの普及を止めたらデジタル後進国のままだという首相の危機感だった。」

デジタル庁「総務課」新設 トラブル対処の機能強化:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA170C00X10C23A8000000/
*「デジタル庁が7月、非公式に組織体制を修正した。縦割り打破を目指して部局や課を設けていなかった機構に通称「総務課」「会計課」「人事課」を設けた。発足からの2年弱、首相官邸や他省庁、自治体との調整にトラブルが相次いでいたからだ。」

国会はコロナ後も「対面縛り」 官僚の疲弊が改革機運に:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA247KT0U3A720C2000000/
*「新型コロナウイルス下で進んだデジタル化の潮流に日本の国会は乗れなかった。オンライン審議は導入されず、国会はいまだ「対面の縛り」から逃れられない。その巻き添えになる霞が関の疲弊が改革機運をもたらすようになってきた。
「理事懇談会を開きます」――。7月中旬、地元の大阪府にいた日本維新の会の奥下剛光氏は上京を求められた。九州での豪雨被害を受けて衆院災害対策特別委員会の閉会中審査を準備するため、各党の理事に参加の呼びかけがあったためだ。
7月20日朝に国会で開いた理事懇談会は1時間で終わった。前日夜から東京入りした奥下氏は地元で予定していた複数の会合や面会をキャンセルしていた。「オンラインでできればいいのに」。周囲にこぼした。」

上記3部作は、以下のURLでリンクがまとめられています。
岸田首相が認めた「デジタル敗戦」 再出発の道は:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA260H30W3A820C2000000/

感染症専門家・忽那賢志さん コロナ禍で貫く信念と意外な素顔 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230823/k00/00m/040/216000c
*「この3年あまりで大変だった時期はいつでしょう? 「流行初期ですね。治療法もワクチンもなく、コロナを診る医療機関は限られていて、私たちの病院に患者さんがどんどん集まってきた。私も『感染したら嫌だなあ』という思いがあった。肉体的にもつらかったですね」」

コロナ無料検査の補助金を不正受給、5事業者が11億円超返還せず…大阪府が刑事告訴も検討 : 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/national/20230827-OYT1T50063/

訪中の外国人数、回復せず 「ゼロコロナ」終了でも忌避感 
https://nordot.app/1067731338916217233

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