COVID-19情報:2023.06.19

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、Scienceより3編、Natureより1編です。

Scienceの1編目は、COVID-19の治療を強化することを目的にした、Dexamethasone(DEX)を送達するためにコレステロールを持つ好中球ナノ粒子をエンジニアリングすることによる吸入、自己免疫制御、細胞外ナノ粒子に基づく送達(iSEND)システムについての研究です。iSENDは、表面のケモカインおよびサイトカイン受容体を利用して、マクロファージへのターゲティングを改善し、幅広いスペクトルのサイトカインを中和することが示されました。
2編目は、Bmem細胞のシングルプロファイリングと抗体機能評価を組み合わせることで、COVID-19(コロナウイルス)有病者における強力な中和抗体を保有するBmem細胞の表現型を明らかにした研究です。今回のBmem細胞プロファイリングにより、強力に中和するBCRを保有するBmem細胞サブセットのユニークな表現型が明らかになったとのことです。
3編目は、SARS-CoV-2感染により、マウスおよびヒトの脳オルガノイドにおいて、ニューロン間およびニューロンとグリア間の融合が誘導されることを明らかにした研究です。この現象は、ウイルス融合因子によって引き起こされることが明らかになりました。神経細胞の融合は進行性の事象であり、多細胞の合胞体(動物に見られる、複数の核を含んだ細胞のこと)の形成につながり、大きな分子やオルガネラの拡散を引き起こすことを実証しました。

Natureは、先週共有したLancet Microbe誌の論文 (Viral emissions into the air and environment after SARS-CoV-2 human challenge: a phase 1, open label, first-in-human study)について論じたNature Newsです。

報道に関しては、千葉市でコロナの健康把握のために貸したパルスオキシメーター5千台が未回収との事です。
また、日経の記事「「見えなかった」コロナ対策、検証あってこその進化:日本経済新聞」は必読です。なかなか軸足が確定しておらず、批判的になったりならなかったりフラフラしている日経ですが、編集委員の矢野氏だけはしっかりとした意見を出すようです。

高橋謙造

1)論文関連      
Science
Inhalation delivery of dexamethasone with iSEND nanoparticles attenuates the COVID-19 cytokine storm in mice and nonhuman primates
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adg3277
*COVID-19の治療を強化することを目的にした、Dexamethasone(DEX)を送達するためにコレステロールを持つ好中球ナノ粒子をエンジニアリングすることによる吸入、自己免疫制御、細胞外ナノ粒子に基づく送達(iSEND)システムについての研究です。
iSENDは、表面のケモカインおよびサイトカイン受容体を利用して、マクロファージへのターゲティングを改善し、幅広いスペクトルのサイトカインを中和することが示されました。DEXをiSENDでカプセル化したnanoDEXは、急性肺炎マウスモデルにおいてDEXの抗炎症作用を効率的に促進し、骨粗鬆症ラットモデルにおいてDEXによる骨密度減少を抑制しました。また、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2感染非ヒト霊長類において、0.1ミリグラム/kgのDEX静脈内投与に比べ、10倍低い量のnanoDEXを吸入投与すると、肺の炎症と傷害に対してさらに優れた効果が得られました。
今回の研究は、COVID-19やその他の呼吸器疾患に対する安全で堅牢な吸入デリバリープラットフォームを提示するものであるとのことです。

CD62L expression marks SARS-CoV-2 memory B cell subset with preference for neutralizing epitopes
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adf0661
*Bmem細胞のシングルプロファイリングと抗体機能評価を組み合わせることで、COVID-19(コロナウイルス)有病者における強力な中和抗体を保有するBmem細胞の表現型を明らかにした研究です。
SARS-CoV-2中和抗体は、主にスパイク受容体結合ドメイン(RBD)を標的とします。しかし、RBD結合メモリーB(Bmem)細胞上のB細胞抗原受容体(BCR)には、中和活性にばらつきがあることが分かっています。
中和サブセットは、CD62Lの発現が高く、中和活性を示すエピトープ選好性とVH(免疫グロブリン重鎖の可変領域)遺伝子の利用が明確であることが特徴的でした。また、CD62L+とCD62L-サブセットのRBD結合は同等であるにもかかわらず、血中の中和抗体価とCD62L+サブセットの間に相関が見られ、さらに、CD62L+サブセットの動態は、COVID-19の重症度によって回復した患者間で異なっていまいした。
今回のBmem細胞プロファイリングにより、強力に中和するBCRを保有するBmem細胞サブセットのユニークな表現型が明らかになったとのことです。

SARS-CoV-2 infection and viral fusogens cause neuronal and glial fusion that compromises neuronal activity
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adg2248?fbclid=IwAR0nC5WYRoImnhxcKC5h7JM_0F77Dt37sagA7zsXmQba8EP5gHDDeLszMYQ
*SARS-CoV-2感染により、マウスおよびヒトの脳オルガノイドにおいて、ニューロン間およびニューロンとグリア間の融合が誘導されることを明らかにした研究です。背景として、数多くのウイルスが、宿主細胞に侵入するために、フソーゲンと呼ばれる特殊な表面分子を使用しています。SARS-CoV-2 を含むこれらのウイルスの多くは、脳に感染することがあり、そのメカニズムは十分に解明されていないが、重度の神経症状と関連しています。
この現象は、SARS-CoV-2のスパイク(S)タンパク質やヒヒのオルソレオウイルス由来の無関係な融合因子p15の発現によって完全に模倣されることから、ウイルス融合因子によって引き起こされることが明らかになりました。神経細胞の融合は進行性の事象であり、多細胞の合胞体(動物に見られる、複数の核を含んだ細胞のこと)の形成につながり、大きな分子やオルガネラの拡散を引き起こすことを実証しました。最後に、Ca2+イメージングを用いて、融合が神経細胞の活性を著しく低下させることを示しました。これらの結果は、SARS-CoV-2や他のウイルスが神経系に影響を与え、その機能を変化させ、神経病理を引き起こすメカニズムに関する洞察を与えるものであるとのことです。

Nature
What makes a COVID superspreader? Scientists learn more after deliberately infecting volunteers A rigorous study identifies ‘supershedders’ who spew huge amounts of virus into the air — despite having only mild symptoms.
https://www.nature.com/articles/d41586-023-01961-7
*先週共有したLancet Microbe誌の論文 (Viral emissions into the air and environment after SARS-CoV-2 human challenge: a phase 1, open label, first-in-human study)について論じたNature Newsです。
このSARS-CoV-2に意図的に感染させた人々の研究から、ウイルス感染に関する豊富な知見が得られました。
例えば、一部の人々は、他の人々よりもはるかに多くのウイルスを空気中にまき散らす「スーパーシェッダー」であることが示されました。
また、この研究は、COVID-19の矛盾の一部は、ウイルスではなく人間の生理学に原因があることも示唆しています。
◯研究デザインのメリット
・重症化する可能性のある感染症を人に与えるのは非倫理的だという意見もありますが、この研究デザインには利点があります。
チャレンジスタディは、ワクチン試験を大幅にスピードアップさせることができますし、陽性反応が出る前や症状が出る前の段階など、COVID-19のある側面を理解する唯一の方法なのです。
◯COVIDに繰り返し感染することは危険か?科学的根拠は?
・34人の健康な若者の鼻に、既知の量のウイルス粒子を噴霧して接種したうち、18人が感染症を発症し、少なくとも14日間病室で過ごしました。毎日、研究者は参加者の鼻や喉、空気中、参加者の手や病室の様々な表面のウイルス濃度を測定しました。
・自然感染したCOVID-19の症状や重症度は、感染経路やウイルス株、どれだけのウイルスにさらされたかによって異なるかもしれません。しかし、今回のチャレンジ研究では、「それがすべてコントロールされていたことがわかった」とのことである。
・感染症を発症した18人の被験者のうち2人は、どちらも軽い症状しかなかったにもかかわらず、試験期間中に検出された空気中のウイルスの86%を排出していました。
・これまでの研究では、多くの人に感染させるスーパースプレッダーが存在することを示すエビデンスが得られていますが、そのような人々が大量のウイルスを排出する「スーパーシェッダー」なのか、それとも単に社会的接触が多いだけなのかについては、議論が分かれるところであった。今回の研究は、「スーパーシェダーの存在を支持するものである」とのことであす。
◯迅速な検査でその価値を示す
・参加者は、隔離された各日に、ラテラルフローテスト(迅速抗原検査とも呼ばれる)を行いました。陽性反応が出る前に、検出可能なレベルのウイルスを空気中に放出した参加者はおらず、検出可能なウイルスを手や表面、一時的に着用したマスクに残した参加者はごく一部でした。
・また、陽性反応が出た時点で、ほとんどの参加者はすでに疲労感や筋肉痛などの軽い症状が出ていました。「症状を感じたらすぐに検査すれば、迅速検査はウイルスの拡散を抑えるための強力なツールになる」ことの根拠になるとのことです。
◯Long-COVIDはいつまで感染するのか?これまでのところ、科学者たちは何を知っているのか
・研究者の中には、この研究結果が今日の世界との関連性を疑問視する人もいる。例えば、メリーランド大学のドナルド・ミルトンの意見によれば、鼻から滴下するという感染経路は、ほとんどの自然感染とは異なるとのことです。その結果、研究参加者と実世界の感染者との間で、ウイルスの排出量が異なる可能性があります。また、現在主流となっているオミクロン株は、研究者たちが使用した2020年の株とは異なる広がりを見せているとのことです。
このような制約はあるものの、今回の研究は「実に有用な情報を与えてくれる」との意見があり、この結果は、自然感染で観察した結果と一致するとのことです。
研究チームは、より新しい株を使った同様のチャレンジ・スタディを行う予定であるとのことです。

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     
コロナXBB対応ワクチン導入へ 23年秋、主流の派生型:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA170BE0X10C23A6000000/
*「XBBは世界的に拡大しており、米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会も15日、秋からの接種に使うワクチンは「XBB・1.5」に対応した製品が望ましいとの意見をまとめた。」

海外     

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

Long COVID

国内        
提案募り改良重ねた東京都新型コロナサイト その回数は - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230616/k00/00m/040/144000c
*「新型コロナウイルスの5類移行に伴い、東京都は「新型コロナウイルス感染症対策サイト」を5月末に閉鎖した。このサイトはプログラムの設計図を無料で公開して誰でも活用できるようにし、市民から修正や改善の提案を募って反映するという行政としては珍しい手法を採用。国内外のエンジニアから注目を集めた。都は今後、改良を繰り返したサイト運営の経験を別の機会でも生かす考えだ。」

コロナで貸したパルスオキシメーター5千台未回収 千葉市「返却を」
https://www.asahi.com/articles/ASR6J76K4R6JUDCB00F.html
*「市によると、パルスオキシメーターの貸し出しは2020年12月から開始。市はこれまで厚生労働省からの無償提供を含めて約2万2千台を所持し、新型コロナ陽性者で希望する自宅待機者に委託した民間業者を通して配送した。未回収分の機器購入代金は約4500万円に上るという。」

わかりにくい、でも確実 トレンド把握に コロナ感染者数の定点報告
https://www.asahi.com/articles/ASR6J73HHR6JUTFL00F.html

海外       

4)対策関連
国内      
「見えなかった」コロナ対策、検証あってこその進化:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK091LR0Z00C23A6000000/
*「宇宙や生命のなぞに迫る科学は、哲学や宗教と違って、見えないものを見えないまま対処するのが苦手だ。画像やデータなどに、あらゆる手をつくし対象を客観化しないと前に進まない。PCR検査や磁気共鳴画像装置(MRI)、重力波の検出、といった可視化のテクノロジーが度々ノーベル賞に輝くのもうなずける。
未知のウイルスが出現し、瞬く間に世界に広がり人々の命を奪っていく。そのまん延に社会はおののき、大きく混乱する。3年あまりに及ぶ新型コロナのパンデミック(世界的大流行)は小さな病原体、そして死への恐怖という「見えないもの」との闘いだった。
「3密」や「クラスター」「新しい生活様式」といった、はやり言葉をいくつも生み出した日本のコロナ対策。果たして科学の力をうまく引き出したといえるだろうか。
2023年3月、医療・医学に詳しい政治家、武見敬三参院議員に日本の対策を総括してもらった。「人的被害を低く抑えることができたのは、手洗い、マスクといった国民の習慣のおかげ。政策がよかったわけではない」
感染症という有事に対する政府の危機意識は低かった。義務なき行動制限を国民一人ひとりが実直に守ったことが大きかった。たまたま運がよかったということなのかもしれない。」

「新しい生活様式」廃止すべきだった 武藤香織さんが見た国の失敗
https://www.asahi.com/articles/ASR6M35P1R6JUPQJ006.html
*「私が最も心残りなのは、感染者に関する情報の公表のしかたです。私は、感染者が出た時の公表ルールを定めるよう国に要望したのですが、決めてもらえなかった。メディアでも、人々を傷つけない感染症報道のガイドラインをつくる動きはないようです。」

海外       

5)社会・経済関連     
マスク「外す場面増やした」47% 男女で差 毎日新聞世論調査 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20230618/k00/00m/040/114000c

過大請求「言えなくなった」 近ツー支店長、市に確認され虚偽の資料
https://www.asahi.com/articles/ASR6J6H19R6JPTIL016.html


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