COVID-19情報:2023.10.27

皆様

本日のCOVID-19情報を共有します。

最初に重要な報告ですが、次週より、この情報の配信を週2回(月、木)に減らします。
理由は、新規論文の数の減少、良質な報道の数の減少です。
そもそも、最初は報道の迅速な共有を意図して開始し、学術知見も同時に迅速に共有しようという意図でしたが、これらはほぼ目的を達したかと感じています。また、特に国内メディアの関心の薄れ方は尋常ではなく、重要な知見の配信も非常に遅いものとなってしまっており、海外のメディアと比べると詳細な情報を伝えるという意図も希薄です。これは総じて、報道メディアに関わる者たちのリテラシーの低下が原因であると言わざるを得ません。報道というものが権力の監視装置ではなく、翼賛メディアに堕してしまっているのが日本の弱みです。コロナ問題においては、最終的には5)社会・経済関連が充実してくるであろうと予測していましたが、この期待は見事に裏切られました。報道メディアは、読者を獲得するために、次々と新しい時事ネタを垂れ流し、本当に知見を凝縮させるべき「今」に、一部の「貢献者」の翼賛記事を掲載するのみで、総括をするという姿勢がほとんどの新聞、TVメディアにおいて見られません。
そんなことより、いかに甘い汁を吸うか、そのために全力を尽くして売れる報道を作る、というのが今の報道ジャーナリストなのでしょう。
新型コロナは、「売れ筋商品であったが、その賞味期限は切れた。」ということなのでしょう。日本を食い物にして、切り売りしているのはメディアという魔物です。
しかし、そのような状況下においても、COVID-19関連に関する学術知見はどんどん出てきますので(特にJAMA、LANCET、Natureなど)、これを配信しておくのは意義があると考えております。権力におもねることなく、甘い汁を吸うことなく、天下りを求めることなく、批判的に見る姿勢を貫いて行きたいと思っています。

さて、本日の論文は、LANCET系列より3編です。
1編目は、選択的SGLT2阻害剤 エンパグリフロジン(国内製品名ジャディアンス)に関して、COVID-19で入院した患者における安全性と有効性を評価することを目的としたRECOVERY試験の報告です。COVID-19で入院した成人において、エンパグリフロジンは28日死亡率、入院期間、侵襲的人工呼吸への移行または死亡リスクの低下と関連しませんでした。
2編目は、COVID-19による制限に対応した体力、および制限解除から1年後の体力の複数の構成要素における変化を調べ、パンデミック前に標準体重、過体重、または肥満であった男女のグループにおけるこれらの傾向を比較した研究です。青少年のほとんどの集団において、体力がパンデミック以前のレベルに戻る傾向のない深刻な低下が見られました。
3編目は、COVID-19のパンデミックのような、惑星規模の健康危機に対するコミュニティベースの対応について、生活、公平性、健康、ウェルビーイング、環境の観点から、フィンランド、インド、ケニア、ペルー、アメリカの5つの組織のリーダーとともに検討したViewpoint論文です。トランスローカルな学習プロセスからは、主に3つの発見がありました。1)COVID-19が既存の社会的・健康的不平等を悪化させる可能性のある方法を、地域密着型組織(CBO: Community-based organisations)は、自分たちがサービスを提供する地域社会に近いおかげで、迅速に特定することができること、2)地域に根ざしたCBOの活動は、システム化された地球規模の健康危機に直面して、独自の課題を抱えるコミュニティを支援するための鍵となること、3)CBOは、地域の優先事項に対応し、利用可能な資源を動員することで、権利に基づく、エコロジーを重視した活動を展開することができることなどです。

報道に関しては、「広島大学、コロナワクチンの効果落ちやすい人を予測」が興味深い知見を出しています。
また、「行政デジタル化とは 紙や対面手続きの廃止めざす」は、日本がなぜ3流国に堕したのか、その原因を指摘しているように感じられてなりません。一部の仕事をしたがらない、現状維持至上主義の公務員の責務が大きいと言わざるを得ないでしょう。
兵庫県宍粟市が作成したコロナと対応の記録は非常に重要な知見です。

高橋謙造

1)論文関連      
LANCET
Empagliflozin in patients admitted to hospital with COVID-19 (RECOVERY): a randomised, controlled, open-label, platform trial

https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(23)00253-X/fulltext

*選択的SGLT2阻害剤 エンパグリフロジン(国内製品名ジャディアンス)に関して、COVID-19で入院した患者における安全性と有効性を評価することを目的としたRECOVERY試験の報告です。
無作為化対照非盲検RECOVERY試験では、COVID-19で入院した患者において、いくつかの可能性のある治療が通常の治療と比較されました。
本解析では、適格で同意の得られた成人患者を、割り付け隠蔽を伴うウェブベースの単純無作為化(層別化なし)を用いて、通常の標準治療のみ、または通常の標準治療+エンパグリフロジン10mg1日1回経口投与のいずれかに28日間または退院まで(いずれか早い方)1:1の割合で無作為に割り付けました。主要アウトカムは28日死亡率で、副次アウトカムは入院期間と(ベースライン時に侵襲的人工呼吸を受けていない参加者における)侵襲的人工呼吸または死亡の複合アウトカムでした。2023年3月3日、独立データモニタリング委員会は治験責任医師にデータの見直しを勧告し、その結果、募集は2023年3月7日に中止されました。
2021年7月28日から2023年3月6日の間に、4,271例の患者がエンパグリフロジン投与群(2,113例)と通常治療群(2,158例)に無作為に割り付けられました。無作為に割り付けられた患者の99%以上について、一次および二次アウトカムのデータが得られました。全体として、エンパグリフロジンに割り付けられた2,113例中289例(14%)、通常ケアに割り付けられた2,158例中307例(14%)が28日以内に死亡しました(率比0.96[95%CI 0.82-1.13];p=0.64)。入院期間(両群とも中央値8日)や28日以内に生存退院した患者の割合(エンパグリフロジン群1,678例[79%] vs 通常ケア群1,677例[78%];割合比1.03[95%CI 0.96-1.10];p=0.44)に有意差を示すエビデンスはありませんでした。ベースライン時に侵襲的機械的換気を行っていない群では、侵襲的機械的換気または死亡の複合エンドポイントを満たす割合に有意差を示すエビデンスは認められませんでした(2,084例中338例[16%] vs 2,143例中371例[17%];リスク比0.95[95%CI 0.84-1.08];p=0.44)。エンパグリフロジンに関連すると思われる重篤な有害事象は2件報告され、いずれもアシドーシスを伴わないケトーシスでした。
COVID-19で入院した成人において、エンパグリフロジンは28日死亡率、入院期間、侵襲的人工呼吸への移行または死亡リスクの低下と関連しなかったため、糖尿病など別の疾患による確立された適応がない限り、このような患者の治療には適応されないとの結論です。

Physical fitness among children with diverse weight status during and after the COVID-19 pandemic: a population-wide, cohort study based on the Slovenian physical fitness surveillance system (SLOfit)

https://www.thelancet.com/journals/lanepe/article/PIIS2666-7762(23)00167-9/fulltext

*COVID-19による制限に対応した体力、および制限解除から1年後の体力の複数の構成要素における変化を調べ、パンデミック前に標準体重、過体重、または肥満であった男女のグループにおけるこれらの傾向を比較した研究です。
スロベニアの全国体力サーベイランスシステムを通じて情報を収集し、2019年から2022年まで毎年体力レベルを測定した5~17歳の子ども41,330人(女児19,890人)を対象としました。男子と女子に分けてフィットさせたマルチレベル線形混合モデルを用いて、3つの体重グループにおける各体力テストのセンチルスコアの個人レベルの経時的傾向をモデル化しました。
全体的なフィットネスレベルは、2019年から2020年の間にすべての体重区分で顕著に低下し、総フィットネス指数は、標準体重と過体重の子どもで最大の低下が観察されました(男児は-8.4および-7.7センタイル、女児はそれぞれ-8.3および-8.8、p<0.001)。2020年から2022年にかけて全体的なフィットネスレベルはいくらか回復しましたが、肥満の男児を除けば、ほとんどのグループで2019年に比べて2022年はかなり低いままでした。全般的なフィットネスの傾向に最も大きな影響を与えたフィットネス構成要素は、心肺フィットネス、下半身パワー、体幹、上半身筋力でした。
青少年のほとんどの集団において、体力がパンデミック以前のレベルに戻る傾向のない深刻な低下が見られることから、青少年に身体活動のさらなる機会を提供するような、集団全体での緊急の取り組みが必要であるとのことです。脆弱な集団の中でも、過体重と肥満の女児は、こうした政策の特別な焦点に値するとのことです。

Think global, act local: using a translocal approach to understand community-based organisations’ responses to planetary health crises during COVID-19

https://www.thelancet.com/journals/lanplh/article/PIIS2542-5196(23)00193-6/fulltext

*COVID-19のパンデミックのような、惑星規模の健康危機に対するコミュニティベースの対応について、生活、公平性、健康、ウェルビーイング、環境の観点から、フィンランド、インド、ケニア、ペルー、アメリカの5つの組織のリーダーとともに検討したViewpoint論文です。ここでは、複雑な健康危機、環境危機、経済危機に対するコミュニティベースの対応についての洞察を共同開発するために、トランスローカル学習のアプローチを用いました。
トランスローカルな学習は、ローカルな視点を大切にしながらも、国境を越えた方法で、異なる地域間の集合的な知識生産を支援するものです。トランスローカルな学習プロセスからは、主に3つの発見がありました。
第一に、COVID-19が既存の社会的・健康的不平等を悪化させる可能性のある方法を、地域密着型組織(CBO: Community-based organisations)は、自分たちがサービスを提供する地域社会に近いおかげで、迅速に特定することができます。
第二に、地域に根ざしたCBOの活動は、システム化された地球規模の健康危機に直面して、独自の課題を抱えるコミュニティを支援するための鍵となります。
第三に、CBOは、地域の優先事項に対応し、利用可能な資源を動員することで、権利に基づく、エコロジーを重視した活動を展開することができることがあきらかになりました。
今回の発見は、Planetary Healthに対する解決策が、文脈の内と外でうまく結びついた小規模コミュニティのイニシアティブから生まれる可能性があることを示しています。地元に根ざした、地球規模を意識した活動は、より大きな認知、資金提供、ネットワークづくりの機会を通じて活用されるべきであり、地球規模では、補完性とトランスローカリズムの原則を適用することで、惑星の健康のためのイニシアチブを支援すべきであるとのことです。

2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     
広島大学、コロナワクチンの効果落ちやすい人を予測
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC170RA0X11C23A0000000/
*「それぞれの遺伝子も解析したところ、抗体をつくるのに関わるとみられる一部の遺伝子にSNP(一塩基多型)という特徴があると抗体が減りやすいことが分かった。SNPは遺伝子を構成する塩基の配列の一部が通常と異なり、体質などに影響するとされる。
研究チームは特定のSNPの有無や性別をもとにワクチン接種から5カ月後に抗体が減って予防効果が下がりやすい人を高い精度で予測できることを確認した。
例えば、2回目の接種から3週間後の抗体量やSNP、性別をもとにワクチンの効果が落ちやすい人を約8割の精度で予測できた。
さらに抗体の量が分からなくてもSNP、年齢、性別から7〜8割の精度で予測できる。接種時にSNPを調べれば、効果的な接種頻度を導き出せる可能性がある。今回の分析では抗体が減りやすい人は約1割いた。」

海外     

治療薬      

3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     

Long COVID

国内        
北海道のコロナ定点感染者、16〜22日1施設6.79人新型コロナ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC266NH0W3A021C2000000/

海外       

4)対策関連
国内      
行政デジタル化とは 紙や対面手続きの廃止めざす
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA198VO0Z11C23A0000000/
*「政府は21年9月にデジタル政策の司令塔を担うデジタル庁を立ち上げた。マイナンバーカードの普及や地方自治体ごとに異なるシステムの標準化を進める。23年10月にはデジタル行財政改革会議を設け、デジタル技術を使った行政の効率化と歳出改革を並行させる方針だ。教育や介護、交通を重点領域に掲げ横断的な改革を狙う。
歴代政権がそれぞれ新たな戦略などを打ち出してきたものの改善は浸透してこなかった。新型コロナウイルス禍で感染者情報の集約やワクチン接種が滞り、岸田文雄首相は「デジタル敗戦」と指摘する。23年の春にマイナンバーを巡り他人の情報を誤って登録した事案が相次ぎ判明するなど課題も浮上した。」

新型コロナでわかった「使えない仕組み」、大曲医師が語る教訓と備え
https://digital.asahi.com/articles/ASR9T5D54R9CUTFL01P.html?iref=pc_special_coronavirus_top
*「まず、感染症に関連した国の危機管理の指揮命令系統が、これまでははっきりしていませんでした。有事には政府対策本部ができますが、常設されているわけではありません。
パンデミック(感染症の大流行)に対しては、2012年に成立した新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、政府の行動計画がつくられ、それに沿って準備をしてきました。実際に準備したことは大変、役に立ちました。
ただ、平時から機能する行政組織があれば、準備の進捗(しんちょく)をチェックし、うまくいっていない所には促すことができ、より円滑にいった可能性がある。
そういう意味では今回、内閣感染症危機管理統括庁ができてよかったと思っています。」

海外       

5)社会・経済関連     
コロナ禍の3年余り、兵庫・宍粟が対応記録誌 臨時交付金事業検証も
https://digital.asahi.com/articles/ASRBT6GTZRBLPIHB01M.html?iref=pc_special_coronavirus_top
*「2020年1月に国内で新型コロナウイルス感染が確認されてから今年5月に感染症法上の位置づけが変わるまで、兵庫県宍粟市がどう対応してきたかをまとめた記録誌ができた。新しい感染症の拡大に備える目的で市が作成した。市のホームページで見ることが出来る。
記録誌は71ページ。3年余りにわたる国・県の動向と市の対応を時系列で記したほか、感染者数の月別の内訳やワクチン接種の実績などをまとめた。」


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