感染症関連知見情報:2024.02.05

皆様
本日のCOVID-19情報を共有します。

本日の論文は、JAMAより3編、NEJMより1編です。

1編目は、血液悪性腫瘍(HMT: hematologic malignant tumors)に罹患した成人患者において、チキサゲビマブ-シルガビマブを予防的に投与した患者とそうでない患者におけるCOVID-19の発症率と重症度を比較することを目的としたコホート研究です。予防的なチキサゲビマブ-シルガビマブがCOVID-19の発生率と重症度を低下させ、HMT患者におけるワクチン接種ブースターを補完する手段となる可能性を示唆していました。
2編目は、MIS-C(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children)の病態において、微小循環と内皮機能との関連性を検証する目的で、急性期と症状発現から3~6ヵ月後にこれらの側面を縦断的に調査した研究です。微小循環パラメータの障害は、たとえ炎症が続いていなくても、追跡期間中持続しました。これらの所見は、年齢、肥満度、性別などの既知の交絡因子を調整しても有意でした。
3編目は、COVID-19がRSV感染症などの呼吸器疾患の最近の急増とどのように関連しているかについて論じたJAMAのMedical News & Perspectives記事です。「免疫負債」と「免疫窃盗」という用語が用いられ、説明が加えられています。

NEJME論文は、COVID-19の大流行により、親がワクチン接種をためらう傾向が米国で広まっているという誤解について取り上げたPerspective論文です。ワクチン接種をためらうのが米国の親の標準ではないことを強調し、RSウイルス(RSV)に対する新しいワクチンの需要が高いという逸話的証拠を示し、予防接種に対する親の熱意を示しています。ほとんどの親がワクチン接種をためらっているという考え方は、臨床医、政策立案者、親の健康関連の意思や行動に悪影響を及ぼしかねません。ワクチンへのアクセスを改善しようとする努力が損なわれ、疎外された地域社会が無防備なまま放置される可能性があります。

報道に関しては、残念ながら、感染症全般に関して目立ったニュースはありませんが、阪大感染制御部を取り上げた「「ヤブ医者」「金のため」コロナ禍に誹謗中傷投稿、発信者特定し賠償命令も…忽那賢志・阪大教授「泣き寝入りしたら後進も被害」 」は読み応えがあります。

高橋謙造

1)論文関連      
JAMA
Efficacy of Tixagevimab-Cilgavimab as Immunoprophylaxis in Patients With Hematologic Cancer

*血液悪性腫瘍(HMT: hematologic malignant tumors)に罹患した成人患者において、チキサゲビマブ-シルガビマブを予防的に投与した患者とそうでない患者におけるCOVID-19の発症率と重症度を比較することを目的としたコホート研究です。チキサゲビマブおよびシルガビマブは、SARS-CoV-2から回復した患者のB細胞由来の完全ヒトSARS-CoV-2中和モノクローナル抗体(mAbs)であり、これらのmAbの組み合わせ(AZD7442)は、ワクチン反応が不十分なリスクが高い成人におけるCOVID-19免疫予防の安全かつ効率的な選択肢であることが実証されています。
2022年6月1日から9月1日の間に、チキサゲビマブ・シルガビマブ投与の対象となる連続患者を登録しました。各患者は6ヵ月間モニタリング。年齢、性別、HMT、最終血液療法、抗SARS-CoV-2ワクチン接種状況、チキサゲビマブ・チルガビマブ投与に関するデータを収集しました。データカットオフ時に、ブレークスルーSARS-CoV-2感染を電話インタビューで登録。全患者がインフォームド・コンセントに署名しました。検証したすべての仮説について、両側P<0.05を有意とみなしました。
合計204人の患者が試験に登録されました: 130例(64%)が欧州連合で承認された用量(150/150mg)でチキサゲビマブ-シルガビマブを投与され、74例(36%)は拒否またはロジスティクスの問題により投与されませんでした。有意な有害事象の報告はなく、2つのコホートの臨床的特徴を表に報告しています。
2022年6月から2023年3月まで、イタリアではオミクロン株が流行し、2022年7月にBA.2よりBA.5が優勢になりました。データカットオフ時(2023年3月1日)のブレークスルー感染率は、チキサゲビマブ-シルガビマブ曝露群130例中28例(21%)であったのに対し、対照群では74例中28例(38%)でした(P = 0.01)。COVID-19の発生率は、チキサゲビマブ-シルガビマブ群で1万人日あたり13.8人であったのに対し、対照群では28.0人でした(ハザード比[HR]、0.47;95%CI、0.27-0.81;P = 0.01)。チキサゲビマブ-シルガビマブの投与は、重症または重篤なCOVID-19の発生率の有意な低下と関連していました(1万人日あたり1.4 vs 4.0、HR、0.18、95%CI、0.03-0.99、P = 0.0495)。入院の必要性も、予防的にチキサゲビマブ-シルガビマブを投与された患者で有意に低くなっていました(1.3 vs 4.0 per 10,000 person-days;HR、0.19;95%CI、0.04-0.91;P = 0.04)。これらの結果はKaplan-Meier推定でも確認されました)。
傾向スコアマッチングにより各群から選択された52例について感度分析を行ったところ、チキサゲビマブ-シルガビマブ群でCOVID-19感染リスクが有意に低下することが確認されました(HR, 0.44; 95% 0.20-0.97; P = 0.04)。
今回の結果は、予防的なチキサゲビマブ-シルガビマブがCOVID-19の発生率と重症度を低下させ、HMT患者におけるワクチン接種ブースターを補完する手段となる可能性を示唆しています。また、研究の限界は、無作為化デザインがないこと、HMTの不均一性、ワクチン接種状況の違いなど。感度分析により無作為化がなかったことが緩和され、2群の比較可能性が確認されました。HMT患者におけるワクチン接種による免疫原性低下の主な危険因子は、積極的治療であると認識されています。

Long-Term Microvascular Changes in Multisystem Inflammatory Syndrome in Children

*MIS-C(Multisystem Inflammatory Syndrome in Children)の病態において、微小循環と内皮機能との関連性を検証する目的で、急性期と症状発現から3~6ヵ月後にこれらの側面を縦断的に調査した研究です。
この前向き症例対照研究では、STROBEガイドラインに従い、世界保健機関(WHO)の基準に従ってMIS-Cと診断され、重大な合併症のない小児を、両親または保護者から書面によるインフォームド・コンセントを得た後に研究に組み入れ、健康な対照参加者と年齢と性別をマッチさせました。
臨床データとバイタルサインを収集し、舌下微小循環の動画は、サイドストリームダークフィールドイメージング技術に基づく携帯型MicroScanビデオ顕微鏡を用いて取得、AVAソフトウェア(バージョン3.2)を用いたオフライン解析により、総血管密度(TVD)、微小血管流量指数(MFI)、灌流血管の割合(PPV)、血管径分布(Video)が定量化されました。内皮機能(反応性充血指数)および動脈硬化(増大指数[AI])はEndoPAT装置を用いたデジタル動脈脈波検査で測定しました。
データ解析はSPSSを用いて盲検下で行い、Shapiro-Wilk検定、t検定、χ2検定、Mann-Whitney U検定、多変量線形回帰を行い、両側P<0.05を有意としました。
MIS-C患者18人(女性7人[38.9%];男性11人[61.1%];平均[SD]年齢10.6[4.0]歳;1人は合併症のため除外)を集め、対照17人(女性6人[35.3%];男性11人[64.7%];平均[SD]年齢10.96[4.2]歳)とマッチさせました。急性期と中央値114.5日後(IQR、94.5-136.0日)に検査しました。急性期には、MIS-C患者は対照群と比較して、MFI中央値(2.36[IQR、2.23-2.72] vs 2.80[IQR、2.69-2.86];P = 0.01)。、TVD(16.14[IQR、14.61-17.85]mm/mm2 vs 19.61[IQR、19.22-20.66]mm/mm2;P=0.004)、PPV(12.31%[IQR、11.46%-15.59%] vs 18.10%[IQR、17.67%-19.70%]P=0.004)などが低くなっており、有意に微小循環が障害されていました。血管径分布は毛細血管の著しい稀薄化とともに変化しました。
微小循環パラメータの障害は、たとえ炎症が続いていなくても、追跡期間中持続しました。これらの所見は、年齢、肥満度、性別などの既知の交絡因子を調整しても有意でした。さらに、AIはMIS-Cで有意に増加しましたが、追跡調査中のみでした(中央値、-7.05[IQR、-15.72~0.54] vs -18.01[IQR、-30.46~-10.03];P = 0.009)。サブ解析では、疾患の重症度(心筋機能障害、集中治療の必要性、カテコールアミンの使用)や検査パラメータ(C反応性蛋白、フェリチン、白血球、フィブリノゲン)と微小循環の持続的変化との関連はみられませんでした。
この研究では、MIS-C患者において血管構造の再分布(すなわち、毛細血管の喪失と相対的な太い血管の増加)を伴う有意で持続的な微小血管障害を発見し、動脈硬化との長期的な関連を示唆しました。今回の所見は、MIS-Cの病因は急性炎症反応を超えて、おそらく内皮および血管系に対するSARS-CoV-2の独立した作用が関与している可能性を示唆しています。この考えを支持する微小血管の障害は、COVID-19から回復した小児で観察されています。この小規模の単一施設コホートにおいても、数ヵ月にわたって持続した有意な血管の変化は、MIS-Cが将来の心血管系合併症のリスク上昇に関連することを示している可能性があります。
この研究は、適切な医療と介入を行うために、急性期および追跡期間中にMIS-Cの血管への影響を理解することの重要性を強調しています。本研究の限界は、MIS-Cがまれであるために研究集団が少ないことである。

From “Immunity Debt” to “Immunity Theft”—How COVID-19 Might Be Tied to Recent Respiratory Disease Surges

*COVID-19がRSV感染症などの呼吸器疾患の最近の急増とどのように関連しているかについて論じたJAMAのMedical News & Perspectives記事です。
パンデミックが他の感染症の発生率に及ぼす可能性のある影響を説明するために、「免疫負債」と「免疫窃盗」という用語を用いています。
「免疫負債」とは、COVID-19対策で学校の閉鎖やマスク着用などを通じて、他の病原体の曝露機会が減少した結果として、集団免疫が低下し個人の免疫も低下した、と考える説です。
一方、「免疫窃盗」とはCOVID-19感染時にウイルス自体が免疫系を乱し、二次感染しやすくなった、という説です。しかしこれらの考え方に関しては、科学的な根拠が乏しいとの指摘もあるそうです。
専門家の中には、これらの用語が過剰解釈を招く可能性があると批判する意見もあるようです。COVID-19対策で他感染が一時的に抑制された影響はあるが、免疫の低下が必ずしも一因ではない、とする見解もあるそうです。
特に小児や新生児では、母親からの抗体依存が高く、RSV感染増加の一因に挙げられる一方、大人ではその影響は小さい、とする研究結果も紹介されています。
長期的な影響としては、COVID-19が免疫活性化を引き起こし、二次感染リスクを上げる可能性が指摘されていますが、そのメカニズムの詳細は不明な部分が多い、とのことです。

NEJM
The Risks of Normalizing Parental Vaccine Hesitancy

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2313742

*COVID-19の大流行により、親がワクチン接種をためらう傾向が米国で広まっているという誤解について取り上げたPerspective論文です。
この誤った説話を広めたネット上の誤報や反ワクチン活動家の影響に注目しています、ほとんどの親は子どもに推奨されるワクチン接種スケジュールを守り続けており、ワクチン接種のためらいを正常化することは不正確で有害な可能性があると主張されています。
小児科医でありワクチン接種の研究者である著者らは、ワクチン接種をためらう人が蔓延しているという誤解に異議を唱えるため、さまざまな情報源から得たデータを提示しました。ピュー・リサーチ・センターの世論調査を引用し、米国の成人の大多数が小児用ワクチンに信頼を寄せていることを示してました。彼ら自身の調査でも、ワクチンに対する保護者の受容度は高く、パンデミック中も変化はなかったと述べています。さらに、小児のワクチン接種率が高く、免除がわずかに増加していることを示すCDCの調査も参照しています。
著者らは、ワクチン接種をためらうのが米国の親の標準ではないことを強調し、RSウイルス(RSV)に対する新しいワクチンの需要が高いという逸話的証拠を示し、予防接種に対する親の熱意を示しています。ほとんどの親がワクチン接種をためらっているという考え方は、臨床医、政策立案者、親の健康関連の意思や行動に悪影響を及ぼしかねません。ワクチンへのアクセスを改善しようとする努力が損なわれ、疎外された地域社会が無防備なまま放置される可能性があります。
著者らは、臨床医がワクチン接種を勧める際、保護者の同意を前提にすることの重要性を強調しています。疎外されたコミュニティにおけるワクチン接種率の低さは、ワクチン接種を躊躇していることだけが原因であると考えないように注意を促しています。ワクチンへのアクセスを改善する努力は、広く躊躇しているという仮定によって妨げられるべきではありません。ほとんどの問い合わせは、小児の健康に対する純粋な関心から生じるものであるため、著者らは、共感と明確なコミュニケーションをもって保護者の質問に対応することを奨励しています。
著者らは、ワクチンへのためらいが健康上の脅威であることを認めつつも、ワクチンに対する信頼と信用を高めるよう呼びかけています。専門家、地域社会のリーダー、政策立案者、公衆衛生の専門家、そして保護者を巻き込んだ協力的な取り組みを提唱し、親がワクチン接種をためらうことを規範として広く受け入れることは逆効果であると主張し、むしろ、小児へのワクチン接種に対する親の自信を正常化することの重要性を強調しています。
2) 治療薬、 ワクチン関連       
国内     
海外     
治療薬      
3)診断・検査、サーベイランス関連
変異株     
Long COVID
国内     
コロナ派生型「JN.1」都内6割に拡大 感染力強く入院増 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC256C60V20C24A1000000/
   
海外       
4)対策関連
国内      
海外       

5)社会・経済関連  
「ヤブ医者」「金のため」コロナ禍に誹謗中傷投稿、発信者特定し賠償命令も…忽那賢志・阪大教授「泣き寝入りしたら後進も被害」 
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240203-OYT1T50095/
*「大阪府の新型コロナウイルス対策本部専門家会議で委員を務めた 忽那賢志・大阪大教授(感染制御学)は、SNSで中傷を受けた医師の一人だ。
 未知のウイルスに対する不安が広がっていた2020年4月頃から、典型的な症状や重症化リスク、後遺症などに関する情報をツイッター(現・X)で発信。「マスク着用による感染予防の最新エビデンス(証拠)」「避難所での感染対策」なども書き込んだ。
 「ヤブ医者」「こいつは死刑」。攻撃する匿名の投稿はすぐに目立つようになった。21年にワクチン接種が始まると、投稿数はさらに増え、内容もエスカレート。「金のために接種を煽るクズ野郎」とも中傷された。嫌な気持ちが募り、家族や同僚から心配されたが、正確な情報を伝えるため情報発信を続けた。」
  
コロナ集団感染「ダイヤモンド・プリンセス」、犠牲者悼み献花…元乗客「教訓としなければならない」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20240204-OYT1T50058/
*「同船では3700人余りの乗客乗員のうち、712人の感染が確認され、死者は10人以上に上った。この日の献花式は、国や運航会社に検証を求めて21年に結成された全国連絡会が主催し、元乗客3人も参加。「惨事を繰り返さない」と誓い、黙とうをささげた。
夫婦で乗船していたという男性(68)は「二度とこのようなことが起きないよう教訓としなければならない」と話した。」 

日医連、参院選に釜萢氏擁立 新型コロナ分科会メンバー 
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024013101046&g=cov


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