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あなたをスコアで、点数化します。

 コロナ禍で注目を集めていることがらの1つに、個人情報の活用がある。中国や韓国では携帯電話位置情報を行政府が把握。感染拡大の阻止に役立っていることから、注目を集めている。実は、教育現場でも個人のスコアリングが進展しているが、果たして良い結果をもたらすだろうか?

 中国や韓国では携帯電話位置情報や監視カメラを活用して、予防策として感染した人に接触した可能性のある人の特定、治療監視として自宅待機者の行動監視を行い、効果を上げていることが報道によって知られるようになった。滋賀県も、携帯位置情報をビッグデータとして扱い、人が集まらないように特定の場所にたいして警告を出すなど、非常に効果があるものとして捉えられているようだ。テクノロジーの活用と個人の権利の保護に関して、どう考えるべきか、議論の余地はあるが、やはり活用した方が社会全体としての利益は高いと考えるべきだろう。

 また、最近、個人の信用スコアリングという言葉をよく聞くようになった。中国ではアリババが芝麻信用(じーましんよう)というシステムを走らせており、預貯金データ、返済状況、カード決済情報などで個人を点数化、ホテルの予約金免除や賃貸敷金免除などの特典を受けられるようになっている。日本でもみずほグループやソフトバンクが共同運用してスコアリングサービスを提供している。

 しかし、意外と知られていないスコアリングに「ジャパンeポートフォリオ」がある。これはもともとは、高校生を入試結果だけで判断しないで、ボランティア活動や部活動、生徒会活動や地域活動などのデータを入力して、総合的に人物評価を行い、大学の合否判定で活用しようということで導入されたものだ。2019年の大学入試では、全国で69大学が既にこのシステムを活用して、合否判定に役立てている。と、ここだけ見ると、非常によい話である。

 そこで、まず、データの活用と管理運営という2つの側面から、ジャパンeポートフォリオの中身を見てみよう。

 ①データの活用について。実は、このデータは3社が連携活用出来るようになっている。中でも、Classi(クラッシー)は、ソフトバンクとベネッセが共同運用しているが、先生と親と生徒の連絡をはじめ、成績通知などのツールとして既に定着しており、私の娘や息子の通っていた都立高校では、ほぼ強制的に参加させられていた。リクルートは、高校生の頃からのデータを蓄積して、将来的には大学のデータも得たえうえで、就職での活用を睨んでいることだろう。

 次に、②データを収集管理する運営主体についてだが、これは教育情報管理機構が運営してたが、2019年10月からはベネッセがサイト運営委託を受けている。既にお気づきのとおり、データを収集する側にも、データを活用する側にもベネッセがいるのだ。ベネッセは、データの入口と出口の両方を押さえているのである。

 もちろん、教育現場をはじめ、業界の事情に精通したプロ集団に加わってもらうことは大切だと思う。しかし、全てを任せてよいのか、第三者機関のような監視する役割を負う存在がなくて大丈夫なのか、ちょっと心配になる。また、一度、データ化されて個人と結びつくことで起こる意図せざる失敗はないのだろうか。人生で失敗してやり直す時に障害になったり、他人のデータと間違って使われたり、データが何らかのミスで消えてしまって…など、思ってもみない事態は、思ってもみない形で発生するものである。

 特に個人データの場合、そこにはデータの絶対化と相対化の問題がある。例えば「遅刻1回」があったとしよう。絶対データでは単に遅刻1回である。しかし、それが通学途中の駅ホームで倒れた人がいて、その人を助けるためにあれこれ行動した結果として遅刻した場合、そこに相対化の問題が内在する。立派な人命救助だから加点評価するのか、救急車に同乗するなんてそこまでやる必要はないというところまでやった部分は減点評価するのか、遅刻が明らかになった早いタイミングで状況説明の連絡がちゃんと学校にあったから加点評価するのか…など、事象の評価には、データ入力者の主観がどうしても入るものなのだ。では、絶対評価だけにしようということになれば、上記のような生徒は、社会で評価されない人物という結果をもたらしてしまうだろう。

 データに基づいて分析してビジネスに活かす場合も、いくつか注意しなければならない点がたくさんあるが、特に教育に関するものは、その後の人生に大きく影響するデータへと変貌する可能性が高いだけに、少なくとも、現状について(どういう経緯でどういう状態になっており、現在のメリットとデメリットと問題点、将来展望)、もっとオープンにして、国民全体で議論を出来るようにするべきであると思う。

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