見出し画像

[フルオーダー]財布の制作記

過日、昨年末に開催した個展でオーダーをいただいていた財布が無事完成しました。

20年使った財布からの買い替えでオーダーをいただけたことは本当に嬉しく、また気が引き締まります。

20年もお使いなので全く違うものより手に馴染んだ使い心地を優先して、以前お使いだったものと同じ寸法で制作しました。
私が作ると全て革になりますので化繊生地が使われていた以前のものとはまた違う雰囲気になったと思います。

とにかく長くお使いになれるように考えられる限り工夫して制作しました。


〇ヘリ返し

ヘリ返し準備段階
ヘリ返して縫製したマチ

財布で最も動く部分はマチ。
マチは1枚で仕立てず2枚の革を貼り合わせました。
革の繊維は開く方向に伸びない向きで裁断しています。
全て切出小刀で極薄に手漉きしています。
少しでも厚さが残っていると不細工になるのですぐにわかります。

さらにマチの上部はヘリ返しをすることで強い繊維が3枚重なり、そこに縫製することで伸び止めにもなります。

ヘリ返しはカードスロットにも行っています。
裏地なしの1枚革のヘリ返しです。

〇金具の処理

伸び止めテープと革パッチ

国産挽物の真鍮ホックの取付は、伸び止めテープと革のパッチを挟む形で行いました。
ホック開閉時の引っ張る力をできるだけ分散させ、外装の革のダメージを減らします。

〇全体

全体:閉じ
ファスナーは国産最高級YKKエクセラ

・縫製について
いろいろ試した中で耐久性のあった国産の糸を使用しています。
糸の撚りを固定させるため高知県産の蜜蝋を糸につけ、150℃のコテで糸の撚りを強めながら浸透、固定させていきます。
蜜蝋が入ると糸の色合いが落ち着き、美しい艶のあるステッチになります。
縫製はフランスの馬具の縫製技法(La Couture Point Sellier)と全く同じ技法で縫っています。ミシン縫いと違い、切れてもほどけにくい耐久性の高い縫製です。
縫製に使用した目打ちは「いわたや 14本目」
14本目以上は職人さんが高齢のため制作できず、過去に制作したものを販売して頂いた大切な目打ちです。
1寸の間に14本の目が入るのでステッチの間隔は約2.3mmになります。(たぶん)
ステッチの色は内装の革の経年変化後の色に、特に合うカラーにしました。

・断面について
革の裁断面はヘリ返しを除いて高知県産の蜜蝋を300℃の温度で溶かし込み、磨いて仕上げています。
顔料などで断面を隠すこともできますが革の重なりの美しさが見えるように蜜蝋だけで仕上げています。


・少し特殊なマチについて

ファスナー部分の特殊なマチ
ファスナー部分の特殊なマチの型紙

あまり頭が柔らかくないので脳トレだ、と思いながら試行錯誤してすっきり落ち着くマチの形状ができました。
繋げずに別々で仕立てるほうが圧倒的に楽なのですがこちらの方が美しく、手仕事を感じられると思いこのようなマチにしてみました。
(側面からみるとU字に見えて綺麗です。)

・あとがき
ここ半年でたくさんの良い出会いと同時に学びの機会をいただき、
自分の仕事を整理し考えられたことで今までより高いレベルで仕事をすることができたと感じられました。

このたびはオーダーいただき本当にありがとうございました。
たっぷりお時間いただいたことで妥協なく制作することができて幸せでした。

制作を続けられるよう今後も日々精進してまいります。。


--------------

メンテナンスについて
1年間はメンテナンス不要です。
思い出したときに乾いた布で円を描くように拭いてあげてください。
1年経過後は革専用の汚れ落としでクリーニングし、
革にオイル(革用のクリーム)を入れてあげるなどメンテナンスをしていただけると長くお使いになれます。
ご自身でされるのが不安でしたら私が責任を持ってメンテナンスもいたしますのでお気軽にいつでもお申し付けください。(無料)
作品の経年変化を確認できますし、大事にお使いなられていることがわかると制作の励みになりますのでご連絡いただけると幸いです。


修理について
長期使用を考えて設計、制作しておりますので、ほとんどの場合が修理可能
です。お気軽にご相談ください。(有償の場合あり)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?