2020-06-03の日記

くもり のち 晴れ。暑い。

少し前、街の小さな料理屋に入ったところ、常連と思われる一人の高齢のひとが他の客に絡んでいた。お酒も入っているようで、自分の親族の話とか、自分史だとか、いかに自分がケチではないかとか、お金をたくさん持っているだとか、そういう話を一方的に話していた。

宅配ピザのメニューを上から下までしっかり読み通すほうがよっぽど面白いくらいの内容だった。初めのうちはお客さんはなんとか相槌をうって話を聞いていたが、次第に「ウソを言わないでください」など強い言葉を言うようになり、不機嫌さも隠せなくなっていく。

おまけのデザートも断って早々にお客さんは立ち去った。去り際、その常連と思われる高齢の人に「いつもは何曜日に来られるんですか?」と聞いていた。高齢の人は自信満々に答えていたけれど、お客さんとしてはもちろんその曜日を避けて次に来店しようという意図だろう。

次は板前さんにクダを巻いていた。板前さんも投げやりな返答を繰り返す。常連だから強くは出れないのだろう。とにかく悲しい空間。

毎週来るらしいので、おそらくお金は生きるのには十分にあるのだろう。話としては地主のようでもあった。しかし、一人で毎週料理屋に行き、初対面の人にグチとも自慢話ともウソとも本当ともつかない言葉を話しかける。拒絶の言葉も何度も受け取ったに違いない。一人で老いることは人をこのように作り変えるのだろうか。それとも一人で老いることはあまりにも強さを求めるのだろうか。強さを求められ続けた人間はいずれ……

たくさんの人の老後の姿をその人に幻視した。もちろん自分にも重なって見えた。

その高齢の人は震えながらトイレに立った。僕もゆっくりと立ち上がり、会計をして夜の街に出ていった。大通りには車が次々と通り過ぎていく。どの車にも人が乗っていないような気がした。

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