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死にたい理由

登場人物

稲葉聖人いなばまさと♂:高校2年生。自称、人の心が読める。
伊東みゆいとうみゆ♀:高校2年生。学校の屋上から飛び降りようとしている。

備考

  • ()で囲われた部分は読まない想定です。演者様各々の登場人物の演技の参考にお使いください。

  • 「…」の部分はおまかせしますが、出来れば無言が良いです。無言の場合は、稲葉役の方が間を図っていただければと存じます。

本編

稲葉聖人「そんなところで立ってると危ないよー」

伊東みゆ「…好きで立ってるだけだから邪魔しないで。」

稲葉聖人「ふーん…」

(伊東の隣に立ち、伊東と同じように屋上の真下を見る稲葉)

稲葉聖人「学校の屋上って結構高いね。サッカーしてるやつが虫みたいだ。」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「君はこうやって下を見るのが好きなの?」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「…なんか怖いや」

(顔をあげる稲葉)

稲葉聖人「ねえ、君が何しようとしてたか、当てようか?」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「ここから飛ぼうとしてたでしょ。」

伊東みゆ「…だから何?あんたに関係あるの?」

稲葉聖人「別に。ただ、なにするか当てたかっただけ。」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「君、3組の伊東さんだよね?中学校一緒だったの知ってる?」

伊東みゆ「…誰?あんた。」

稲葉聖人「知らないよなぁ。クラス一緒にならなかったし…
僕、稲葉聖人。」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「ここの屋上の鍵が壊れてるの、僕以外に知ってる人が居るとは思わなかったよ。たまにここでサンドイッチ食べてるんだ。」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「あるお昼休みに図書館に行こうと思って、3階に向かってたんだけど、その日はなんとなく屋上が気になったんだ。んで、扉を開けてみたら、普通に開いたんだよね。そこから、晴れてる日とかたまに、そこのコンビニでサンドイッチ買って、友達に「図書館行ってくる」って言って、ここで1人で食べるんだ。」

(話しながら、学校近くのコンビニを指差す稲葉)

稲葉聖人「毎回、一通り並んでるサンドイッチを眺めて、何買うか考えるんだけど、結局いつもツナサンドなんだよね。」

(ツナサンドをポケットから取り出す稲葉)

稲葉聖人「食べる?ツナサンド。一切れあげるよ。」

伊東みゆ「…いらない。」

稲葉聖人「…本当はお腹へってるよね」

伊東みゆ「勝手に決めないで!」

稲葉聖人「…ごめん。。」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「今から言う話、嘘だと思って聞いて。」

伊東みゆ「…」

稲葉聖人「僕、人の心が読めるんだ。」

稲葉聖人「僕が屋上に上がってきたとき、君、本当は凄くびっくりしてたよね。でも全然僕の方に振り返らなかったから、僕のほうがちょっとびっくりしちゃった。
それで君は、僕がこっちに来る前に飛んじゃおうとしたけど、やっぱり怖くて出来なかった。
んで、僕が隣に来て、くだらない話をしてるうちに、お腹が減ったことに気づいた。」

伊東みゆ「…なんなの?あんた。私が飛び降りるのを止めたいの?」

稲葉聖人「別に?なんで飛びたいのか知りたいだけ。」

伊東みゆ「私の心読めば分かるでしょ。」

稲葉聖人「実はそんなに便利に出来てないんだ。僕が読めるのは、咄嗟に出る表面的な感情だけ。」

伊東みゆ「…あっそ。」

稲葉聖人「でも、これだけでも結構便利だよ。嘘ついてるかどうかは分かるし、誰かが忘れ物したりすると、何を忘れたかすぐ分かるんだ。たまに何も聞かずに困ってる子に教科書とか貸して、びっくりされるよ。

はぁ…みんな嘘つきばっかりだよ。特進クラスの担任の山本先生は、優しく接してるように見えて、僕のこと虫と同じ位だと思ってるし、体育の関根なんてやばいよ。睨みつけてると思ったら、たまに女の子のことエッチな目でみてるんだ。気をつけた方がいいよ。
でも、数学の石本先生は、僕のこと空気みたいにしか思ってなくて…あの先生好きだな。だって、みんな平等に空気だと思ってるもん。」

伊東みゆ「…もう付き合ってられないんだけど。出てってくんない?」

稲葉聖人「なんでー。ちょっと面白いなって思ったくせに。」

伊東みゆ「うるさい!もう出てって!」

稲葉聖人「えー……じゃあ、君がなんで飛ぼうとしてるかわかったら、出てくよ。」

(仕方なく答える伊東)

伊東みゆ「……男と付き合ってたけど別れたから…もう良いでしょ。出てって。」

稲葉聖人「ちょっと待ってよ。もう少し質問させて。」

伊東みゆ「約束と違うじゃない!」

(食い気味に)
稲葉聖人「なんで別れたの??」

伊東みゆ「…」

(伊東は、稲葉の興味津々という表情に負けて口を開いた)

伊東みゆ「…浮気されたから」

稲葉聖人「なんで浮気されたの?」

伊東みゆ「知らないわよ!」

稲葉聖人「ごめん。。」

伊東みゆ「…付き合って最初のうちは、インスタとかラインで連絡取り合ってたけど、段々向こうの態度が素っ気なくなって、でも、なんで素っ気なくなったのか原因が分からなくて、向こうのスマホを勝手に見たの。そしたら、ぜんぜん違う女とやり取りしてるのがわかって…それで…別れた。」

稲葉聖人「…そうなんだ。」

伊東みゆ「もう良いでしょ。出てって。」

稲葉聖人「でもさ、なんかちょっと変な気がする。」

伊東みゆ「何が変なのよ。」

稲葉聖人「だって、浮気したやつなんだから、もっとそいつをコテンパンにしちゃえばいいのにさ…なんで、君は飛び降りたいの?」

(伊東は、稲葉のこの質問にすぐ答えられるほど、感情の整理ができていないことに気づいた。そして、伊東は少し考えて、こう答えた。)

伊東みゆ「彼のこと…忘れたくないし、忘れてほしくなかったから。…忘れられるくらいなら、死んだほうがマシだと思ったから。」

稲葉聖人「…そっか。教えてくれてありがと。じゃあね。」


伊東みゆ「そう言って、稲葉はそそくさと屋上から出ていった。
"忘れたくないし、忘れてほしくなかったから。"
…死にたい理由を言葉にした途端、少しスッキリした気分になって、今日は飛び降りるのを辞めた。
教室に戻って自分の机を見ると、包みが開いてひと切れだけになった、ツナサンドが置いてあった。」

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