小田原なりわい文化の現状      ~まちづくりの現場から

●なりわいとまち歩きをテーマに
 2022年(令和4年)6月27日・28日の2日間にわたり「全国産業観光フォーラムin小田原」が(一社)小田原観光協会、全国産業観光推進協議会、(公社)日本観光振興協会の主催で開催された。
 私は1日目のパネルディスカッション「テーマ:小田原のなりわい文化とまち歩き観光を考える」のパネリストとして、2日目のワークショップではまち歩きガイドで参加した。 
 産業観光フォーラムで「なりわいとまち歩き」をテーマにしたのは始めてのことだそうだ。パネルディスカッションの冒頭、2001年(平成13年)に小田原市政策総合研究所でまとめた紀要で「なり」を「実り」、「わい」を「這う」という意味に解釈し、自然の恵みを加工して、流通に乗せ広げていく一連の流れを表す言葉が「ひらがな」の「なりわい」と説明した。現在、小田原ではごく当たり前に「なりわい」という言葉が使われている。
 海からの魚を加工した蒲鉾や干物などの「海なりわい」、山の木を加工した木製品や寄木細工、漆器などの「山なりわい」、温暖な気候と富士山の火山灰による水捌けの良い土壌に恵まれた柑橘類や梅干しなどの「里なりわい」とそれぞれ説明、全国規模の集まりで「小田原のなりわい」を紹介することができとても嬉しかった。
 小田原は、戦国時代の後北条氏の「城下町」として発展し、また江戸時代には東海道屈指の「宿場町」として栄えた。明治期になると、政財界人や文化人たちの「別荘・居住地」としても愛されてきた。相模湾に面した土地は温暖な気候で知られ、海の幸、山の幸にも恵まれています。 

●なりわい文化と小田原のまち
 私は2000年(平成12年)に設立された小田原市政策総合研究所の市民研究員に応募し、 研究のテーマ「交流の舞台・旧東海道周辺のまちづくり」を2年間の研究ののち「おだわら千年蔵構想」というまちづくり提案にまとめた。
 1601年東海道に宿駅伝馬制度が制定され、小田原宿には多くの人々が頻繁に行き交い、ものづくりが生まれ、交流が盛んになり、文化が育まれた。かつて「交流の舞台」だった旧東海道周辺のまちの再生に向けて、調査研究を行い、問題点と処方を整理し、まちづくり提案を行った。
 旧東海道沿いのエリアをまち歩きをしながら、街の景観や公共施設の使い方、時には商店のバックヤードまで入れてもらい、ものづくりへのこだわりや歴史を教えてもらった。その結果、かまぼこ、梅干し、漬物、和菓子、干物、塩辛、寄木細工、石工、薬、鰹節、小田原用水等々、小田原には無数の地域資源があり、それらは多様なストーリーで結びついていることを知った。
 「海のなりわい」の代表的な鰹節の「籠常商店」では、かつて海で獲れたカツオを浜から建物の中に入れ、それを捌き、燻し、カビ付けをして乾燥させて店頭で販売する一連の作業が一つ建物内で行われていた。残念ながら昭和40年代に水質汚濁防止法のため、現在の場所ではカビ付けと削る作業のみを行っているが、店頭では今でも鰹節の量り売りをしている。バックヤードの説明により店舗の価値や魅力を知ったことはまさに「目からうろこ」でした。
 かまぼこや和菓子、寄木細工など地場産業といわれている店舗にもそれぞれ素敵なストーリーがあり、小田原市では「なりわい」の店舗の店頭に歴史や生産方法などを展示した「街かど博物館」という優れた制度により紹介している。
 残念ながら後継者がいないなどの理由により「和菓子伝統館」、「塩から伝統館」、「木象嵌ギャラリー」、「工芸菓子展示館」が廃業した。また、手づくり豆腐やがんもどきが人気だった板橋の「とうふ工房・下田豆腐店」も後継者がなく惜しまれて廃業したが、出し桁造りの店舗がリノベーションされて今はお洒落な「TEA FACTORY」になっている。
 
 2001(平成13)年かつて「漁網」を販売していた出桁造りの角吉(井上商店)を「なりわい」を情報発信する施設として行政により「小田原宿なりわい交流館」が開館し、無料休憩所として旧東海道小田原宿の観光情報や無料のお茶サービスが民間団体によって運営されている。
 この建物の近くには昭和40年代まで旧小田原魚市場があり、「海のなりわい」を象徴するシンボル的な交流拠点になっている。

●新たななりわいの誕生
 2018年(平成30年)旧東海道「箱根八里」が日本遺産に認定された。
 旧東海道に面した「小田原宿なりわい交流館」周辺は通称「かまぼこ通り」と呼ばれている。8年程前からかまぼこ屋の若旦那衆を中心に周辺の自治会も含めた「かまぼこ通り活性化協議会が立ち上がり、宿場祭りの開催や建物の木質化、お祭りの山車小屋のシャッターを中が見えるようにガラス張りに改修し、松原神社の神輿小屋も同じように中が見えるよう改修されまち歩きの立ち寄りポイントになっている。
 また、空き家空き店舗対策も行い、2年前に使われていない古い倉庫を改装してジェラード店もオープンして賑わっている。御幸の浜交差点近くの空き店舗では早瀬干物店の若旦那が焼きたての干物を提供する「himono stand hayase」を開店させ評判になっている。

 2004(平成16)年4月に小田原市政策総合研究所の市民研究員や講師の先生方とNPO法人小田原まちづくり応援団を立ち上げ、約15年活動したのち当応援団を離れて2018(平成30)年7月に小田原まちセッションズを立ち上げた。小田原まちセッションズは旧小田原魚市場があったかまぼこ通りの空き家を改装したケントスコーヒーを拠点に「まち歩きの企画・運営」や周辺の店舗が集まり年4回春と秋に「かまぼこ通りの小さな軒先市」を開催している。
 また、昭和40年代海岸線にできた西湘バイパスにより生活の場と海とが分断されてしまったので、海岸への親しみを取り戻すため4か月ごとに海岸清掃やシーグラスを探すビーチクリーンイベントを開催している。
 
 その他、 市内から日本酒の酒蔵が無くなって久しいが、2021年小田原市鬼柳の冷蔵倉庫内に(株)RiceWine(ライスワイン)/森山酒造が神奈川県内14番目の酒蔵を誕生させ、日本酒シリーズ「HINEMOS(ヒネモス)」を主にインターネット等で販売している。。
 HINEMOSは「時間に寄り添う日本酒」をコンセプトに、銘柄には「SHICHIJI」や「NIJI」など、日本語の時間が名づけられている。現在、8銘柄が展開され人気になっている。経営者は30代の若者です!
 前小田原市長の加藤憲一氏の声掛けで多くの市民も参加して、早川一夜城近くの元みかん畑だった場所でブドウを栽培してワインを作るプロジェクトが2年前に始まり、今年収穫されたブドウではじめてワインを完成させた。今後少しづつ栽培地を広げてワイナリーをつくる構想があります。
 2012年(平成24年)NPO法人小田原まちづくり応援団が邸園交流館清閑亭を運営しているとき、国交省関東運輸局の「観光コンサルティング事業」を受け、地域資源を編集してまち歩きに活かす方策を学びました。まち歩きの先進地長崎(長崎さるく)へも視察に行きました。
 多様な地域資源をテーマごとに編集し、モデルコースとして主に「邸園を歩くコース」と「なりわいを歩くコース」を設定し旅行会社などと提携しながら多くに皆さんに小田原の街を歩いてもらっている。
 
●まち歩きフォーラムの開催
 2019年(平成31年)3月、それまでのまち歩き活動の成果として「日本まち歩きフォーラムin小田原」を開催。長崎や弘前、北九州、仙台など国内まち歩きガイドや関係者など150名近くが集結。進化するまち歩きをテーマに各地の事例発表や分科会、エクスカーションではいくつかのまち歩きコースを案内した。
 このフォーラムを開催するにあたり、主催する実行委員会を小田原市観光協会や商工会議所、まちづくり団体、行政も入れて10団体で発足。
 フォーラム終了後も実行委員会は継続させて各団体が主催するまち歩きツアーを「まちあるき博覧会」として冊子にまとめて春と秋に実施した。
その後、新型コロナウイルス蔓延のためまち歩きを実施するのが難しくなり、オンラインを使ったまち歩きも試みてみた。
 2022年(令和4年)10月、コロナ渦によりまち歩きが難しくなった施設に入ってる高齢者や外出が難しい人たちにもまち歩きを楽しんでもられるようなを実証実験を行い,~誰もが楽しめるまち歩き~をテーマに再び「日本まち歩きフォーラムin小田原」を開催。かつてのトーキー映画のごとく画面に映像を流しながらリアルにガイドが説明をする手法や福祉の現場で使われている分身ロボット「Urihime(オリヒメ)を活用したまち歩き、車椅子でのまち歩き体験などを発表し、翌日のエクスカーションでは参加者の皆さんにも実際に体験してもらった。
 小田原のまち歩きもこれらの活動により知られるようになり、小田原ガイド協会やまちづくり応援団のような団体だけでなく、個人として街を案内する人も出てきている。 コロナ渦小田原への移住を検討している人に「お試し移住」があり、その際、宿泊は市内のゲストハウスを使い、そのゲストハウスの主人が街を案内するガイドを行っている。また、Uターンした人が友人たちを集めて街をガイドするツアーなどを実施する若者もおり、いずれもまち歩きを体験してその情報を元にガイドをしている。
 
●小田原の新しい風
 このところの約10年で小田原の街は大きく変化した。かつて小田原駅の貨物ヤードであった場所に市民活動をサポートする公共施設の「市民交流センターUMECO」でき市民団体が活発に活動している。
 2020年12月には再開発事業として複合商業施設「ミナカ小田原」が開業した。小田原駅と直結し、ホテルを併設した14階建てのタワー棟と4階建ての商業施設「小田原新城下町」で構成され小田原の新名所になっている。
 タワー棟の14階には足湯もあり、ここからは小田原の街が一望でき、小田原城や箱根山、相模湾が良く見えてまち歩きの新たなスポットにもなっている。
 また、新たなまち歩きスポットしては小田原城の入口馬出門前に誕生した市民ホール「三の丸ホール」に併設された「観光交流センター」、館内は観光案内、「寄木コースター」や「小田原ちょうちん」づくりの体験コーナーや電動自転車のレンタサイクルの貸し出しも行っている。
 コロナ渦によって小田原に移住される人も増え、新たにビジネスを展開する人も出てきた。2022年9月にはそのような人たちの出会いやビジネスの相談窓口として「ARUYO ODAWARA」が開設され小田原の街に新しい風を吹かせている。

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