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矢沢永吉ディスクレビュー パート3 ワーナー・パイオニア編 (1)

 長者番付一位、レコード売り上げ、ライブ動員ともに黄金期に突入しロックスターとして日本国内での存在感は誰にも負けないほどに。海外での活躍を求め、BIGからGREATになるためにアメリカ西海岸ロスアンジェルスに活動拠点を移し、太平洋を股にかける活躍を果たした80年代ワーナー・パイオニア時代の永ちゃんのディスクレビューを2回に分けて掲載したいと思います。

ワーナー・パイオニア編 (1)


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THIS IS A SONG FOR COCA-COLA 1980年3月10日
A.THIS IS A SONG FOR COCA-COLA
B.RUN & RUN

 80年代の永ちゃんは、アルバム未収録のコカ・コーラのCMソングから始まります。スカッと爽やかなコカ・コーラのイメージからバレアリック感のある爽やかなサウンドと沈む夕日を感じる切ないメロディが西海岸で爽やかに飲む清涼飲料の様な楽曲です。同年の日本武道館公演で、「日本の放送業界から締め出し食って、けっこう悪名高いシビレる曲」と発言していますが、サビに商品名が入っているためスポンサーなどの関係から放送できる番組が少なかったとの。

B面は初のドキュメンタリー映画の表題曲で、キャロル時代のミスター・ギブソンに通じるR&Rチューン。ちなみにこのRUN&RUNを配給した富士映画は、The Whoの「さらば青春の光」を配給。

 ちなみにジャケットは、初版ではAがないデザインミスのものが存在しており、中古盤屋等で殆ど同じ値段で注目されることなく出回っております。


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KAVACH 1980年6月10日
A面
1.テレフォン
2.涙のラブレター
3.レイニー・ウェイ
4.夕立ち
5.Good by
B面
1.Hey Diana
2.絹のドレス
3.Rolling Night
4.So Long

 海外でのリリースや印税率の高さ等の理由でCBSからワーナー・パイオニアに移籍した永ちゃん。移籍第一弾「KAVACH」は広島弁の「文句、屁理屈、能書き」を意味する「かばち」から。

 音楽的には前作の延長だがよりシャープな印象を持つサウンドメイクとシンプルさはエンジニアに吉野金次が復帰しているのと、移籍による心機一転が表れていると思います。ハードな「テレフォン」シングルカットされイントロのギターと永ちゃんのど頭勢いのある歌声が心を揺さぶる「涙のラブレター」でリスナーの心を掴みます。

 他の人の演奏ではニュアンスが演奏しきれないとキャロル以来、ベースを録音した「レイニー・ウェイ」は、重くダークなブルージーな曲で、かつ大きくミックスされたベースがよりヘヴィに聴こえますが、ダンボールを叩いたというパーカッションとリズムを刻むアコースティックギター(こちらも永ちゃんが演奏!)が軽快で、重厚なブラスセクションは華を添えます。

 トレモロの効いたエレピ印象的な「夕立ち」は、バレアリック系永ちゃんソングを匂わせますが、それまでよりもブルースロック風味となっています。また西岡恭蔵の歌詞、シンセサイザーの使いかたが「時間よ止まれ」を思わせる瞬間もありますがよりダークな楽曲となっています。続くA面最後「Good by」もブルース感の強い曲です、ひたすら泥臭く鳴り続ける木原敏雄と相沢行夫のギタープレーが聴きどころとなっています。

 盤をひっくり返しB面を再生するとキャロル時代を思わせる楽器構成や響きがシンプルな「Hey Diana」で始まります。アルバム全編とおしての印象でもありますが、アコースティック・ギターの録れ音が大変美しくこの曲では右のチャンネルから聴こえるアコースティック・ギターの音と間奏のシンセサイザーがシンプルな曲に味を与えます。
バレアリック風味かつ歌謡曲的な空気を持ったバラード「絹のドレス」、ホンキートンクなピアノが曲を導く「Rolling Night」からアルバムのラストナンバー「So Long」は、この後アメリカへ向かう永ちゃんが旅立ちを歌うバラードの様に感じます。


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YAZAWA 1981年8月5日
A面
1.Don't Come Too Close
2.Dance The Night Away
3.Pretty Woman
4.Love That Was Lost
B面
1.Can't You See
2.Want You
3.Sugar Daddy
4.The Ride
5.Kokoro

 81年に入ると単身渡米しLAを生活拠点に、アサイラム・レコードと契約を結び、1年ぶりにリリースしたアルバムは、第1弾海外盤アルバムとして全世界で発売された。全米での売上げ枚数は約2,000枚であった。またジャケットでは、髪を下ろし自然な永ちゃんの写真も肩が抜けてリラックスして見え、ロゴも稲妻ロゴから、山本寛斎がデザインした筆ロゴが採用されています。プロデュースは、Doobie Brothersのボビー・ラカインドとLittle Featのポール・バレアが作詞と共に担当しており、西海岸サウンドドンズバなロックアルバムとなっている。録音スタジオは、かの有名なサンセット・サウンド・レコーダーズです。

 アルバム冒頭はボビー・ラカインドとポール・バレア作曲したキャッチーなポップなロックナンバーでアルバムの名刺がわりには問題ない作品である、2曲目から永ちゃん作曲のナンバーがならび、「DANCE THE NIGHT AWAY」「PRETTY WOMAN」で、安定の矢沢節と言えるメロディーを着替え、ジョン・マクフィー(クローバーのメンバーとしてエルヴィス・コステロの1stにも参加!)らLAのミュージシャンの作るサウンドとの融合に成功しています。正しく、この時代のAORてきな肌触りで、前作KAVACHまで続いた陰鬱さはここではあまり聴こえません。

 シングルになった、「Love That Was Lost」はLAで最初にレコーディングした作品す。イントロのムーディーなサックス、歌メロのメロディアスさは流石の永ちゃんです。バレアリック路線のメロウグルーヴが、LAで本場のミュージシャンと合体し最高の一曲になっています。

 B面冒頭は、パーカッシブなベースが印象的な「CAN'T YOU SEE」、ブラスとの絡みが心地よいR&B「Want You」は、永ちゃんのキャリアの中でもここまでR&Bに露骨に接近した最初のナンバーではないでしょうか? 2009年に親子共演がファンの中で話題になった「Sugar Daddy」はトロピカルなビートがTOTOを思い起こさせ、「The Ride」の様な重たいファンクナンバーもDJユースとして使えそうなビートとグルーヴです。アルバム最後は、ボビー・ラカインドとポール・バレア作曲の短いメロウファンク・インストとなっています。


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RISING SUN 1981年10月25日
A面
1.You
2.50% Dream
3.Hey Bobby
4.Yokohama Foggy Night
B面
1.Summer Rain
2.Shampoo
3.September Moon
4.Gambler

  全世界発売最初のアルバムながら、最高のミュージシャンと同時代の西海岸のロックミュージックに並ぶクオリティのレコードを作った永ちゃん。その勢いで前作のリリース2ヶ月後に発売された今作では、対照的にセルフプロデュース、矢沢ファミリーを中心に起用し、CBSソニー六本木スタジオで録音されたアルバムとなっています。
また日本人によるLAサウンドの再現を感じる作品となっており81年にリリースされたAOR色の強い名作寺尾聰の「Reflections」で素晴らしいギターを演奏している今剛と松原正樹が参加に永ちゃんの狙いが見てとれます。

 アルバム一曲目のハードなギターリフが印象的な「You」こそ矢沢永吉的なロックナンバーですが、続く「50% Dream」では、アメリカ仕込みかブラスが心地よく絡むR&Bナンバーとなっています。
複雑なギターリフにフュージョン的な要素をロックにインプットしファンクリズムと融合したと言える「Hey Bobby」ではEveのコーラスがより黒っぽさに拍車をかけます。

 バレアリック風味たっぷりのメロウナンバー「Yokohama Foggy Night」では、重たいリズムとアコースティックギターの清涼感を同居させると凝ったサウンドになっており、一歩間違えば歌謡曲すぎる歌ですがLA仕込みのアレンジメントが光り洗礼されたものに昇華しています。

 ヘヴィな印象をもつ「Summer Rain」、シンセベースと刻むエレピがメインで派手なギターが鳴らない「Shampoo」に、フュージョンジャズファンク的なグルーヴの良さを聴く事ができます。メロディは歌謡曲的なコブシがありますが、尖ったトラックメイキングが痺れます。

 「September Moon」における月夜の海辺感の素晴らしさ、リゾート感が心地よく歌の合いの手で演奏されるギターの色っぽさ、ちあき哲也のほろ苦い歌詞、大人のポップスと言うのはこういうものではないかと思います。柔らかいエレピのサウンドも優しく響きます。

 アルバム最後は、賑やかなブラスとパーカッション使いとベースのフレージングがラテンフレイバーを奏でる「Gambler」です。この様な曲でもBメロで切ないメロディが入るところが矢沢永吉たるところではないかと思います。


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P.M.9 1982年7月10日
A面
1.Without You
2.Rock Me Tonight
3.Ebb Tide
4.No No No
5.Lahaina
B面
1.Jealousy
2.Hold On Baby
3.Yes My Love
4.Nettaiya (熱帯夜)

 前作から9ヶ月ぶりのリリースとなった今作、セルフプロデュースでは初めての海外録音でサンセット・サウンド・レコーダーズでのセッションが録音されております。「YAZAWA」にも参加したDoobie BrothersやLittle Featのメンバーの参加に加えTOTOのスティーヴ・ルカサー、ジェフ・ポーカロが参加しています。作詞は全曲ちあき哲也が参加し都会的で色気のある大人の歌詞を提供しています。

 A面を再生し「Without You」「Rock Me Tonight」でこのアルバムがアメリカ西海岸の空気を含む明るくヌケの良いアルバムであることを証明するような爽快感とメロディを持っています。特に「Rock Me Tonight」でのハードロックフィーリングは子供にはできない余裕とリッチさを感じます。Little Featにも参加していたフレッド・タケットのリズムギターが素晴らしいR&B「EBB TIDE」、ダークに迫る「No No No」、シングルカットされたバレアリックな「Lahaina」とP.M9がファンの間で長くフェイバリットとされている勢いがA面で堪能できます。

 B面冒頭は、ディストーションが効きつつファンキーなギターリフが印象的な「Jealousy」です、分厚いサウンドと永ちゃんの激しい歌声が非常にマッチしていて楽しい楽しい一曲です。ピアノ主導、パーカッション使いにラテンを感じつつ、LAの夜の街を歩きたくなる様なビートがたまらない「Hold On Baby」、どう考えてもこのアルバムのベストトラックというか永ちゃんのキャリアの中でも最高の一曲とも言える「Yes My Love」がこのアルバムに収録されています。
これでもかとシンプルなイントロのギター、歌の後ろでのギターフレーズ、メロディ、歌唱が素晴らしいバランスで組み合わさっています。

 アルバム最後「Nettaiya (熱帯夜)」では久しぶりにホンキートンクなピアノが入るハードなブギーが聴けます。ジェフ・ポーカロのシャッフルドラムの素晴らしさも注目ですが、永ちゃんが自分がダメだと歌うのってなんでこんなに良いんでしょうね。


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It's Just Rock'n' Roll 1982年12月4日
A面
1.Rockin' My Heart
2.Hard To Take
3.Tryin' To Find My Way Home
4.Why Do You Lie
B面
1.Can Go
2.It's Just Rock 'N' Roll
3.Crying For You
4.Tell Me You Love Me
5.Why Did You Ever Go

 「P.M9」でTOTOやDoobie Brothersと同じ水準の作品が作れることを証明した矢沢が世界市場に向けリリースしたアルバム第2弾です。前作とほぼ同時期に制作されており、5ヶ月ぶりにリリースされました。
プロデュースは、Doobie Brothersのボビー・ラカインドとジョン・マクフィーで、このアルバムリリース後Doobie Brothersは永ちゃんと来日し武道館公演も行います。
アルバム自体はP.M9と同じ制作で生まれているために、サウンド面での違いはほとんどありませんが、当然海外盤のため全曲英語で歌われており、永ちゃん作曲よりも外部ライター作曲曲が多く海外挑戦のE.YAZAWAを楽しめるアルバムです。

 アルバム冒頭「Rockin' My Heart」は全米でシングル発売もされ、1983年2月19日付ビルボード誌「Top Single Picks」にて、推薦10曲にも選出されたナンバーで、ジョン・マクフィー作曲の軽快なアメリカンロックとなっています。なによりピュアに永ちゃんのを楽しめる、アメリカンロックサウンドにもキャラ負けしない永ちゃんの実力がたまらないです。ある程度シングルの注目があった時点で制作がプロモーションできていれば全米での永ちゃんの評価が違ったのでは?と思わせます。なお、81年のアサイラムとの契約はディストリビューション契約いわば、プロモーションなしリリースのみの契約となっており、ある種ワーナーに騙された永ちゃんはこの辺りから会社との距離感が変わってきます。
 
 ブラスアレンジがSTAX的ですが、曲におけるサビの展開などが王道のLAロックな「Hard To Take」はロッド・スチュワートにも曲提供をしているマーク・ジョーダン作品です。つづく「Tryin' To Find My Way Home」はDoobie Brothersのボビー・ラカインドとマーク・ジョーダン作品でギターがラウドなAOR作品です。「Miles & Miles」という歌詞が登場しますが、Doobie Brothersとの武道館公演ではここから「MILES & MILES」というタイトルが付けられています。

 「Rock Me Tonight」の英語詞バージョン「Why Do You Lie」ではP.M9のテイクよりもラウドさが抑えられ、サウンドの厚みもすっきりとした印象のテイクです。BlondieのCall Meでもギターをプレーしたリッチー・ジトのスライドギターにスワンプテイストを感じます。 

 B面「No No No」の英語詞バージョン「Can Go」はテンポが速くなり、ダークな印象の原曲よりもカラッとした8ビートロックに改作されています。80's LAスタイルR&Rの「It's Just Rock 'N' Roll」では、アメリカ的なノスタルジア香るナンバーです。ブラスやピアノの使い方はフィル・スペクター的なセンスを窺わせリッチなアレンジが最高です。作曲はこちらもボビー・ラカインドとマーク・ジョーダンが担当。ハードブルースロックな「Crying For You」はロッド・スチュワートのAtrantic Crossingにも参加しているベーシスト、ボブ・グラウブとロバート・ソリタなる人物の作曲作です。

楽しい雰囲気をもった「Hold On Baby」の英語詞バージョン「Tell Me You Love Me」はテンポも変わり、エレピのが軽快さも重たいハードロックサウンドに改作され、アルバム最後は、「Yes My Love」の英語詞バージョン「Why Did You Ever Go」ではテンポを落としてよりバラード色を濃くしたアレンジと変わりますが、印象的なギターパートはオミットされ、これがアメリカ市場向けのアレンジなのかもしれませんが、正直原曲の良さが消えた様にも聴こえます。


 以上、矢沢永吉ディスクレビューパート3 ワーナー・パイオニア編(1)でございました。2枚の海外盤を発売するも契約などのゴタゴタで現地で生活して音楽をクリエイトしていたにもかかわらず万全なバックアップを得る事ができずアメリカでの成功を掴む事ができなかったワーナー・パイオニア時代前半のレビューでした。
ワーナー・パイオニア編(2)では、海外への活躍を視野に入れつつ、AOR、シンセサイザーミュージックへの接近で最新のサウンドを自身に消化し傑作をリリースし続けた1980年代後半のアルバムをレビューしたいと思います。

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