今井雅子作「禁じられた金次郎」 ラップバトルバージョン

金次郎「すみません。誰かいますか?」
ジョン金「ヘイ!ニューカマー金次郎か?」
金次郎「あっ、あなたも金次郎」
ジョン金「ここにいるのは、みんな金次郎だ。アイアム、ジョン金次郎。ここのエブリバディからはジョン金と呼ばれている」
金次郎「ジョン金さん。ジョン万と呼ばれたジョン万次郎みたいですね」
ジョン金「エグザクトリー。ニューカマー金次郎、若いのによく勉強しているじゃないか。ウェルカムトゥ『金次郎パニッシュルーム』。あー、、、金次郎始末部屋にようこそ」
金次郎「し、始末部屋⁉︎ やっぱり、僕たち、始末されちゃうんですか」
ジョン金「まあそうビクビクするな。俺たちは何も悪いことをしていない。世の中ってもんは、すぐにハンドのひらを返しやがる。俺たちはそのとばっつぃ、、、とぅばっち、、おーすまない、、、言いにくい発音の日本語があって、、とぶぅぁ、、」
金次郎「とばっちり、ですか」
ジョン金「そうだ。『歩きスマホがデンジャーってことは、あれもデンジャーですよね?』『あれを認めてしまうと、歩きスマホも認めてしまうことになりますね』『あれのせいで事故が起きてしまっては困りますね』てなわけで、金次郎禁止令なんてものが出され、全国津々浦々の金次郎が撤去され、ここに集められた」
金次郎「はー。背中に薪を背負って、歩きながら本を読みふける姿が問題になってしまったんですね」
ジョン金「新入り、今、薪と言ったな?」
金次郎「はい」
ジョン金「ショーミーユアバック。」
金次郎「え?」
ジョン金「あー日本語で、、、背中にしょってるものを見せてみなクソボケ、」
金次郎「口悪いですね、、、」
ジョン金「ほう、やはり君は薪派だね」
金次郎「マキハって何ですか」
ジョン金「薪派と柴派の二大派閥があってな。ざっくり分けると、太いのが薪で、細いのが柴。柴のほうが手が込んでるから、柴派連中が幅をきかせているんだ」
金次郎「じゃあ僕、弱小派閥なんですね」
ジョン金「心配するな。俺も薪派だ。少数派だが、切れ者が揃っている。あそこで高級グルメ本を読み耽っているのが、すきやばし金次郎。股旅物の時代小説を一人語りしてるのが、木枯らし金次郎。人情話で泣かせているのが浅田金次郎。南極探検の冒険譚を涙ながらに語っているのが、タロウ金ジロウ、あそこでビートをスクラッチしてるのがDJ金次郎」
金次郎「いろんな金次郎さんがいらっしゃるんですね」
ジョン金「ああ、金次郎にも多様性のウェーブ、、、日本語でなんだったかなぁ ウェーブ、、ウェーブが押し寄せている?」
金次郎「、、あ、波が押し寄せている??」
ジョン金「オーッシット!もうちょっとで思い出せたのに!阿鼻叫喚の生き地獄やでしかし!」
金次郎「その日本語の方が難しくないですか、、、、あ、あそこでかたまっている金次郎さんたちは、変わってますね。背中に鹿を背負ってたり、本のかわりにお好み焼きを広げてたり」
ジョン金「あれは、ご当地金次郎だ。郷土色を出そうとして、金次郎色が薄まっちまった。いい形になってないのを本人たちも自覚していて、似た者同士でアンラッキーを慰めあっている」
金次郎「あちらの金次郎さんは、お行儀良く座って本を読んでいるのに、撤去されちゃったんですか」
ジョン金「あれは尻にベアーの皮を敷いたのがいけなかった。動物愛護団体から訴えられた」

金次郎「どこからでも攻撃されちゃうんですね」
ジョン金「もっと怖いのは男女同権ってやつだ」
金次郎「金次郎は男しかいませんからね」
ジョン金「ヘイボーイ名前も見た目も男だが、中身まで男だと、どうして言いきれる?」
金次郎「、、、どういうことですか」
ジョン金「今のはジェンダー事情に詳しいジェンダー金次郎、人呼んでジェン金の受け売りだ。ジェン金は、見た目は男だが心は女で、恋愛対象は女だ。世の中は男と女にクリーンに分かれるもんじゃないってことだな」
金次郎「なるほど」
ジョン金「ここからが問題だ。俺は、とんでもないことに気づいちまったんだ。ここにいる俺たち金次郎全員がノーボールだってことにな」
金次郎「ノーボールですか!?」
ジョン金「俺たち銅像には、タマがついてない。金次郎の名前にキンはついているが、生物学上は男じゃなかったってことだ」
金次郎「、、、、うわーほんとだ」
ジョン金「俺もここのエブリバディもアイデンティティークライシスに陥った。だが、辞書に詳しい、字引きん次郎が答えを出してくれた。最近の改訂で男の解釈が広がり、生殖機能が備わっていることが絶対条件ではナッシングになったらしい」
金次郎「何事も知識で解決できるんですね」
ジョン金「ザッツライト。例の疫病も俺たちの叡智を集めれば、収まるかもしれない。少なくとも、ここの連中の計算では、スリーデイズあればマスク2枚を全国津々浦々に配りきれることになっている」
金次郎「すごい。たった3日ですか!」
ジョン金「まあ狭苦しい所だが、ここにいると退屈はしない。知性と想像力があれば、どこまでもフリーダムだ。今は辛抱のときだが、いずれまた、俺たちの時代がやって来る」
金次郎「ありがとうございます。ジョン金さん。ここに放り込まれたときは、自分の存在意義を見失っていましたが、今は本を読んだときのように目の前の霧が晴れました」

石原「(駆け寄り)ジョン金の兄貴、ヤバイっすよぉ?」
ジョン金「どうした? 石原の金次郎?」
金次郎「金次郎なのにジーパン!」
石原「無線を傍聴してたら、金次郎の銅像を溶かして銅にするって物騒な計画が」
ジョン金「イッツハード!よし、金次郎、全員集合! 緊急対策会議だ!」

ラップ 

まずは石原の金二郎
特攻隊長が速攻で対処
膨大な知識でおもてなし
俺の言葉は裏 表無し
銃口むけられうたれて重症
負けん気見せて太陽に吼えろ
ノーディフェンスであげるオーディエンス
撃たれたところでなんじゃこりゃ

オーマイガービジネス英会話
バビロンにできないええ会話
誰にもわからん正解話
引き金引く単純明快さ

ジョン金次郎
敵は蜃気楼
臨機応変に
たてる金字塔
なにを信じとる
ミジンコにはわからんカルマに、
キッキングドアー

おいナニシテル
ニューカマー金次郎?
お前も、ラップで応戦するんだ

新人 ええ、、そんなこと言われても、、、

石原 いいから早くしろ、、、なんじゃこりゃー、、、

新入り 石原さん!よくも石原さんを!!よーし!


新人あんま舐めんじゃ無いさ
金次郎にまだ敵わないな
何もかもを禁止しようと
世論覆す日々行動

正義のフリしたネガティブキャンペーン
全部振り切り照らしきるアンセム

だめだ、、、僕の力じゃまだまだ足りない

だれかー!だれかーたすけて下さい

??? しょうがないわねー

あ、あなたは!?

わたし?わたしはジェンダー金次郎、、、
人呼んでジェン金よ?

あらあら知識が足りないようで
わたしがみんなに下げさすコウベ
薪はなくても火をくべた
今だけわたしは女を捨てた

このガキャー!なにさらしとんじゃワレ!
勝手に因縁つけて今度は溶かすやと!?
耳の奥まで中指突っ込んで奥歯カタカタ言わしたろかいワレェ!!
オラオラオラ!たまとったろかいワレェ

すごい!作業部隊の人たちが縮み上がっている!
ジェン金さんの戦い方見て思ったけど
今だけはノーボールでよかったなって思いますよ!!

こうしてジェン金の思わぬ大活躍により作業部隊vs金次郎軍団の戦いは金次郎軍団の勝利におわったのであった めでたしめでたし


ジョン金「いやー、エブリバディ、よく戦った。ナイスファイト。金次郎の団結力を見せつけたな。国が送り込んだ作業部隊を撃退してやったぞ」
金次郎「相手の戦法の裏をかくのはお手のものです。なにせ本を読んでますから!」
ジョン金「ザッツライト。古今東西の戦術書に戦記物語、占い、催眠術、人を動かす魔法の言葉、ビジネス英会話、お、も、て、な、しの作法。膨大な知識をウェポンに、あの手この手で作業部隊を味方につけた。あっぱれ。グッジョブ」
金次郎「薄暗かった金次郎始末部屋が、改修工事で御殿のような立派な建物になりましたね。耐震構造でデザインも秀逸。誇らしげに掲げられた『金次郎ミュージアム』の看板」
ジョン金「いつの間にやら『金次郎ファンクラブ』まで結成されているじゃないか。すっかり世論を味方につけちまった」
金次郎「なにせ本を読んでいますから。やっと僕たち金次郎の時代が来ましたね、ジョン金次郎先輩」
ジョン金「何寝ぼけたこと言ってんだニューカマー。俺たち金次郎には、冷暖房のついた御殿なんてものは必要ナッシング。雨にも負けず、風にも負けず、町に立って、本を開く。それが俺たち金次郎の使命なんだよ」
金次郎「そうでした。金次郎の本分を忘れて、浮かれてしまった自分が情けないです」
ジョン金「ニューカマー、あとワンステップだ。ここまで来たら、国もほうってはおけない。やはり金次郎を禁じたのは間違いだった。汚名返上、名誉挽回。そうなってこそ、やっと俺たちの時代を取り戻せる! 元いた場所に呼び戻してもらえるぞ!」
金次郎「そうですね! ジョン金次郎先輩!」ジェンダー「(駆け寄り)ジョン金ちゃん明日発売のブンシュンの、ゲラが手に入ったわよ」
ジョン金「ついに出たなブンシュン砲! センテンス・スプリング・バズーカ! さすが仕事が早いなジェンダー金次郎。見せてみろ。ほう、《このたびの金次郎騒動を受けて、政府と有識者会議は、金次郎の読書効果を確認。そこで緊急のお触れを出すことになった》とある」
ジェンダー「ジョン金ちゃんの言った通りね! 無罪放免、釈放、ノーボール最高」
金次郎「最後の関係ありますか?、、、でも、僕たち金次郎が金次郎でいられる日が、また戻って来るんですね! 街角で薪を背負って本を読む姿を、皆さんのお手本にしてもらえるんですね!」
ジョン金「あれ? おかしいな」
ジェンダー「どうしたのよ?」
ジョン金「《金次郎禁止令を撤回する》とは、お触れに書かれていないらしい」
ジェンダー「はい?」
金次郎「じゃあ一体なんて書かれてるんですか?」
ジョン金「《国民は、本を歩きながら読むように》」

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