クインシーの「BEAT IT」問題

(2009/6/29)


一個前の日記(墓場へと還っていったマイケル)で、「BEAT IT」について、僕は「鬼警部アイアンサイド」を例に、あんな弩級のスコアが書けるクインシーが何故、あのリフ一発アレンジに行き着いたのか、意味がワカンなかったと書いた訳だけれど、いや、それは発表当時のこと。若気の至りでございますよ、今にして思えば。

マーキュリー・レコードの社員プロデューサーだったクインシーの出世作として知られるのがレズリー・ゴアの「It's My Party」で、クインシーの本業というのは、そもそも、こういうポップスの現場監督だったのね。でも、ジャズへの夢は捨てられずみたいな人だった。ジャズで食っていくだけのパフォーマーとしての才がないことへのコンプレックスも強かったのではないかと。

そして、最も自由になれるのが映画音楽だということを見出して、その結果が例えば「鬼警部アイアンサイド」だったりする訳だけれど、ただ、レズリー・ゴアが音楽的に単純かというと、僕はそうは思わないのだった。この曲は凄いですよ。ポップスにはポップスの、3分間で世界を描き出すテクニックが必要な訳で、この曲にはそのすべてがあるってくらい。音楽的に見ても、実はコード進行が凄い。

凄いって言っても、お洒落なテンションとか、分数とかが使われた凄さではなくて、まったく逆に、ストレートなメジャーコードだけがだーっと続くんです。イントロは3コードのニューオルリンズR&B風。が、Aメロはメジャーコードだけを6個も使って出来ている。で、アッという間に二回、部分転調している。
マイナーコードは曲の一番最後にならないと出てこない。実はこんな曲、あんまり見たことないです(もっと凄いのにメジャーコード5つだけで、かつドミナントは使わないオーティス・レディング「ドック・オブ・ザ・ベイ」ってのがあるけど)。

曲書いたのはクインシーじゃないけれど、クインシーって人を使う天才。あと、ポップスにおいて、笑っちゃうようなシンプルさが人を惹きつけることをよく知ってるんでしょうね。そういう意味で、「It's My Party」のメジャー・コードの嵐と、「BEAT IT」のユニゾン・リフってのはちゃんと繋がってる。当時は何だ、コレ?と思ったけれど、あのリフに行き着いたクインシーってのも、実は凄いんだとその後、思うようになりました。だから、一個前の日記でも「行き着いた」と書いたのね。

あの曲で、エディ・ヴァン・ヘイレンとスティーヴ・ルカサーをいっぺんに使った采配のセンスも凄いなあ。ちなみに、リフはペンタトニックじゃなかったですね。間違えました。一音違います。

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