参考書のススメ

 橋下徹・元大阪府知事がまた炎上中である。発端になったのは、教育改革についての対談の中で発した次の発言だ。

「だって元素記号やサイン・コサイン・タンジェント、どこで使うの?使ったためしがない。勉強のできる人たちは"そういうのも教養だ"というが、今はインターネットで色々なことは調べられる」

 そりゃ炎上もしますわ、である。とりあえず俺の書いた「炭素文明論」と「世界史を変えた新素材」を100回くらい熟読しろと言いたいが、まあ送りつけたところでどうせ氏は読みもすまい。

 橋下氏は元素記号や三角関数を使う機会がないかもしれないが、これらを使いこなす人がいるおかげで、いろいろと便利なものが作られているのだという程度のことは想像しろと思う。将来の職業に応じて選択制にせよということも言っているが、まだ化学や数学の入り口にも立たない段階で、それがどういう学問か、どう役に立ってどう職業につながるか判定できるわけもない。

 ネットで調べればいいともおっしゃっているが、調べ物をするためにも基礎知識やリテラシーは不可欠だ。ネットで読みかじった基礎のない知識を振り回して痛い目を見ている人など、いくらでも見つかるというのに。

 教育については誰もがいろいろなことを言いたがるけれど、自分の子供のころの記憶を元に言いたいことを言っているだけの人も多い。だが、教育の現場も、我々のころとは大きく変わっているし、忘れてしまったことも多いのである。

 そう思うのはわけがある。最近、妻が何やら中学の参考書を買い揃え始めた。何でこんなもんを買ってきたのと聞いてみると、もうすぐ5歳になる娘から「あれは何」「これは何で」と聞かれる機会が多くなってきた、そういう時にてきぱきと適切に答えてあげられる親になりたいから、だという。なかなか見上げた心がけである。

 しかし今の中学参考書とはどんなもんなのだ、まあ今さらこの俺が学ぶことなどありはせんだろうがなフハハとか思いつつページをめくってみると、

いやー勉強になるねー!なめてました!

 社会など、日本史・世界史・公民・地理などのコンパクトに情報がまとまっていて、要点が把握しやすくなっている。ユーゴスラビアが7つもの国に分裂してたなんてのは全然知らなかったし、フランス革命の流れとその影響などもわかりやすく整理されていて、へーそうだったのとなった。歴史の専門書を読む前にざっとこうした本を眺めておくと、理解度も格段に上がると思う。

 国語の参考書では、議論の進め方なんかの他、マンガや広告の読み解き方なんて記述もある。世界の文学者の紹介文、慣用句や中国古典の故事成語の一覧なんかも大変役立つ。これで3000円台は激安と思える情報量だ。しょうもないビジネス書や自己啓発本なんかより、よほど読み応えがあるのである。

 ニセ科学に引っかかっている人を見て「こんなこと中学で習うじゃないか」とせせら笑う人がよくいるが、たぶんそんな人だって専門分野以外のことはすっかり忘れているのである。中学校で習う事柄を全て、人にきちんと解説できるレベルで身につけている人がいたとしたら、その人は大知識人と呼んで差し支えなかろうと思う。

 というわけで、教育論なんかを振り回したり、他人の知識レベルをあれこれ揶揄したりする前に、ひとつ中学の参考書を買ってきて眺めてみてはどうだろうか。きっと「うわちゃー知らんかった」ということばかりである。何より、大人になってから、自分のペースで好きなところから勉強ができるというのは、実に楽しいものです。

(追記)ちなみにうちで買ったのはこちらの旺文社参考書のシリーズです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?