小学校で習う漢字

 娘がそろそろ漢字に興味を示し始めたので、風呂場の壁に貼る漢字の表なんぞを買ってきた。眺めていると昔を思い出すし、いろいろと発見もある。たとえば、習う漢字の順序もやはり我々の頃とは多少変わっているようだ。そんなわけで、ちょっと学習漢字(小学校で習う漢字)について調べてみることにした。

 こちらのサイトによれば、学習漢字は1948年に制定され、当時は881字だった。1977年に、「域」「宇」「羽」「映」など115字が追加されて996字となったそうで、筆者はこの世代だ。さらに1989年、「激」「盛」「装」「松」など20字が追加、10字が削除されて1006字となった。

 2020年からは、県名に使われる「茨」「栃」「阜」など20字を小学4年で学ぶことになるので、合計は1026字になるという。「潟」「縄」などかなり難しい字も覚えねばならないから、今の子供は大変である。

 ということは当初から比べて、学習漢字にはトータルで155字が追加されたが、削除されたのは「歓」「称」「壱」「勧」「兼」「釈」「需」「是」「俗」「弐」のたった10文字ということになる。まあ「需」なんかは「需要」という単語以外にほとんど需要がないし、リストラやむなしかと思える。

 現在の学習漢字を見ていて、これは要るか?と思う字の筆頭は、小学2年で習う「汽」だろうか。今は汽船や汽車に乗ることもめったにないし、汽水湖なんて単語もそうは使わない。少なくとも小学2年で教える字じゃないだろと思える。

 もうひとつ、6年で習う「蚕」なんぞも疑問である。みなさんこの字を書いたことがおありだろうか。虫の名前で学習漢字に入っているのはこの字だけだ。少なくとも蝶や蛾、蛙などの字のほうが、蚕よりはよほど見かける機会が多い。

 この2字は、蒸気機関や養蚕業が社会の主役を演じていた時代の名残なのだろう。そういう意味では、小学6年で習う「尺」「寸」あたりもそろそろご退場いただいてもよいようにも思うが、いまだ踏みとどまっている。会社の人員と同じで、増やすことは簡単でも、減らすのは難しいのだろうか。

 筆者のころは小学6年で習った「丸」「羽」「弓」「矢」などは、小学2年で習うように変更されている。今どき弓矢で狩りをしている人などあまりいないだろうから、謎の昇格である。

 細かいことを言うと、「町」「村」が小学1年、「市」が小学2年、「県」「区」が小学3年というのも順序がおかしい気がする。平成の大合併を経て村の数は激減し、市に住む人口が圧倒的に増えた。使用頻度を考えれば、村はもうちょっと後回しにするか、県市区町村の漢字を2年生あたりでまとめて習うのでもよいと思える。

 一方、中学で習う漢字のリストを見ると、「押」「汗」「与」「吉」など、これは小学校では習ってもいいんじゃないのという字も多い。全般に、「怒」「汚」「恐」「影」などネガティブなイメージの漢字は、使用頻度のわりに習うのが後回しにされているように思える。「超」「爆」「巨」「鬼」のような激しいイメージを表す漢字は、昔よりも使用頻度が上がっていそうだが、これらも学習漢字には入っていない。

 言葉は生き物であり、漢字の意味合いや重要度もどんどん変わっていく。インターネットの時代になり、「索」「携」などは使用頻度が大きく上がったことだろう。「垢」(アカウント)「鯖」(サーバー)「泥」(アンドロイド)「厨」(迷惑な奴)「草」(笑う)など、新たな意味を持つようになった漢字もある。もちろんこれらは今のところネットスラングでしかないが、いずれ辞書に収録されるものも出てくるだろう。急速に変わってゆく社会や文化に合わせ、習う漢字ももう少しドラスティックに変化してもいいんではないかと思う。

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