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2019年の現代アートを回顧する――世界のアートはグローバルからローカルへと旋回した!(3)

4.アントロポセンの現代において最重要のテーマは、エコロジーだ!

ここから本番のローカル編に入るのだが、少し寄り道をする。
とはいえ取り上げられるのは、ローカルが必携すべきものとしてのエコロジーをテーマにしたビエンナーレである。
「関係性の美学」のニコラ・ブリオーが企画を担当した2019年のイスタンブール・ビエンナーレは、ローカルが存続するためにエコロジーが必要条件(自然破壊や環境汚染が軽度の場合でも、狭い面積のローカルの致命傷になることは大いにある)であることを、「The Seventh Continent」(つまりゴミの大陸)の表題の下、明確に指し示した(20)。

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出展された2作品(Feral Atlas Collective、Armin Linke)が、エコロジーをテーマとするビエンナーレの基底に据えられていた。
それらを紹介しよう。
以下の画像(21~30)は、Feral Atlas Collectiveのリサーチの結果(部分)である。

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Feral Atlasは、地球(自然)を資源とする人為的活動(生産、流通、消費)の産物(廃棄物)が、地球に吸収されず消去することができなくなったアントロポセンの時代に、その禍々しい影響が人間の能力を越えて解決不可能な事態に陥っていることを、詳細に調べ上げて警鐘を鳴らす。Feral Atlasは、この事実を伝達する作業を多数のコレクティブで実行している。
もう一人のArmin Linke(31)は、「Prospecting Ocean」(32)において海洋開発を探究課題とし、その開発にともなう様々な変化を科学的、法的に精査する。とくにイスタンブール・ビエンナーレでは、イスタンブールを囲む黒海、ボスポラス海峡、ビエンナーレ会場のあるプリンス諸島が浮かぶマルマラ海(33)の開発の歴史と、その生態系への影響に関して収集した資料展示(34~36)を行い、トルコ人に向けて環境問題に注意を喚起した。

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イスタンブール・ビエンナーレの付録として、イスタンブールの繁華街にあるアートセンター、Mesherで開催されたセラミックの展覧会「Beyond the Vessel」から、緑(エコロジー)の妖精たち(by Kim Simonsson、37)と、人類以後の荒涼とした世界を寓意的に表現した作品(By Vivian van Blerk、38)をアップする。

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5.シンプルにしてエコ=ローカルなビエンナーレ

さて、2019年に催されたビエンナーレでもっとも小規模な国際展といえば、ルーマニア西部の都市、ティミショアラのArt Encountersではなかろうか?
参加アーティストこそ63組と少なくないが、作品が市内に散在するので大規模には見えない。このビエンナーレを特徴づけるのは、キュレーターを務めたMaria Lind(39、右)とAnca Rujoiu(39、左)の集めた作品が非常にシンプルなこと。見栄えからすれば、それでよいのだろうかと不安を覚えるほどに。

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本文では、路面電車の元操車場を展示スペース(40、現在は博物館)にした会場を飾った作品を紹介する。

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シンプルの代表作が、この会場にある。気取ってミニマル(無駄を省くことが装飾的になる)ではない。できるだけシンプルかつダイレクトにコミュニケートすることで、その効果を最大にする。
エコロジー運動に取り組むアーティスト、Zephyrが、市内の空気をモニター(PM2.5の測定)している。植物のサンプルと活動を導く参考書籍とアーティストの目立たないメッセージ。ただ、それだけの素っ気ない展示(41)だ。

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また、布地にシンプルな刺繍やアップリケが施されている作品群(by Iulia Toma、42)。

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これが美しい。同じアーティストのルーマニアに移住した中東の人々へのインタヴューが、これまた美しい。
極めつけは、車庫の中央に垂らされたカラフルな糸の彫刻(by Bera Lune、43)。「柱」というタイトルだが、透けて見えていかにも頼りない。だが、それが微風になびく様は無上に美しい。それは、シンプルさの美学(ミニマリズムを超えてシンプル)のエッセンスだろう。

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それとは正反対に、物が溢れる展示もある。しかし、今はなきと言うべきか。建物の室内が、実現されなかった理想の世界へのノスタルジーに覆われている。ここは、共産主義の消費者のユートピア「Communist Consumer Museum」(44~46)である。展示作(Ahmet Ogut)といえば、そのなかに埋もれていました。

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