おぼっちゃま取締役②

次家正則の毎日は、一見すると華やかで充実したものに見えた。しかし、その背後には創業家一族ゆえの嫉妬と戦う苦悩が隠されていた。


ある朝、正則は会社のオフィスビルに到着すると、エレベーターの中で同僚たちのひそひそ話が聞こえてきた。


「やっぱり、次家さんは特別扱いだよね。あんなに早く役員になれるなんて、普通は考えられないよ。」


「叔父が創業者だからって、ずるいよな。俺たちがどれだけ頑張っても、所詮は無駄ってことか。」


エレベーターのドアが開くと、正則は心の中でため息をついた。彼の出世は確かに早かった。しかし、それが彼自身の実力だけでなく、叔父の影響力によるものだと考えられているのは痛感していた。彼はその評価が正当でないと感じつつも、周囲の視線を変えることはできなかった。


オフィスに入ると、秘書の山田が今日のスケジュールを手渡しながら小声で言った。「次家さん、部長たちが今朝も会議室で何か話し合っていたようです。内容はわかりませんが、少し気をつけた方がいいかもしれません。」


正則は頷き、感謝の言葉を告げた。山田の言葉が示すように、彼がいないところでの陰口や策略は日常茶飯事だった。特に部長クラスの中には、彼の急な昇進を快く思っていない者も多かった。


その日の午後、正則は重要な会議に出席するため会議室に向かった。入ると、すでに数人の部長たちが集まっており、彼の登場に一瞬の沈黙が訪れた。正則は無表情を保ちつつ席に着いた。


会議が進む中で、マーケティング部長の田中が鋭い口調で言った。「次家さん、次のプロジェクトについて具体的な計画を早急に出していただけますか?我々もその進捗に対する責任がありますので。」


その言葉には明らかに挑戦的なニュアンスが含まれていた。正則は一瞬ためらったが、すぐに冷静を取り戻し、資料を手に取った。「もちろんです、田中部長。こちらが計画の詳細です。皆さんの意見を伺いながら、さらに改善を進めていきたいと思います。」


会議が終わると、正則は一人で自分のオフィスに戻り、深い息をついた。彼の毎日は、こうした緊張とストレスの連続だった。創業家の一員としての重圧、それに伴う嫉妬や疑念、それらと戦いながらも、彼は企業の未来を見据えていた。


夜、自宅に帰ると、家族の笑顔が彼を迎えてくれた。妻と子供たちの温かさに触れることで、彼は一日の疲れを癒すことができた。彼は心の中で決意を新たにした。どんなに辛くても、叔父の築いたこの企業をさらに発展させるために、自分の全力を尽くすのだと。


正則は再び心を奮い立たせ、明日もまた戦いに挑む覚悟を決めた。嫉妬や困難に負けることなく、真のリーダーとして企業を導いていくために。

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