①おぼっちゃま取締役

次家正則は、自らの足音が廊下に反響するのを聞きながら、企業の役員会議室に向かっていた。彼は40代半ば、黒髪は完璧に整えられた短髪、スーツは一分の隙もない。次家正則は上場企業の役員としての地位を得ていたが、その出世の速さには彼自身も少しばかり戸惑っていた。

次家正則の叔父、次家正道はこの会社の創業者であり、企業の礎を築いた人物だ。正道は若い頃からの強い意思と情熱で、零細企業から一代で大企業に成長させた。彼の背中を見て育った正則は、その影響を大きく受けていた。

正則が会議室に入ると、すでにほとんどの役員が席についていた。彼の登場により、静かな緊張感が部屋を包む。皆が彼の一挙手一投足を見守っていた。彼は創業家の一員であり、急速な出世を遂げた人物として、周囲の期待と嫉妬が交錯する存在だったからだ。

「おはようございます。」正則は静かに挨拶し、自分の席に着いた。

会議が始まり、各部署の報告が進む中、正則は心の中で次の言葉を考えていた。彼がこの企業の未来をどう導くか、叔父の遺志をどう継いでいくか、それが彼の責任だった。

「次家役員、次のプロジェクトについてご意見をお聞かせいただけますか?」

会議のリーダーが正則に問いかけた。彼は少しの間を置いてから口を開いた。「新しいプロジェクトは、我々の技術力と市場のニーズをしっかりと捉えるものでなければなりません。私たちの強みを活かしつつ、リスク管理を徹底し、持続可能な成長を目指すべきです。」

正則の言葉には力強さと確信があった。会議室の空気が一瞬静まり返り、その後、賛同の声が上がった。彼の発言は、役員たちの信頼を少しずつ勝ち取るための一歩となった。

会議が終わり、役員たちがそれぞれの仕事に戻る中、正則は窓の外を見つめた。ビル群の向こうには青い空が広がっていた。叔父の築いた企業を引き継ぎ、さらに発展させるために、彼は今ここにいるのだ。

彼の出世が早かったのは事実だが、それは家族の力だけではなく、自らの努力と決意によるものでもあった。次家正則は、創業家一族の一員としての誇りと責任を胸に、企業の未来を見据え続けるのだった。

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