銭湯のモザイクタイル絵ができるまで(前半)
完成までの流れ/全体像
モザイクタイル絵が実際の銭湯空間に施工されるまで、大きく分けて3つの工程があります(下図STEP-1~3)。各ステップで担当する会社が異なるのですが、今回はこの中で「STEP-1」の工程について説明します。STEP-1は「デザイン原画の作成」になります。通常デザイン事務所がデザイン原画の製作を担当します。ただし昔はモザイクタイル絵専門のアレンジ職人さんがいて、デザイン事務所の代わりを担っていました。
ちなみに3年ほど前、残念ながらその最後の職人さんが亡くなってしまいました。その方の仕事は、独特の色表現の深さを感じるモザイクタイル絵でした。彼らはきちんとしたデザイン原画を作ることなく、写真やデッサンレベルの「元絵」を頼りにいきなりタイル色を割り付けます。色変換の感覚に優れ作業スピードを含めて特殊なスキルを磨いた人たちでした。ほぼ絶滅危惧される業種ですが、最近若い後継者が現れはじめたようです。
1:「元絵」をどうするか?
では原画作画の工程説明に入ります。まずはモザイクタイル絵のデザイン原画を作るための「元絵」をどうするかを考えます。もちろんこれは空間イメージやコンセプトに合うものでなければいけません。モチーフ内容をリクエストされることもありますが、基本的にモザイクタイル絵の「元絵」は今井事務所がイメージを提案して、オーナーさんのOKをもらうという流れが多いです。
今井事務所が元絵を提案する場合、日本画の名画を提案することが(今のところ)多いです。理由は個人的に日本画が好きということもありますが、加えて日本画は銭湯空間にとても合うと思うからです。私の思い込みでしょうか?日本人の心、空間感、美意識が滲み出る感じがしてイメージの中で銭湯空間にしっくりきます。また日本画は、銭湯とともに今の時代にunderrateされてないか?と思ったりもします。
2:モチーフをアレンジし「元絵」とする
モチーフを日本画とする場合の話ですが「元絵」やそのモチーフと実際のモザイクタイル絵とは結局のところ全く違うモノ=質感となります。素材の差、大きさの違い、限定された色数、キャンバスの縦横比が変わる、細い線画系描写は難しい、など様々な製作条件からコピーのようなものには成り得ません。
私としては「DJが過去の名曲をオマージュしてremixする」的な気分でデザインアレンジをイメージしています。リスペクトしながら素材を扱わせてもらう感じです。ただしremixは著作権問題が発生しないよう著作者の死後50年以上が経過した作品とします。この説明=町田市大蔵湯さんのケースでは横山大観作「朝陽霊峰」をモチーフとしました。アレンジの最大の課題はやはり色の変換です。
3:建築図面に「元絵」を配置する
↑ 元絵が決まったら、その絵を建築図面(内装展開図)にバランスを考えて配置します。日本画は構図が命です。画面の縦横比が変わるので慎重にレイアウトします。デザイン原稿のスケールは、1/10で作ることが多いです。100%でプリントするとモザイクタイルが約1mm角で出力される計算になります。
4:タイルの使用色を決める
元絵の色をどのように原画へとアレンジするかは、実際のタイルサンプルを見ながら考えます。色数が限られているので、自由度は低いです。使用するタイルの色を決めたら、その対応色をソフト上のカラーパレットに設定します。モザイクタイル絵用のタイルは何種類か販売されていますが、10ミリ角タイルが日本では最もメジャーです。このタイルはモザイクタイル絵用のタイルとしてピースそのものは既製品です。64色のカラーが作られています。
↑ 上の画像の上段が実際のモザイクタイルのカラーサンプルで、下の段がソフトのカラーパレット(イメージ)です。この例では使用色を12色に決めました。原画のマテリアル感=金箔色の深みをモザイクタイルでも表現したいという主旨から背景色の微妙なトーンの置き換えがポイントになりました。元絵より何倍も大きなバージョンとなるので下手をすると深みが無いベタッとしたイメージになってしまいます。
5:基本シート「300×300マス」→「ガイドタイル」の割り付け
設計図+元絵をデザイン祖首都に設定したら、基本シート=「300×300マス」を割り付けます。基本シートは実際にモザイクタイルが分割されて作られるひとつの単位で、実際にシート状に加工されます。この工程はstep-2となりますので次回説明しますが「300×300マス」については4つ下の画像を見ていただけるとわかりやすいと思います。300とは300ミリを意味しています。ひとつの四角が30センチになるということです。
↑ 基本シート=「300×300マス」の中には10ミリタイルが縦横24枚づつ574枚ものモザイクタイルが入ります。これをガイドタイルと呼び、基本シートの中に割り付けます。
↑ 「300×300マス」のアップ画像。白い部分が設定済み部分です。四角形の輪郭が見える部はまだ色指定していない部分を表しています(ガイドタイルが見えていて、その下に元絵が見える)
↑ 「300×300マス」の現物写真。これで実物をイメージできると思います。この工程は次回説明します。(この画像はイーストランドさんのモザイクタイル絵作成時の画像です)
6:タイルの色を指定する(ひたすらクリック、クリック…)
いよいよタイルの色を指定していきます。下の図は白っぽい色を二色指定した段階〜だんだんと指定した色が増えていく工程を画像で見ていきます。
↑ だいぶ色の指定ができてきました。
↑ タイル指定を全て終えた状態です。実際には微調整を繰り返しながら色指定していきます。職人になった気持ちでひたすらクリックし続けます。
7:デザイン原画完成(一面)。そして目地色を想定する。
タイル指定が終わったら、製作上で使用した余計な情報をレイヤー上で消して全体を確認します。下の図は指定タイルの色だけを表示しているので、目地部分が「白」で見えている感じです。この状態で最終調整を終え、もう一度製作上の情報を表示するとデザイン原画が完成します。
↓ デザイン原稿は完成しましたが、実際には目地が入るので目地色も決めておきます。このケースでは黄色にしました。通常タイル目地は白〜濃灰色のモノトーンを使いますが、モザイクタイル絵では時にカラー目地を使います。この状態は実際の現場での完成予想イメージ図です。
9:デザイン原画(色変換バージョン)をつくる
デザイン原稿を工場に送って製作をしてもらいます。送付資料はデザイン原画はもちろん、原画の色変換バージョンも必要となります。上の画像はかなり派手な色使いですが、これは職人さんの作業用の為に色変換した状態の画像です。オリジナル色のデザイン原稿では隣り合う色が微妙すぎてわかりにくいため、隣り合うタイル色の違いがはっきりわかるよう色変換するのです。もちろん変換対応表も同時に送ります。
10:ようやく step-1 完了
今回のケースでは、さらに別のデザイン原稿を作る必要があります。大蔵湯さんは銭湯空間4面にモザイクタイル絵を設定するデザインなので、メイン画面の他3面の壁についてもデザイン原画、そして色変換ver.の原画を作成しました。使用するモザイクタイルの総数は約45万枚。全ての面ができたら、ようやく大蔵湯モザイクタイル絵のデザイン原稿が全て完了します。実際ここまで本当に気の遠くなるような作業です。あとは職人さんたちの手に委ねます。
それでは後半(工場〜現場の工程)につづきます。
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↓ 最後に現場の完成状態だけ、ちらっと先見せ。モザイクタイル絵は銭湯空間の4面に施工されています。。。