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地獄よりも酷い仕打ちと卵黄の醤油漬け

全く、散々な一週間だった...

俺の担当の部署の前任者から仕事を引き継ぎ、今週から俺が正式に担当となった途端、まるでタイミングを見計らったかのように立て続けに前任者の不祥事が明るみに出て、その責任をこの俺が負うことになった。それは殆ど俺が関与していないものばかりで、要するに前任者のミスのとばっちりをこの俺が全て受けることになったのだ。
当の前任者は我関せずといった態度丸出しで、隠そうとも悪びれようとも反省しようともせず、「今週から担当はあなたなので、全ての責任はあなたにあります。」というようなことを俺に言い放ち、それだけでは飽きたらず、逃げ出すように一週間のバカンスに出掛けたのだ!!俺は今までこのレベルのトラブルメーカーはカートゥーンでしか見たことがなかったが、まさか現実に存在するとは思いもしなかった。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。俺は今までの人生で不幸な目には星の数ほど遭ってきたが、これほどまでに理不尽な目にあったのは初めてだった。

地獄の業火よりも酷い仕打ちだ。身に覚えのない罪の償いをさせられるのだからな。

流石の俺も堪忍袋の緒がプッツンと音をたてて切れ、「もう我慢できません。他人事みたいに指示するのはやめてください。なぜ私があなたの仕事のミスの尻拭いをしなければいけないのですか。来週から私は会社に行かないのであとはよろしくお願い致します。」と勢いに任せてメールを打ち、腹いせに近所の焼肉屋でしこたまやけ食いして、腹が一杯になったら冷静になって「来週から会社行かないは言いすぎました。」とメールを送り、荒んだ心と胃もたれを抱えて帰宅して、そのまま固いベッドに倒れこんで眠ったのだった。

最悪の気分で週末を迎えることとなった。来週からの身の振り方、片付ける仕事の量、周りからの目、それを考えると俺の気分はドッシリと重くなった。心が荒んでいても腹は減るが、料理をしようにも気分が優れないので、買い物に行く気にもならない。

だが、俺には先週から仕込んでおいたアレがある。

先週のポークコークの記事でも触れたが、俺にはプランがあった。それは卵黄の醤油漬けを作ることだ。ポークコークに添えた卵白入りのスープは、卵黄の醤油漬けを作るために卵黄と分けた白身を消費するためのものだったのだ。

卵黄の醤油漬けの作り方は簡単。卵黄を醤油につけるだけ。めんつゆでも出汁が効いていて美味いが、卵本来の風味を感じたいのであれば、醤油をおすすめする。

一週間近く漬けた卵黄は一回り小さくなっていたが、その美しい琥珀色の姿はさながら宝石のようだった。炊きたてのご飯にのせればその美しさはよりいっそう際立ち、俺の食欲を爆発的に刺激した。もう我慢できない。俺はかきこみたい欲求をすんでのところで押さえ込み、卵黄を箸で少し削り白米と共に口に運んだ。

ねっとりとした舌触りと凝縮された卵の旨味が口一杯に広がり、俺は危うく落涙しかけた。それは高級料亭で出るシンプルだが奥の深い逸品そのもの。今までなんとも思っていなかった幼馴染みの女の子が、久しぶりに会ったら見違えるような美人になり、自分は今まで彼女の本当の魅力には気づいていなかったんだと思い知らされた時のような恍惚と感動そのものだった。まぁ俺は高級料亭に行ったことはないし、幼馴染みの女の子なんていないが、まぁ、この感動を伝えるために適切な表現だと思ってくれれば良い。

俺は茶碗ごとバキバキと噛み壊しそうな勢いで平らげ、その美味さの余韻に浸った。そしていつのまにか、荒みきった心はツルンとした卵黄のように丸く穏やかになっていた。「他人のミスでクヨクヨ悩むことなんてやめよう。大事なのは過去じゃなくてこれからどうするかだ。」

俺は単純なので、美味いものを食べるとすぐに機嫌が良くなる。来週からは尻拭いに専念しよう。前任者の尻ッケツをきれいに拭って、お化粧まで施してやろう。それが俺の来週の仕事だ。あとはヤツがバカンスから戻ってきたら、顔面に一発キツいのをお見舞いしてやろう。それで全て丸く収まる。卵だけにな。ッハッ!!!!

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