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オンライン飲み会とワカモレ

月末最後の金曜日だ。
俺が社会人になりたての頃、
政府が「月の最後の金曜日はプレミアムフライデー」とかいう非常にバカげたキャンペーンを掲げたが、今ではそんなものは見る影もなくなっている。
そもそも月末は普通の会社であれば色々な締めの日なので、月報や棚卸しなど様々な業務があるのだ。
そんな時期に15:00に帰れる人なんて、まずいないだろう。

たぶん政治家ってのは、就職したことがないんだろうな。

プレミアム・フライデーの経験があるのならいっそこの記事にコメントしてもらいたいくらいだ。
心から愛と羨望の思いを込めて「やるじゃん」の言葉を送ろう。

今週は緊急事態宣言が解除された。
しかしこの週末、解除されたからと言ってすぐに飲みに出かけるのは浅慮だ。

少し頭が回るのならすぐにわかると思うが、この時期に外に出るのは危険だ。
今流行りの感染症は潜伏期間が長い。
症状が出ていなくても保菌している可能性は十分にあるのだ。
だが嘆かわしいことに、その回る頭が少しもない連中がたくさん蠢いているのが現在の日本であり、この週末はそんな連中があばた面を並べて酒を求めて街を闊歩するので、来週にはきっと感染者数激増のニュースでもちきりだろう。

自粛期間中はzoom飲み会が流行った。

要するにオンライン飲み会だ。
このzoomは要するにWeb会議サービスで、本来有料登録者以外は会議時間40分の制限があるが、この期間は誰でも時間無制限で使用できるらしい。
俺は流行りに乗っかるのはあまり好きじゃないが、それでも人恋しさに負けて、zoomに登録した。
孤独ってのはどうやら人を変えるらしい。
俺はこういう飲み会をするときは、
自分がいかに家飲み上級者なのかを見せつけなければいけないという使命感に駆られる。
何故なら俺は基本的にバカで見栄っ張りだからだ。
こういうときにただのポテトチップスとビールってのはいかにも一般市民その他大勢って感じがして俺は嫌だ。
それに俺は、酒が飲めない。

かといって本格的なものを調理して三つ揃いを着てオンライン飲み会に参加すると「お前なんでそんなに気合い入ってんの?」と言われ、あっという間に嘲笑の対象となってしまう。
普通の飲み会とは違う分、自分もくつろげてかつ見苦しくない格好で、酒のつまみはサラッとつくれて美味しくて見映えが良いものが良い。
宅飲みってのはその辺の絶妙なバランスを保つことが大事だと思っている。
いわゆる抜け感ってやつだな。

その日俺は、珍しくオンライン飲み会の誘いを受けた。
俺は、何か催し物を開くときは、いつも招待する方なので、滅多に声をかけられることはない。
社会人になってからは特に誘われなくなった気がする。
俺がSNSをほとんど見なくなったのは、俺抜きで行われた飲み会や旅行やパーティや結婚式などの投稿や写真を見るのが嫌いだからだ。
俺は寂しがり屋なので、自分がのけ者にされると胸が締め付けられるほどツラくなるのだ。
別に友達がいないというわけじゃない。...そう思うことにしている。

そんなわけで珍しくお誘いを受けた俺は、最高にウキウキしていた。始まるまでまだ1時間はある。
買い物に行ってから火を使う料理をするのは時間がかかりそうなのでやめておこう。
そう思い、俺は近所のコンビニみたいなスーパーで、アボカド、「レジにて30%引き」のシールが貼ってあるプチトマトのパック、新玉ねぎ、ナチョスを買った。

新玉ねぎを1/4切って粗みじんにする。
俺は毎回玉ねぎをみじん切りする度に不思議に思うのだが、なぜ料理ができる奴は素早く玉ねぎをみじん切りにできるのだろうか。
俺は玉ねぎをみじん切ろうとする度に表面がズルっと剥けて、上手にみじん切れない。何かコツがあるのだろうか。
辺りにみじん切りの出来損ないを散乱させながらなんとか粗みじんにしたら、水にさらしておく。新玉ねぎなのでまぁ10分もあれば大丈夫だろう。

新玉ねぎのエグみをとっている間、古いプチトマト(レジにて30%引き)を細かく刻む。3つも刻めば十分だ。俺は滅多に自分でプチトマトを買わないし、プチトマトがあまり好きじゃないので、残りは全部その場で食べてしまう。
何故ならもう表面が軽くブヨブヨするくらいには古くなっているし、そのままにしていたら絶対に腐らせるからだ。捨てるよりはマシだ。

アボガドをくりぬいて、刻んだプチトマトと玉ねぎと一緒に皿に入れ、フォークで潰しながら混ぜる。十分に混ざったらタバスコ、ブラックペッパー、レモン汁で味付け。
量は目分量だ。
今回はナチョスに塩味がついているので、塩は入れなかった。

ワカモレの完成だ。ナチョスにディップして食べる。途中で味に飽きたら、サルサソースを準備すると良い。
一口食べれば気分はメキシカンだ。
ポンチョとソンブレロが具現化すること間違いなしだぜアミーゴ。

そしていざオンライン飲み会へ。
おつまみ紹介タイムで俺のアミーゴにワカモレを自慢する。これでこの飲み会の目的の半分は達成した。

そして一口...悪くない。ナチョスの塩味だけじゃ塩気が足りなかったし、玉ねぎは少し入れすぎてシャリシャリしすぎてはいるが、つまみとしては合格だ。
ノンアルビールで流し込んで、下らない話に花を咲かせる。
飲み会は居酒屋でやるのが一番だが、
自分で作ったつまみを自分だけに振る舞って、画面に話しかけてたまに爆笑する。
こんな飲み会もありかもしれないな。

結局その日は夜中まで会話して、寝たのは1:00過ぎだった。
「今度は外に飲みに行こうね。」と言われて、俺は自然と顔が綻んだ。
自粛期間は長くてツラいが、その分明けたときの楽しみも増えていく。
これほどまでに未来への期待や希望が高まることは、今後の人生でもそうないだろう。
そう考えると自粛期間ってのも、案外悪くないのかもしれない。

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