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オーストリア=ハンガリー帝国が生んだカフカの孤独

皆さんこんにちは、高島健一郎です。
10/21上演のシン・リーディング・コンサート「カフカの手紙〜ウィーンの恋〜」Note連載第3回目。

今回はカフカが生きた19世紀末〜20世紀初頭のオーストリア=ハンガリー帝国に焦点を当て、その時代を帝国内のチェコ・プラハで、ドイツ語を母国語とするユダヤ人として生きたカフカの人生を辿ります。

まずはじめにオーストリア=ハンガリー帝国とはなんぞや、というお話をします。
ちょっとだけ世界史のお話になりますが、歴史を紐解いていくと現在もウィーンに流れるノスタルジックな雰囲気の正体や、この時代の作品の根っこにあるものを知る事が出来るので是非お付き合いください。

今ではヨーロッパの一小国となったオーストリアは、かつてヨーロッパの大半を支配下に治めた神聖ローマ帝国の盟主であり、ハプスブルク家が600年以上もの間統治した大国でした。

しかしフランス革命以降のナポレオンの台頭によって帝国は徐々に衰退していき、1806年に神聖ローマ帝国はみずから解体を宣言、中世から続いた長い歴史に終止符が打たれます。

その後ベルリンを首都に持つプロイセンとドイツ統一を巡る主導権争いが起こり、1866年の普墺戦争(プロイセンとの戦争)で敗れたオーストリアはドイツから除外され、1867年に現在のオーストリア、ハンガリー、チェコなどの領地にオーストリア=ハンガリー帝国が誕生する、というわけです。

カフカは1883年、このオーストリア=ハンガリー帝国内のチェコ・プラハに生まれます。
両親ともにユダヤ人で、父はチェコ語を話し、母の母国語はドイツ語でした。
カフカはオーストリア=ハンガリー帝国の公用語であるドイツ語を母国語として育ちますが、プラハにおいてはチェコ語を話す人のほうが多数派でした。

これらが何を意味するかというと、カフカはチェコ人でもドイツ人でもないユダヤ人として、チェコにおいては少数派のドイツ語を母国語として育ったため、当時のプラハにおいて圧倒的なマイノリティ(少数派)でした。

1918年に第一次世界大戦で敗戦し解体されるまでのわずか50年ほどしかないオーストリア=ハンガリー帝国という特殊な環境下で、圧倒的なマイノリティとして生きたカフカは「自分は人とは違う」、「この世界のどこにも属していない」という思いが根底にあり、それがカフカの作品の核となっています。

「変身」で虫になってしまった主人公も、他の作品の主人公も、作中の他の登場人物とは違った存在、世界で孤立した存在として描かれています。
僕はカフカの作品の根本に「自分は何者でもない」という孤独を感じます。

時代は違いますがこれに非常に近い「孤独」を音楽で表現したのがシューベルトです。
彼の晩年の最高傑作「冬の旅」の第一曲目「おやすみ」の冒頭。
Fremd bin ich eingezogen, Fremd zieh' ich wieder aus.
「私はよそ者としてやってきて、よそ者として去っていく」

カフカの晩年の最高傑作である「城」でも、主人公Kは城から仕事の依頼を受けてある村へとやって来ますが、「よそ者」であるKは村の人々に拒絶され城へ一向に辿り着けません。

そんな小説のどこが面白いんだ!と思うかもしれませんが(笑)、こういったカフカの文章から感じられる孤独は、現代を生きる人々から大きな共感を得ています。
自分が社会において周りと何か違う、馴染めない、ひとりぼっちであるかのように感じるという人は現代の日本にもとても多いように思います。

そんな人がカフカの作品を読み、孤立した主人公に共感すると、同じような孤独を感じているのは自分だけではないことを実感出来て、救われるのかもしれません。

ウィーンは孤独を感じる街です。
神聖ローマ帝国の時代から様々な民族が共存する多民族都市だったウィーンは、ある意味誰もが外からやってきた「よそ者」でした。
今でも中東をはじめとする多くの移民によって都市が形成されていますが、僕もウィーンでは外国人としてよそ者であり、街全体から孤独を感じる事がよくありました。

でも、だからこそ多くの偉大な芸術が生まれたとも言えます。
19世紀末のオーストリア・ウィーンは「世紀末ウィーン」と呼ばれ、歴史上まれにみる成熟した文化が花開き、芸術のみならずフロイトをはじめとする精神分析や心理学、ヴィトゲンシュタイン等の20世紀以降の世界に大きな影響を及す哲学も生まれました。

現在も続くウィーンを象徴するカフェ文化、クリムトやエゴン・シーレの絵画、そしてヨハン・シュトラウスやフランツ・レハール、ロベルト・シュトルツなどのオペレッタやフーゴー・ヴォルフの歌曲も、この時代に誕生しました。

次回はこの世紀末ウィーンに生まれたオペレッタや歌曲に焦点を当て、僕が専門として勉強しヨーロッパで経験を積んだこの時代の音楽の魅力について綴っていきます。

今回も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

高島健一郎

【公演概要】

シン・リーディング・コンサート 「カフカの手紙 ~ウィーンの恋~」
高島健一郎(脚本・翻訳・歌) / 藤川有樹(ピアノ) / 狩野翔(リーディング・声優)

公演日 2024年10月21日 (月)
開場 / 開演 18:30 / 19:00

会場名 すみだトリフォニーホール小ホール
住所 〒130-0013 東京都墨田区錦糸1丁目2−3

席種 全席指定
料金 前売:¥6,200(税込) 当日:¥6,500(税込)

チケット受付URL
https://eplus.jp/kafka24/







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