総合型地域スポーツクラブを行政から自立させる方法
はじめまして!上杉健太と申します。長野県の喬木村というところで、たかぎスポーツクラブ(一般社団法人)という総合型地域スポーツクラブのマネジメントをやっています。
ここでは総合型地域スポーツクラブのマネジメントの実践を通じて私なりに獲得したマネジメントのノウハウや体験談などを、読者の皆さまと共有していきたいと思います。気軽にコメントなどいただけると幸いです。
さて、初投稿となる今回は、たかぎスポーツクラブの持つユニークな事例として「地域おこし協力隊の活用」をご紹介しながら、行政主導型のクラブが住民(会員)主体になる過程をお見せしたいと思います。
地域おこし協力隊とは
地域おこし協力隊は、総務省の地方創生系の施策で、ざっくり言うと都市部の人口を地方に移すことを目的としています。
🔽地域おこし協力隊について(総務省)
行政主導の総合型地域スポーツクラブ
総合型地域スポーツクラブは、文部科学省が「全国の市町村に少なくとも1つは作る」という号令をかけたことで増えたと言われているとか、いないとか。
私がマネジメントしているたかぎスポーツクラブは、この一つです。完全に行政主導型のクラブでした。
喬木村教育委員会が「設立準備委員会」(検討委員会?)を立ち上げ、そこのメンバーは体育協会やスポーツ推進委員だったようですが、主導していたのは事務局の教育委員会。
様々な視察や検討を重ねてクラブの設立を決めましたが、クラブの目的は「幼児の運動と高齢者の運動機会の創出」のような感じでした。
これ、つまり、行政課題の解決方法としてクラブを設立したということです。
これが行政主導型のクラブの特徴だと思います。
悪いことではありませんが、本来のクラブの成り立ちからいくと歪んだ形なのかもしれません。
喬木村の選択
しかし喬木村は、この状態を良しとは考えていませんでした。いずれはクラブを行政の手から離し、自立させることを目標の一つに置いたのです。
そこでとった手法が『準アウトソーシング』的なやり方。
地域おこし協力隊に任せる
という方法です。
地域おこし協力隊とのマッチング
そこでやってきたのが私なわけですが、喬木村の場合はここのマッチングがかなり上手くいったと言っていいと思います。
ざっくり言うと、「全部自分の裁量でやりたい私」と「全部任せたい行政」がガッチリ噛み合った感じでした。
そしてさらに自立を目指す行政主導型クラブと地域おこし協力隊の相性が良いのは、地域おこし協力隊が有期契約だということです。
地域おこし協力隊は、その自治体の嘱託職員として契約を交わし、地域おこしのミッションにあたるわけですが、その契約期間は最長3年間とされています。
地域おこし協力隊は、施策の狙いを紹介した通り、その地での定住を望まれています。協力隊員もそれを望む場合、契約期間終了後は起業するなり、地域の企業に就職するなりして、収入を作っていくことになります。
よって、地域おこし協力隊員はその最長3年間の契約期間中に要するに“独立の準備をする”ということです。
この地域おこし協力隊員の課題と、自立を目指す行政主導型クラブの課題を一致させることができるんです。
喬木村の場合、地域おこし協力隊員にたかぎスポーツクラブのマネジメントを一任し、ミッションの一つに「行政主導型からの自立」を掲げました。
この課題を解決して現れるものは、「行政主導型から脱却したクラブ」と「生業を獲得した地域おこし協力隊OB」となります。
ちなみに行政主導型からの脱却が指すものは、
・クラブ運営費が行政予算に載らない(補助金は別の話)
・事務局をクラブが自前で抱える
・意思決定を完全にクラブの組織で行う
あたりかと思います。
地域おこし協力隊サイド
これを地域おこし協力隊側から見ると、やることは、
・理想のクラブ像を掲げて、作り上げていく
・望む報酬が得られるくらいの事業規模に成長させる
ということになります。
あとはその人の持つスキルや人脈をフル活用して、実行していくことになります。
はっきり言って、ビジネスマンとしてのそれなりのスキルと相当な熱量のやる気がないとできません。
🔽それは何故か
喬木村✖️上杉健太の場合
私が就任した当初のたかぎスポーツクラブは、
・設立2年目
・事務局は教育委員会
・マネジャーは教育委員会のパート職員が兼務
・長期計画なし
・収入は、村からの補助金とtoto助成金、わずかな参加料収入の約300万円
・“教室参加料”は一回181円(11回チケットが2000円)
・年間参加者数約1500人
という状態で、とても人を雇うことができるクラブではなかったし、行政の思惑とは裏腹に、クラブの役員達の間では、人を雇うクラブを目指すビジョンは全くありませんでした(汗)
この時の私の気持ちは正直、
(とはいえ、俺、もう来ちゃったしな。。。)
でした(笑)
仕方ないからそういうのは全て無視して、組織的な手続きをちゃんと踏むようにしながら、事業をどんどん作っていき、組織や運営のプチ改革を何度も繰り返し提案して実行していきました。
行政側とは課題意識が一致していましたので、大変手厚い支援をいただき、地域おこし協力隊契約期間終了後に、
・クラブ予算規模2000万円
・会員数530名
・年間参加者数約15000人
・専従マネジャー1名(=上杉)を雇用
・インストラクター、パート職員など6名雇用
まで成長することができました。
引き続き行政からの支援はいただいおりますが、行政主導からの脱却は成し遂げたと言えると思います。
ここに来るまで、ていうか今もですが、とにかく体を張らないといけませんでした。
まず事業を作るのは、企画も実行も全て自分がやります。まず活用すべき経営資源は自分だからです。要するに、それくらいの小規模クラブにマネジメントの仕事なんてほとんどないから、まず色々立ち上げないといけません。そして地域に経営資源を見つけるのは余所者にとっては簡単ではないし、新しいことをやるのはどうしても嫌われることもあるので、自分でやっちゃうのが早いし、改善行動も取りやすい。
さらに、たかぎスポーツクラブの場合は、行政主導で作り上げた基盤や仕組みがあったので、これを活用しながらも、持続可能性を高めたり、より会員の主体性を高める方向性で色々変えていきました。
特に運営委員会の在り方を変えた時には何人かの委員がやめましたし、会費の改定はたくさんの反対意見が当然出てきて苦労しました。その矢面に立つのは当然提案者の私なので、相当にメンタルが鍛えられました(笑)
目指すものがあり、やる気があり、それなりのスキルがあれば誰でもできるとは思います。
ただ私の場合は、ベネッセで働いていた時の年収の1/3(当時)の報酬でそれをやっていたのですが、さすがにそれができる人がそこまで多いとは思いません(笑)
まとめ
まとめると、行政主導型のクラブが、住民主体のクラブを目指すなら、地域おこし協力隊の活用は有効。ただし、マッチングが恐ろしいほどに重要で、誰でもできるわけではありません。やる気やビジョンを含めた能力が高い人材には任せる。逆にそこがないなら行政がそこまで主導してあげる。いや、そこまで行政が主導しないとできない人材は、この課題解決の適任者ではないから見送るべきかなとは思います。
とりあえずこの課題を持っている行政やクラブは、一つのアイデアとして「地域おこし協力隊を活用する」は持っていていいかなと思います。
【参考】
🔽たかぎスポーツクラブ
🔽喬木村
http://www.vill.takagi.nagano.jp
総合型地域スポーツのマネジメントを仕事としています。定期購読マガジンでは、総合型地域スポーツのマネジメントに関して突っ込んだ内容を毎日配信しています。ぜひご覧ください!https://note.com/kenta_manager/m/mf43d909efdb5