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松本山雅とお金

天皇杯も終わり、Jリーグとして2021年シーズンの全日程が終了。槙野選手の劇的なゴールで大分を突き放し、改めてサッカーの魅力に引き込まれる試合でもありました。

これからストーブリーグへと本格的に突入する訳ですが、2021年12月19日時点で来季の山雅の陣容としては名波監督、住田選手、二ノ宮選手のみ。
今週から一気にリリースが出てきそうな予感があります。
選手の移籍加入について切り離せないのが「お金」の問題です。
来季からJ3ということもあり、僕らの持つ資金は他クラブと比べてどれくらいの規模なのか。J3はどれくらいのお金が行き来しているのかなど、各クラブの決算公告時に出される損益計算書、貸借対照表をもとに探っていこうと思います。

まずは山雅がJ2に昇格した2012年から2020年からの営業収入を見ていくと

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サッカークラブの営業収入の内訳は、スポンサー収入、入場料収入、Jリーグ配分金、物販収入、賞金、移籍金収入などです。このうちスポンサー収入、入場料収入、放映権料(リーグ配分金)が大部分を占めると言われています。
やはり、J1を経験した2015年、2019年には大きく数字を伸ばしてして2014年→2015年は9億円強。2018年→2019年では4億円強も前年比で収入を伸ばしており、クラブにとってJ1昇格が大きな起爆剤となるのが伺えます。
逆に2019年→2020年はJ2降格+コロナ禍ということもあり、8億円近く収入を減らしています。
しかしながら、こうしてステップバイステップで成長できたのもサポーターが増えたことによる入場料の増加や地域のお力添えいただいたおかげでだと思います。

営業収入における内訳をみていくと

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単位は「百万円」です。(100=1億円)
2014年→2015年のJ1昇格が如何に大きな影響を与えたのかが数字で見て取れます。
注目するのがスポンサーからの収入が大きなウェイトを占めていて、昨年のコロナ禍でも2015年よりも大きな数字をあげられているのは、いつも支えてくださるスポンサー様営業部の血と汗と涙の結晶とも言えます。
来季の配分金に関しては、従来通りであれば降格救済配分金が支給され、前カテゴリの事業協力配分金の80%を受け取れます。J2の事業協力配分金は1.5億円なので、その80%である1.2億円が支給されることになります。来季はこのアドバンテージを活かしていきたいですね。
物販に関しては、昇格時の記念グッズによって大きく左右される傾向がありそうです。
その他に関しては、選手移籍関連収入、賞金、出場料、出演料などです。

参考にプロビンチャの先輩であるヴァンフォーレ甲府の過去5年の内訳を見ていくとこんな感じです。

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単位は「百万円」です。
コロナ禍で大きな影響を受けており、2019年→2020年での入場料は60%近く減収。物販においても苦戦が続いているように見えます。
しかし、その他の数字は増加傾向。その他には「移籍金」が含まれ、伊東純也、堀米、今津、小塚などを育て、輩出しており、高卒・大卒選手が成長できる育成クラブになっていると思います。
甲府と数字だけの比較をすると「そもそも山雅ってプロビンチャなの?」と思えてきます。

プロスポーツクラブはこれら営業収入で得た大部分は強化に回しています。
それではこれまでの山雅の人権費を見てみましょう。

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こちらも営業収入と比例するように右肩上がりの数字。
2017年には大台の10億円を突破し、15億円に迫ろうかという所で躓きました。2015年以降、降格したのにも関わらず現場に出し渋ることなく投資を出来たことが2度目の昇格に繋がったと思います。(使い方は難アリだけど)

そして、今期は神田と稲福がユースから初の直接昇格。
ここには間違いなく育成サポート会員組織「RAZUSO」の存在があります。
2021年9月9日時点で、個人会員数1,914口、法人会員数263口。個人会員数が1口3,000円なので5,742,000円。法人会員が1口10,000円なので2,630,000円。単純計算で合計8,372,000円が環境や育成の分野に投資されたことになります。
クラブガンズ会員や後援会と比べて目に見えたリターンがステッカーだけっていう、ぶっちゃけ美味しくない会員でありながらも未来に投資する方や企業がこれだけ存在することに感謝です。
2012年にはほぼ投資されていなかったアカデミーに対して、2013年の500万円から始まり、U18が大躍進した2016年には2,500万円、RAZUSOが開始された2019年には4,600万円が使われています。
RAZUSO開始年に高校2年生だった2人が成長し、最終節に稲福がピッチに立てたのは非常に意味のあるものだと思います。

喜ばしいニュースですが、山雅は来季J3で戦います。
2014年から始まったJ3リーグですが、見たことあるチーム、初顔合わせのチームなどあります。
どんな選手がいるかはさておき、J3の市場はどのような規模なのか。
まずは、J2とJ3の両方を経験したクラブのチーム人件費を見ていきましょう。

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単位は「百万円」です。
多くのクラブが2億~5億の間で彷徨いながら降格しているのに対して、山雅は前々年に10億以上のチーム人件費を要して降格した初めてのクラブと言えます。
逆に「金でJ3リーグをぶん殴れるか」というリトマス試験クラブとも言えます。

そして来季のJ3所属クラブの中で比較してもずば抜けた数字です。

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あくまで1シーズン前の数字ですが、J3界の富豪 岐阜ですら大きく突き放し、「何故落ちた?」が止まらないチーム人件費が掛かっています。
そして一番気になるのがJ2→J3の降格でチーム人件費がどれくらい変わるのかですよね。過去7シーズンにJ3降格を経験したクラブの人件費の下げ幅をJ2最終年度とJ3初年度で比較すると11%~28%くらい減少しています。
つまり来季の山雅はコロナによる影響を抜きにすると7~9億円前後のチーム人件費であることが予想できます。過去のシーズンで例えるなら2016年くらいの規模感。
ライバルになるであろう愛媛とは2倍近い差があるので、人員整理をし、名波監督の意向に沿った補強でぶっちぎりたいですね。
チーム人件費の面では何かイケそうな気がします。
しかし、サッカーはお金があれば強い訳ではなく、過去に降格していったチームだってそれなりに人件費は掛けていたものの中々昇格できません。

ここからは、一旦J3沼にハマってしまうとどうなるのか見ていきましょう。
長らく顔を見ていないクラブとして鳥取、富山があげられます。前者は2013年に、後者は2014年に降格を経験しています。その他のJ2→J3を経験した町田、栃木、熊本、北九州は3年以内にJ2復帰。讃岐は来季で3年目。鹿児島は2年目になります。
サッカー界では3年周期とよく言いますが、J3においても「3年」が1つの区切りになります。

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人件費単位は「百万円」です。
鳥取、富山ともにJ3初年度こそいい成績を残しています。
J3 2年目には昇格を狙えるかと思いきや調子を落とし、ずるずるとチーム人件費と順位が低下。4年目にはどん底を経験しています。
そしてU23のチームの参加・撤退、社長や監督交代といった何らかの影響・変化を受けて一旦V字回復を見せています。
4年目のジンクスというか、3年周期後の「魔の1年」を越えた鳥取は今年が2度目の勝負の年だった。富山は来年勝負の年を迎えます。

逆に3年周期を上手く乗り切ったのが北九州です。

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北九州はJ3 2年目を最下位で終え、大きなテコ入れを行いました。
2019年より昇格請負人 小林伸二氏を監督兼SDとして招聘。更にディサロ(現:清水)、新垣など大学リーグで活躍していた有力選手を獲得。
少ない予算ながら監督、選手が大きく変わった事により3年目の先にある崖から転げ落ちずに済みました。
1年、或いは3年以内に復帰することが出来なければチーム全体の勢いは失われ、昇格に莫大なエネルギーが必要となることが理解して頂けたと思います。

2015年の大分を皮切りに3年以内にJ2復帰するチームの前例は増えましたが、それでも難しいリーグなのは間違いありません。
北九州や熊本のように如何にクラブの蓄えている余計な脂肪を落とし、大分のように5,10年後の核となる部分を作れるか。
J3降格とはなってしまいましたが、課された難題なミッションに立ち向かうことはクラブにとって大きな財産になりそうです。

引用


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