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西吾妻山の稜線行はしんどかった話

およそ1年ぶりの山行になるだろうか。GoToトラベルを利用して白布温泉に前泊し、標高2035mの西吾妻山を歩いた。ロープウェイとリフト三つを乗り継いで、標高1819mの北望台まで一気に登れるから、歩くのは山頂までの標高差200m余りに過ぎない。その単純計算がじつは間違いのもとだった。

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深田久弥『日本百名山』によると、「一口に吾妻山と呼んでも、これほど茫漠としてつかみどころのない山もあるまい」とある。というのも、「この山群には一頭地を抜いた代表的な峰」がなく、東吾妻山、中吾妻山、西吾妻山のほか、一切経山、東大巓、西大巓など、「千九百米以上の高さを持つ峰が、十座近くも群がっている」から、最高峰の西吾妻山も飛び抜けて主峰という感じはしない。

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さらに、「人形石の峰の上に立つと、当の西吾妻山は気の遠くなるほど遥か向うにある。そこまで行く山稜は、稜線というより広大な高原で、ここへきてはじめて吾妻山西部の雄大なスケールを見た」とある記述の意味することに迂闊にも気づかなかった。山頂までの総歩行距離は6.6キロ、稜線とはいえ岩場の急な登りは、一歩の高低差が大きく、股関節の可動域が間に合わない。下りでは岩が滑りやすく、最近も転倒して救急車で運ばれた登山者がいた、と前泊した宿の人から聞かされた。

❷大凹の木道 2020-10-16 10 39 22

かもしか展望台で飯豊連峰、朝日連峰の眺望に一息ついてから、大凹の木道を快調に歩くと、岩場の急登が待っていた。這い上った梵天岩は文字どおり大岩に覆われた広場だが、ここからの眺望は素晴らしい。のんびり眺めていると、「山頂は行く?」「眺望もないし」とかという会話が聞こえて来た。すでに12時近くだから、ここでお握りを頬張って引き返すのが、リフトの最終便は15時40分だし、安心かなと一瞬頭をよぎったが、やはり山頂をこの目で確かめたいという思いは強かった。

❸梵天岩へ続く木道 2020-10-16 10 54 23

❺梵天岩からの眺め 2020-10-16 11 57 13

❼天狗岩に立つ 2020-10-16 12 29 18

長方形の岩が一帯を埋め尽くす天狗岩を越えると、あとは木道を一気呵成に進み、またまた岩場の急登を上ると、文字どおり樹林に囲まれた一画に山頂の標識が立っていた。ほかには何もないが、ともあれ吾妻連峰の最高峰に立ったのだ。居合わせた人と記念の写真を撮りあって、もと来た道を引き返した。しかし、おのれの衰えを自覚せず、足を伸ばしたツケはしんどいものだった。

❾陽も傾いて来た 2020-10-16 16 18 46

北望台に帰り着くと、最終便はとっくに出た後だ。腹を決めてリフトを見上げながら、ゲレンデを歩いて下る体たらくである。しかも、天元台高原駅に着くと周辺は真っ暗闇だ。あかりが暖かげに灯る家が一軒だけ見え、尋ねてみるとペンションである。不意の客を心よく泊めてもらい、アミティエのオーナー夫妻が奏でる生演奏を聴きながら、命びろいしたと心に謝した。


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